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追放された雑用係だけど、俺はまだ修行中だと思っている ~何も起こらないようにしているつもりなのに、周囲が勝手に勘違いしていく件~  作者: 蒼井 テンマ


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第7話 反省会をしたら、なぜか評価が上がる

 翌朝。


 冒険者ギルドの扉を開けた瞬間、俺は違和感を覚えた。


 ――静かすぎる。


 いつもなら、依頼の奪い合いだの、昨夜の酒の話だの、朝から騒がしいはずだ。

 それが今日は、やけに整然としている。


(……朝早すぎたかな)


 そう思いながら掲示板に向かうと、またしても見覚えのある紙が増えていた。


『※本日の雑用依頼は、アルト式手順を基準とする』


 ……基準。


「ミレアさん」

「は、はい!」


 呼ぶと、即座に返事が返ってくる。

 反射的すぎて、少し心配になる。


「この“基準”って……」

「ギルド内用語です! 気にしないでください!」

「もう気になってます」


 ミレアさんは一瞬視線を泳がせ、それから観念したように口を開いた。


「昨日、ギルドマスターと幹部の方たちで話し合いがありまして……」

「はい」

「“雑用の質が、冒険者の生死を左右している”って結論になりまして……」

「……そんな大げさな」

「大げさじゃないです」


 即否定された。


「実際、昨日は軽傷者がゼロでした」

「……え?」

「いつもなら、誰かしら擦り傷とか、腰を痛めたりするんですけど」


 俺は言葉を失った。


(そんなに……違うものなのか)


 俺にとっては、ただの段取りだった。

 危ないことを減らすための、当たり前の工夫。


 それだけなのに。


     *


 その日、俺は依頼を受けなかった。


 正確には、「受けさせてもらえなかった」。


「今日は、全体確認の日です」

「全体……確認?」

「はい。雑用動線と手順の再確認です」


 なぜか、ギルド内の会議室に通される。


 中には、カインさんを含む数人の冒険者。

 それに、ミレアさん。

 ギルドマスターまでいる。


(……俺、何かやらかした?)


 嫌な汗が出てきた。


「アルト」


 ギルドマスターが口を開く。


「昨日の“反省会”、聞かせてもらった」

「……え?」


 俺は固まった。


「宿で、一人でしていただろう」

「な、なんで知ってるんですか」

「……声が、廊下まで聞こえていた」


 あ。

 壁、薄かった。


 思わず顔が熱くなる。


「すみません……独り言で……」

「いや」


 ギルドマスターは、首を横に振った。


「非常に参考になった」

「……はい?」


 意味が分からない。


「君は、自分の行動を“失敗前提”で見直している」

「そうしないと、次に繋がらないので」

「普通は、“成功した理由”を振り返る」


 ……そうなのか。


 師匠は、成功した話なんて一度もしなかった。

 失敗点だけを延々と指摘された。


「君の反省内容はな」


 ギルドマスターは、低く言った。


「我々から見れば、“被害ゼロを前提にした改善案”だ」

「……?」


「つまり」


 カインさんが、頭を掻きながら続ける。


「俺たちが“できてよかった”と思ってるところを、

 お前は“まだ足りない”って言ってる」


 ……当たり前じゃないか。


「足りてないなら、直さないと」

「そこが異常なんだ」


 はっきり言われた。


     *


 会議は、俺の想定とは全く違う方向で進んだ。


「危険箇所の事前共有」

「新人への初動指示」

「撤退基準の明文化」


 俺が何気なく言った反省点が、

 次々と板書されていく。


「ちょ、ちょっと待ってください」

「何だ?」

「それ、俺の反省であって、正解じゃないです」

「正解だ」


 即答。


「むしろ、今まで誰も考えていなかった視点だ」


 ……そんなこと、ある?


 俺は困惑しながらも、言った。


「俺、ただ……」

「ただ?」

「失敗したくないだけです」

「それが一番、難しい」


 誰かが、ぽつりと呟いた。


     *


 昼過ぎ。


 会議が終わり、解放される。


 どっと疲れた。


(今日は雑用、できなかったな……)


 少し残念に思っていると、ミレアさんがそっと声をかけてきた。


「アルトさん」

「はい」

「……その、ありがとうございます」

「何がですか?」

「ギルドの空気が、変わりました」


 彼女は、少しだけ目を伏せる。


「無茶をする人が減ったんです」

「……それは、よかった」


 本心だった。


     *


 夕方、街を歩く。


 ふと、酒場の前を通りかかった。


 中から、聞き覚えのある声が聞こえる。


「――だからよ、あの雑用係」

「噂になってるな」

「自分のこと、全然評価してねぇらしい」


 ……やめてほしい。


 足早に通り過ぎようとした、その時。


「だがな」


 別の声が言った。


「本物は、そういうもんだ」


 胸の奥が、少しだけざわついた。


     *


 宿に戻り、また反省会をする。


(今日は、会議で余計なことを言いすぎた)

(もう少し、黙っていればよかった)

(目立つと、雑用しづらくなる)


 ため息をつく。


(……反省点、多いな)


 その頃。


 ギルドでは、別の評価が固まりつつあった。


「アルトは、“基準”だ」

「戦わずに、全体を生かす男」

「前に出ないからこそ、全体が見えている」


 誰も、本人の反省など気にしていない。


     *


 俺は布団に潜り込み、小さく呟いた。


「明日は……ちゃんと、静かに雑用しよう」


 その決意が、

 なぜか一番、周囲をざわつかせる。


 そんな予感だけが、胸に残っていた。


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