第28話 会いたくなかった顔
王都学院の中庭は、昼前になると人通りが増える。
訓練生、職員、雑用係。
それぞれがそれぞれの目的で行き交い、ぶつからないように自然と避け合う。
(……落ち着いてるな)
俺は、そんなことを思いながら歩いていた。
*
「アルトさん」
後ろから声をかけられ、振り返る。
そこにいたのは、学院の門番だった。
「少し、よろしいですか」
「はい?」
門の方を指差される。
「面会希望の方がいまして」
「面会……?」
心当たりは、ない。
*
門の前。
見覚えのある背中が、五つ。
焚き火。
雨。
ぬかるんだ地面。
一瞬で、記憶が蘇る。
(……あ)
《雷光の五人》。
元パーティ。
*
最初に気づいたのは、ガルムだった。
「……アルト」
剣士の顔に、驚きと戸惑いが混じる。
他の四人も、こちらを見る。
一瞬、空気が止まった。
*
「久しぶりだな」
声をかけたのは、エリオだった。
だが、どこか硬い。
「……久しぶり」
それだけ返す。
何を言えばいいのか、分からなかった。
*
「ここにいるって、聞いてな」
リーナが、視線を逸らしながら言う。
「学院で……雑用、してるんだろ?」
「うん」
それ以上、言いようがない。
*
沈黙。
五人のうち、誰も笑っていない。
昔のような、軽さがない。
*
「……謝りに来た」
ガルムが、低い声で言った。
「俺たちは」
「……」
言葉が、続かない。
「アルトを、追い出した」
「雑用だって、馬鹿にした」
拳を、強く握る。
「間違ってた」
*
胸の奥が、少しだけ痛んだ。
だが、怒りは湧かなかった。
ただ、困った。
「……俺」
「うん」
「今、雑用してるから」
それしか、言えなかった。
*
「戻ってきてほしい」
誰かが、そう言った。
エリオだったか、リーナだったか。
分からない。
だが、その言葉に、はっきり答えなきゃいけないと思った。
*
「ごめん」
俺は、首を振った。
「今は、無理」
「……そうか」
ガルムは、苦く笑った。
「だよな」
*
「俺たち」
リーナが、静かに続ける。
「アルトがいなくなってから、分かった」
「何が?」
「……何も起きなかった理由」
それを聞いて、少しだけ息を吐いた。
*
「でも」
俺は、ゆっくり言った。
「俺がいたから、強かったわけじゃない」
「……」
「皆が、強かった」
それは、本心だ。
*
しばらく、誰も話さなかった。
やがて、エリオが頭を下げる。
「……時間、もらっていいか」
「何の?」
「整理する時間」
俺は、頷いた。
「うん」
*
《雷光の五人》は、そのまま引き下がった。
引き留める人も、止める人もいない。
*
その様子を、少し離れた場所から見ていた人物がいる。
レオン=フェルディスだった。
(……やはり)
彼は、静かに考える。
(彼は、“奪い合い”を生まない)
(だが、“依存”を残す)
*
夕方。
俺は、いつも通り倉庫を見て回った。
(……変な一日だったな)
配置は、問題なし。
通路も、確保されている。
雑用としては、完璧だ。
*
夜。
宿での反省会。
(元パーティと会った)
(少し、気まずかった)
(でも……怒らなかった)
紙に書いて、少し考える。
(俺、もう前とは違うんだな)
*
同じ夜。
《雷光の五人》の宿。
「……どうする?」
「分からない」
ガルムが、ぽつりと言う。
「だが、一つだけ分かった」
「何だ?」
「アルトは、もう“戻る場所”を探してない」
*
俺は、布団に入り、目を閉じた。
「……明日も、雑用だな」
会いたくなかった顔。
でも、会ってしまった。
それでも、日常は続く。
世界が少しずつ動いていることを、
俺だけが、まだ気づかないまま。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




