第27話 安定しすぎている、という報告
王都の外れ。
薄暗い会議室に、数人の影が集まっていた。
地図が広げられ、石の重しが置かれている。
「……報告は以上だ」
低い声が、空間に響く。
*
「王都周辺の混乱率、低下」
「冒険者の消耗、減少」
「事故件数、想定値以下」
報告を受けていた男が、眉をひそめた。
「……おかしいな」
「何がです?」
部下が、慎重に聞き返す。
「人が増えれば、必ず乱れる」
「それが、王都という場所だ」
「はい」
男は、地図の一点を指で叩いた。
「だが、ここだけは違う」
「“起きるはずの問題”が、起きていない」
*
別の影が、口を開く。
「防衛強化の兆候はありません」
「新兵器も、魔術改修もなし」
「結界の更新も、通常範囲」
なら、なぜ。
*
「……人だな」
男は、短く結論づけた。
「人?」
「“何かをしている人間”ではない」
少し間を置く。
「“何も起こらない状態を作っている人間”だ」
空気が、わずかに張りつめた。
*
「心当たりは?」
「あります」
若い報告役が、資料を差し出す。
「王都冒険者ギルド、及び王都学院」
「共通して名前が上がる人物が一名」
紙の中央に、名前が書かれている。
『アルト・レイン』
*
「……戦闘記録は?」
「目立ったものはありません」
「討伐実績は?」
「平均以下です」
男は、鼻で笑った。
「なら、なぜ名前が出る」
「“関わった現場で、問題が起きない”とのことです」
「……それだけ?」
報告役は、少し迷ってから続ける。
「本人は、雑用係を自称しています」
「雑用?」
場の空気が、微妙に歪む。
*
「危険視すべきか?」
「現時点では、戦力ではありません」
「だが――」
別の影が、静かに言う。
「“崩せない環境”を作る存在は、
戦力以上に厄介です」
男は、しばらく黙り込んだ。
*
「……観測を続けろ」
「排除は?」
「不要だ」
即答だった。
「今は、“何もしない”ことが最適解だ」
「了解」
*
同じ頃。
王都学院では、別の会話が交わされていた。
「外部からの視線が、増えています」
レオン=フェルディスが、静かに言う。
「どの程度だ?」
「明確な敵意はありません」
「ですが、“異常値”として見られています」
ギルドマスターが、腕を組む。
「……やはり、気づかれたか」
*
「アルト本人には?」
「伝えていません」
「当然だな」
誰も、異論はなかった。
*
その日の夕方。
アルトは、いつも通り学院に顔を出していた。
「おはようございます」
「おはよう」
挨拶を交わし、倉庫を歩く。
通路は確保されている。
配置も、安定している。
(……問題なし)
それを確認して、少し安心する。
*
その背後で。
世界の外側が、
この“問題のなさ”を、
ようやく異常として認識し始めていることを。
アルトは、まだ知らない。
ただ、いつも通り思っただけだ。
「……今日も、雑用だな」
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