第24話 できる人ほど、真似をしようとする
王都学院に通う四日目。
朝の倉庫は、昨日よりさらに静かだった。
(……静かすぎないか)
人はいる。
だが、動きが慎重すぎる。
箱を持ち上げる前に、必ず周囲を見る。
一歩進む前に、誰かと目線を交わす。
安全ではある。
だが、どこか不自然だ。
*
「アルトさん」
選抜された五人のうちの一人、補助員の女性が声をかけてきた。
「今の配置、どう思いますか」
「問題ないと思います」
「……本当に?」
念押しされる。
「大丈夫ですよ」
「……はい」
だが、彼女は動かない。
(……俺の返事、待ってるな)
*
訓練場でも、同じだった。
片付けが始まらない。
全員が、俺を見る。
「……どうしました?」
「いえ、その」
「始めていいですよ」
その一言で、ようやく動き出す。
(……これ、良くない)
*
昼前。
レオン=フェルディスが、状況を確認しに来た。
「様子はいかがですか」
「……皆さん、優秀です」
「ですが?」
すぐに察された。
「俺を見すぎてます」
「でしょうね」
レオンは、落ち着いて言った。
「できる人ほど、
“正解を外したくない”ものです」
「……」
それは、分かる気がした。
*
「特に」
彼は続ける。
「あなたが“外さない”と知っている場合は」
嫌な話だ。
*
午後。
俺は、あえて動きを変えた。
いつもなら止まる場所を、通り過ぎる。
逆に、何もなさそうな場所で止まる。
「……え?」
選抜組が、戸惑う。
「ここ、何かありますか?」
「……特に、ないです」
「じゃあ、進みましょう」
わざと、曖昧にする。
*
すると。
「今のは……?」
「通路?」
「いや、違うか」
彼らが、自分で考え始めた。
少しだけ、空気が変わる。
*
小さな事故未遂。
軽い箱が、足元に転がる。
「危ない!」
選抜組の一人が、即座に声を上げた。
俺より早い。
皆で止め、事なきを得る。
(……よし)
*
作業後。
「今の判断、どうでしたか」
俺が聞くと、彼らは顔を見合わせた。
「正解かは……分かりません」
「でも、危ないと思いました」
「だから、止めました」
それでいい。
「それで十分です」
俺は、そう言った。
*
レオンは、その様子を遠くから見ていた。
(……やはり)
彼の中で、仮説が一つ、確信に近づく。
*
夕方。
簡単な振り返り。
「今日は、どうでしたか」
選抜組の一人が、恐る恐る言った。
「……アルトさん」
「はい」
「正解を教えてもらえない方が、
考えるようになる気がします」
俺は、少し驚いた。
「そうですか」
「はい」
それが、今日一番の成果だった。
*
宿での反省会。
(今日は、わざと曖昧にした)
(不安にさせたかもしれない)
(でも、考えてくれた)
紙に書いて、少しだけ満足する。
(……雑用係、育てるの大変だ)
*
その夜。
王都学院の会議室。
「報告」
「選抜組、判断力向上」
「依存度、わずかに低下」
レオンは、静かに言った。
「兆候はある」
「何の?」
「“自立”の」
だが、最後にこう付け加える。
「ただし――」
「?」
「アルト本人がいる限り、
完全な代替は起きません」
*
俺は布団に入り、天井を見上げた。
「……できる人ほど、難しいな」
真似をしようとする。
正解を探そうとする。
それを、どう手放させるか。
雑用係の修行は、
思ったより奥が深かった。
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