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追放された雑用係だけど、俺はまだ修行中だと思っている ~何も起こらないようにしているつもりなのに、周囲が勝手に勘違いしていく件~  作者: 蒼井 テンマ


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20/21

第20話 雑用係として、忙しくなってきた

 朝、冒険者ギルドに入った瞬間、俺ははっきりと理解した。


(……仕事、増えてるな)


 掲示板の雑用依頼は、相変わらず少ない。

 だが、その横に貼られた紙の量が、明らかに増えている。


『事前相談:可』

『確認のみ:短時間』

『立会い不要(判断のみ)』


 ……判断?


(雑用って、こんな名前だったっけ)


 首をかしげていると、ミレアさんが近づいてきた。


「おはようございます、アルトさん」

「おはようございます。あの……」

「今日も、相談が多いです」

「やっぱりですか」


 ため息が出そうになる。


     *


 最初の相談は、倉庫担当の職員だった。


「この配置で、問題ありませんか?」

「通路は確保されてますし、大丈夫だと思います」

「念のため、もう一度見てもらえますか?」


 念のため。

 最近、よく聞く言葉だ。


 次は、騎士団の下士官。


「訓練後の片付けで、人が詰まりやすくて」

「出口を一つ減らすと、逆に流れます」

「……そういう考え方があるのか」


 最後は、冒険者。


「この依頼、危険そうですか?」

「……雑用の範囲なら、大丈夫だと思います」

「アルトが言うなら」


 その言葉に、胸が少しだけ重くなった。


     *


 昼前には、相談が十件を超えていた。


 実際の雑用は、ほぼゼロ。

 歩いて、見て、答えるだけ。


(……忙しいのに、体は楽だな)


 だが、頭は休まらない。


     *


 昼過ぎ。


 ギルドマスターに呼ばれた。


「アルト」

「はい」


「最近、“依頼”と“相談”の区別が曖昧だ」

「……はい」

「だが、現場は助かっている」


 それが、一番困る。


「君の関与が、

 “安全確認”として機能している」

「俺、雑用係ですよ?」

「そうだ」


 ギルドマスターは、静かに言った。


「だからこそ、だ」


     *


 午後、ギルドの奥で、小さな話し合いがあった。


 ミレアさん、カインさん、ギルドマスター。

 それに、見慣れない男が一人。


 落ち着いた雰囲気の、理知的な青年だ。


「初めまして」


 彼は、丁寧に頭を下げた。


「レオン=フェルディスと申します」

「……アルトです」


 初対面だ。


「王都学院で、実務と安全管理を担当しています」

「学院……?」


 嫌な予感がした。


     *


 レオンさんは、穏やかな口調で続ける。


「最近、王都全体で事故率が下がっています」

「そうなんですか」

「はい。その中心に、あなたがいる」


 はっきり言われると、困る。


「そこで、お願いがあります」

「……何でしょう」

「学院の倉庫と訓練施設で、

 “雑用指導”をしていただけませんか」


 雑用指導。


 聞き慣れた言葉のはずなのに、

 なぜか重く聞こえた。


     *


 俺は、少し考えた。


「人手不足、なんですか?」

「ええ。深刻です」


 即答だった。


「なら……」

「引き継ぎ、という形で」

「……それなら」


 俺は、ゆっくり頷いた。


「雑用なら、できます」

「助かります」


 レオンさんは、心底安心した顔をした。


     *


 会話を聞いていたカインさんが、ぽつりと言う。


「……本人、何も分かってないな」

「え?」

「いや、独り言だ」


     *


 夜。


 宿で反省会。


(今日は、相談が多すぎた)

(でも、断れなかった)

(学院の件……大丈夫かな)


 紙に書いて、しばらく考える。


(……雑用、忙しくなってきたな)


 それが、今日の結論だった。


 だがその裏で。


 ギルド、騎士団、学院の間で、

 静かな“取り合い”が始まっていることを。


 俺は、まだ知らない。


 ――第1章・フェーズ2、完。


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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