第20話 雑用係として、忙しくなってきた
朝、冒険者ギルドに入った瞬間、俺ははっきりと理解した。
(……仕事、増えてるな)
掲示板の雑用依頼は、相変わらず少ない。
だが、その横に貼られた紙の量が、明らかに増えている。
『事前相談:可』
『確認のみ:短時間』
『立会い不要(判断のみ)』
……判断?
(雑用って、こんな名前だったっけ)
首をかしげていると、ミレアさんが近づいてきた。
「おはようございます、アルトさん」
「おはようございます。あの……」
「今日も、相談が多いです」
「やっぱりですか」
ため息が出そうになる。
*
最初の相談は、倉庫担当の職員だった。
「この配置で、問題ありませんか?」
「通路は確保されてますし、大丈夫だと思います」
「念のため、もう一度見てもらえますか?」
念のため。
最近、よく聞く言葉だ。
次は、騎士団の下士官。
「訓練後の片付けで、人が詰まりやすくて」
「出口を一つ減らすと、逆に流れます」
「……そういう考え方があるのか」
最後は、冒険者。
「この依頼、危険そうですか?」
「……雑用の範囲なら、大丈夫だと思います」
「アルトが言うなら」
その言葉に、胸が少しだけ重くなった。
*
昼前には、相談が十件を超えていた。
実際の雑用は、ほぼゼロ。
歩いて、見て、答えるだけ。
(……忙しいのに、体は楽だな)
だが、頭は休まらない。
*
昼過ぎ。
ギルドマスターに呼ばれた。
「アルト」
「はい」
「最近、“依頼”と“相談”の区別が曖昧だ」
「……はい」
「だが、現場は助かっている」
それが、一番困る。
「君の関与が、
“安全確認”として機能している」
「俺、雑用係ですよ?」
「そうだ」
ギルドマスターは、静かに言った。
「だからこそ、だ」
*
午後、ギルドの奥で、小さな話し合いがあった。
ミレアさん、カインさん、ギルドマスター。
それに、見慣れない男が一人。
落ち着いた雰囲気の、理知的な青年だ。
「初めまして」
彼は、丁寧に頭を下げた。
「レオン=フェルディスと申します」
「……アルトです」
初対面だ。
「王都学院で、実務と安全管理を担当しています」
「学院……?」
嫌な予感がした。
*
レオンさんは、穏やかな口調で続ける。
「最近、王都全体で事故率が下がっています」
「そうなんですか」
「はい。その中心に、あなたがいる」
はっきり言われると、困る。
「そこで、お願いがあります」
「……何でしょう」
「学院の倉庫と訓練施設で、
“雑用指導”をしていただけませんか」
雑用指導。
聞き慣れた言葉のはずなのに、
なぜか重く聞こえた。
*
俺は、少し考えた。
「人手不足、なんですか?」
「ええ。深刻です」
即答だった。
「なら……」
「引き継ぎ、という形で」
「……それなら」
俺は、ゆっくり頷いた。
「雑用なら、できます」
「助かります」
レオンさんは、心底安心した顔をした。
*
会話を聞いていたカインさんが、ぽつりと言う。
「……本人、何も分かってないな」
「え?」
「いや、独り言だ」
*
夜。
宿で反省会。
(今日は、相談が多すぎた)
(でも、断れなかった)
(学院の件……大丈夫かな)
紙に書いて、しばらく考える。
(……雑用、忙しくなってきたな)
それが、今日の結論だった。
だがその裏で。
ギルド、騎士団、学院の間で、
静かな“取り合い”が始まっていることを。
俺は、まだ知らない。
――第1章・フェーズ2、完。
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