第18話 元パーティの異変
雷鳴が、遠くで鳴っていた。
《雷光の五人》が拠点として使っている野営地。
焚き火を囲んでいるのは、かつて俺が一緒にいた仲間たちだ。
「……また、失敗か」
剣士のガルムが、苛立った声を漏らす。
地面には、崩れた荷箱。割れた薬瓶。
「撤退判断が遅れた」
「いや、補給が雑すぎる」
「誰が荷の配置決めたんだ?」
言い合いが始まり、空気が荒れる。
*
最近、《雷光の五人》は調子が悪かった。
戦闘力は変わらない。
個々の実力も、むしろ上がっている。
それなのに。
「……無駄に消耗してる」
魔導士のリーナが、額を押さえた。
「戦闘前に疲れてる」
「戦闘後の整理が遅い」
「撤退路、毎回バタつく」
細かいズレ。
だが、それが積み重なっていた。
*
「昔は、こんなことなかったよな」
斥候のエリオが、ぽつりと言う。
全員が、一瞬だけ黙る。
思い出したのは、同じ人物だった。
「……アルト」
誰かが、名前を口にした。
「雑用係の、か?」
「いや……」
ガルムは、言い淀む。
「“雑用”って言ってたけどさ」
「今思えば、全部整ってたよな」
焚き火が、ぱち、と音を立てた。
*
別の日。
討伐依頼の帰り道。
雨が降り始め、足場が悪くなる。
「先に休憩入れるか?」
「いや、行ける」
「……本当に?」
判断が割れた。
結局、進んだ結果――
ぬかるみで転倒。
軽傷者が出る。
「……ちくしょう」
ガルムが、歯噛みする。
「昔なら、止められてた」
「誰に?」
「……分かってるだろ」
*
その夜。
リーナが、地図を広げながら言った。
「アルトがいた頃」
「戦闘以外で、困った記憶が少ない」
「準備、補給、撤退……全部」
エリオが、ため息をつく。
「俺たち、あいつのこと」
「足手まといだって……」
言葉が、途切れた。
*
沈黙の中、ガルムが立ち上がる。
「……認めよう」
「認める?」
「あいつがいないと、
俺たちは“雑”になる」
悔しそうに、拳を握る。
「強いのは、俺たちだ」
「だが、“安定”は、あいつだった」
*
同じ頃。
王都の冒険者ギルドでは、
別の報告が上がっていた。
「《雷光の五人》、最近ミスが多い」
「補給トラブル、撤退遅延」
「戦闘以外での消耗が目立つ」
ギルドマスターは、書類を閉じる。
「……比較対象が、はっきりしたな」
*
一方の俺。
その日の雑用は、静かなものだった。
資料室の整理。
棚を整え、本を並べ替える。
(……落ち着く)
そんなことを思いながら、作業を続ける。
元パーティのことなど、
頭の片隅にも浮かんでいなかった。
*
夜、宿での反省会。
(今日は、特に問題なし)
(静かに終わった)
(こういう日が一番いい)
そう書いて、紙を畳む。
同じ夜。
《雷光の五人》の野営地では、
重い決断が下されていた。
「……アルトを、探そう」
「謝るのか?」
「分からない」
だが、一つだけは全員一致だった。
「“雑用”だと思っていたものが、
一番大事だった」
*
俺は布団に入り、目を閉じた。
「明日も……雑用だな」
その静かな日常が、
過去と、これからをつなぐ引き金になることを。
俺は、まだ知らなかった。
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