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追放された雑用係だけど、俺はまだ修行中だと思っている ~何も起こらないようにしているつもりなのに、周囲が勝手に勘違いしていく件~  作者: 蒼井 テンマ


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第1話 追放された雑用係、当然だと思う

※この物語は、

「自分では役に立っていないと思っている主人公」と

「勝手に深読みしていく周囲」のズレを楽しむお話です。


派手な覚醒や俺TUEEEは少なめですが、

代わりに「え、そこ?」というところで評価が積み上がっていきます。


静かに働きたい主人公と、

それを許してくれない世界の勘違いを、

肩の力を抜いて楽しんでいただけたら嬉しいです。

 ――追放である。


「アルト、お前はもう必要ない。今日限りでパーティを抜けろ」


 夕暮れの野営地。焚き火の火花がぱちりと弾けた瞬間、勇者役のレオンがそう告げた。

 俺は、ああ、と頷いた。


「うん。だよね。……今までありがとう」


 自分でも驚くほど、声は平坦だった。

 胸の奥が少しだけきしむ。でも、どこかで覚悟していた。


「待って、アルト……! 本気で言ってるの?」魔導士のアイリスが眉をひそめる。

「本気だよ」レオンが言い切る。「戦力になってない。戦場で迷惑なんだ」


 戦力。

 その言葉が、焼けた鉄みたいに喉に引っかかる。


 俺は荷物持ち。テント張り。鍋担当。矢の回収。傷薬の調合。夜警の交代要員。

 たまに回復と補助もするけど、正直、全然追いつけていない。


 だって、ここは《雷光の五人》だ。

 王都が公式に“魔王討伐候補”と認定した、化けもの集団。


 レオンは剣を振るだけで雷を落とす。

 アイリスは詠唱の途中で次の術式を組み立てている。

 前衛のグランは「鎧? 邪魔だろ」と言って薄着で魔獣の爪を弾く。

 そして回復役のシスター・リュカは、祈りながら寝ても傷が閉じる。


 ……俺だけが、普通。


「お前がいると、俺たちのテンポが崩れる」グランが腕を組み、鼻で笑った。

「足を引っ張るくらいなら、街に帰って雑用でもしてろ」


 雑用でも。

 ……うん、それがいい。


「分かった。俺、帰るよ。装備はこれだけ持っていっていい?」


 俺が自分の小さな袋を指さすと、アイリスが口を開けたまま固まった。


「え、ちょっと……反論しないの? 悔しくないの?」

「悔しいよ。でも、事実だし」


 俺は笑おうとして、うまく笑えなかった。

 言葉にすると、胸の奥で何かがぱきりと割れる音がする。


 でも、反論できない。

 できるわけがない。


 俺は、ずっと足りなかった。


 師匠の顔が浮かぶ。

 山奥の小屋で、木剣を握らされた日々。


『いいかアルト。基礎ができない奴は前に出るな』

『回復は“遅い”だけで人が死ぬ。呼吸を整えろ』

『補助は一秒遅れたら意味がない。考えるな、先に動け』


 師匠はいつも言っていた。

 “できて当たり前”だと。


 俺は必死にやってきた。

 けど、このパーティに来て、毎日思い知らされた。


 ――俺は、半人前どころか、まだ入口だ。


「……アルト」


 リュカが祈るみたいに手を胸の前で組む。優しい人だ。

 きっと、俺が抜けても彼女は回復できる。いや、元々ほとんど彼女が全部やっていた。


「街までの路銀、これを」リュカが小さな革袋を差し出した。

「いいよ。貯めてたし」

「受け取って。あなたの分」


 断りきれず、受け取る。

 袋は思ったより重かった。


 ……余計に、きしむ。


 レオンが咳払いをした。

「これで決まりだ。アルト、明日の朝には別行動にしてくれ。……その、悪く思うな」

「うん。ありがとう。レオン、魔王討伐、頑張って」


 俺がそう言うと、グランがまた鼻で笑った。

「お前に心配される筋合いはねえよ」


 その通りだ。


 俺は焚き火から少し離れ、荷物をまとめ始めた。

 手が慣れた動きで動く。結び目を解き、布を畳み、道具を整える。


 ……こういうことだけは、上手いんだ。


 背中から、言い争う声が聞こえる。


「本当に追い出すの? アルトがいないと、細かい準備が……」

「準備は俺たちでやれる。戦闘中に“置いていかれる奴”がいる方が問題だ」

「でも、あの回復、変じゃない? たまに、私の詠唱より早い時が……」

「気のせいだよ。アルトは凡人だ」


 凡人。

 その言葉に、なぜか少し救われた。


 ……そうだよな。凡人は、凡人の場所で生きればいい。


 夜が更け、俺は野営地の端で横になった。

 眠れるはずがないと思ったのに、身体は疲れていたらしい。

 目を閉じると、闇がじわじわ染みてくる。


 翌朝。

 空が白む前に起きて、焚き火の跡を片付け、水を汲み、簡単な朝食を用意した。

 癖だ。最後くらい、迷惑を残したくない。


 皆が起き出してきた頃、俺は袋を背負った。


「じゃあ、行くね」


 レオンは視線を逸らし、アイリスは唇を噛み、グランは無言で腕を組んだまま。

 リュカだけが、小さく頭を下げた。


「神の加護が、あなたにありますように」

「ありがとう」


 俺は森道へ歩き出した。


 背中に視線が刺さっている。

 けれど、振り返らなかった。


 ――振り返ったら、泣いてしまう気がしたから。


     *


 正午過ぎ、街道に出る。

 王都へ向かう本流から外れた小さな道。商隊が通るには細いが、徒歩なら十分だ。


 途中、馬車が転倒しているのが見えた。

 車輪が石に乗り上げたらしい。荷台が傾き、荷物が散らばっている。


「……大丈夫ですか?」


 声をかけると、御者の中年男が振り向き、青い顔で叫んだ。


「助けてくれ! 娘が……馬車の下に足が挟まってる!」


 俺は駆け寄る。

 馬車の影で、小さな女の子が泣きながら足を押さえていた。

 木材がくい込み、赤い染みが広がっている。


 まずい。

 止血が遅れたら、命に関わる。


「動かないで。すぐ……」


 俺は膝をつき、呼吸を整えた。

 師匠の声が、頭の中で鳴る。


『回復は遅いだけで人が死ぬ。呼吸を整えろ』


 俺は指先を女の子の足に触れ、短く言葉を紡ぐ。


「――癒し、つなげ」


 淡い光が、指先から滲んだ。

 血が止まり、裂けた皮膚がじわりと寄っていく。


「……え?」


 御者が目を見開く。

 女の子も、涙が止まったまま口をぽかんと開けた。


 しまった。

 今の、ちょっと……早すぎたかも。


 師匠の基準だと“まだ遅い”けど、普通の人から見たら、変に見えるのかもしれない。


「だ、大丈夫。応急処置だよ。あとは街でちゃんと診てもらって」


 俺はそう言いながら、馬車の下に回り込み、木材をどけようと手をかけた。

 重い。普通なら数人必要だ。


 ……でも、やらないと。


 俺は腰を落として、息を吐き、持ち上げた。


 ぎ、と木が鳴り、馬車が少し浮く。

 御者が慌てて娘を引き抜いた。


「う、浮いた……?」

「い、今の……一人で……?」


 まずい。

 またやりすぎた。


 俺は咳払いして、何でもない顔を作る。


「えっと、持ち上げる“コツ”があるんだ。てこの原理、みたいな」


 全然てこ使ってないけど。

 でも、そう言っておけば納得するだろう。


 御者は震える手で娘を抱きしめ、俺に頭を下げた。


「恩人だ……! あんた、名は!?」

「アルト。通りすがりだよ」

「通りすがりでこんな……! お礼を――」

「いいよ。俺、まだ修行中だから」


 そう言ってしまってから、内心で首を傾げた。

 修行中って、今さら誰に言い訳してるんだろう。


 でも、口をついて出た言葉は本心だった。


 俺はまだ、全然足りない。

 だから、できることをやるだけだ。


 御者が何か言いかけたその時――


 街道脇の藪が、ざわりと揺れた。


 低い唸り声。

 獣の匂い。

 金属を削るような気配。


 俺は反射的に前へ出る。

 御者と娘を背にかばいながら。


 藪から現れたのは、黒い毛並みの魔獣だった。

 狼に似ているが、目が赤く、牙が異様に長い。


「……街道に出るなんて、聞いてないぞ」


 御者が息を呑む。

 普通の狼じゃない。魔獣だ。


 俺は木剣――いや、荷物の中の短い棒を握った。

 本物の武器じゃない。雑用用の棒だ。


 ……でも。


 師匠の声がまた響く。


『基礎ができない奴は前に出るな』


 俺は、前に出る器じゃない。

 だから、これは前衛じゃない。

 ただの――危ない雑用だ。


「大丈夫。下がって」


 俺はそう言って、一歩だけ踏み出した。


 魔獣が跳ぶ。

 牙が迫る。


 俺は棒を――“ちょっとだけ”振った。


 鈍い音。

 魔獣は空中で回転し、そのまま道端の木に突き刺さるように倒れた。

 地面が小さく揺れ、鳥が一斉に飛び立つ。


 ……あ。


 今の、やりすぎた。


 御者は言葉を失い、娘は目を丸くしている。


 俺は慌てて棒を背に隠し、咳払いした。


「ほ、ほら。たまたま急所に当たったんだ。運が良かった」


 自分でも苦しい言い訳だと思った。

 でも、御者はその場にへたり込み、震える声で呟いた。


「う、運……? いや……あんた……いったい……」


 俺は笑ってごまかし、街道の先を指さした。


「街まで案内するよ。歩ける? 無理なら休みながら行こう」


 御者は何度も頷き、娘は俺の袖を小さく掴んだ。


「おにいちゃん……つよいの?」

「いや、全然。俺は雑用だから」


 そう答えると、娘は首をかしげて、でも笑った。


「へんなの」


 ……うん。へんだよな。


 俺は空を見上げた。

 雲がゆっくり流れている。


 街に着いたら、仕事を探そう。

 雑用ならいくらでもある。

 俺にできるのは、それだけだ。


 ――そのはずなのに。


 街道の向こうから、何人もの騎士が馬で駆けてくるのが見えた。

 先頭の旗に、王都の紋章が翻る。


 御者が青い顔で言った。


「き、騎士団……? な、なんでこんなところに……」


 騎士たちの視線が、一直線に俺へ向いた。


 嫌な予感がした。


 先頭の騎士が馬を止め、兜を外す。

 鋭い目の若い騎士だった。


「あなたが……アルト・レインか?」


 俺は固まった。


「え? ……はい。そうだけど」


 若い騎士は、喉を鳴らして唾を飲み込み――

 信じられないものを見る目で、言った。


「王都より通達だ。あなたを“特別監督下”で保護する。……抵抗は、しないでいただきたい」


 ……保護?

 監督下?


 俺は思わず、御者の方を見た。

 御者は顔面蒼白で、娘はきらきらした目で俺を見上げている。


 俺は頭を抱えたくなった。


「えっと……俺、ただの雑用なんだけど……?」


 騎士は、なぜかもっと青ざめた。


「……やはり。噂は本当か。『自分を雑用と偽る、無名の英雄』……」


 ――誰だそんな噂を流したのは。


 俺は、今日だけで何回目か分からないため息を飲み込んだ。


(俺、街に着けるのかな……)


 追放されたはずの俺の旅は、どうやら“普通”では終わらないらしい。


ここまでご覧いただきありがとうございます。


当面の間は、1日に3話を投稿予定です。


ブックマークをして、続きを楽しみにお待ちいただけると嬉しいです。

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