表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

サボり魔の俺と、クラス委員長

掲載日:2026/02/01

 現在は九時五十分頃、二時間目の数学が始まったばかりだ。

 本来は席につき、授業を受けるべきだと思うが、担当の教師がだるいのでいつもサボっている。


 そして今日も屋上でいつも通りサボるはずだった。……なのだが、予想外のことが起きてしまった。


 霜凪朝梨(しもなぎあさり)。文武両道、才色兼備、クラス委員長であるこいつが俺の隣に座っているのだ。

 そして——


「風が気持ちいいですねぇ」


 

 なぜか一緒にサボっている。

 

 

 こいつとは別に仲がいいわけじゃない。そもそも俺には友達と呼べる奴がいないので当たり前なのだが……。

 横目で見ると、長い黒髪を揺らしながら、のんびりと鼻歌を歌っている。背筋をピンと伸ばし、制服にはしわ一つもないその姿は、少し荒れた屋上とは切り離されているように感じた。

 

「お前何してんだよ」


「何って……。逆に何してるんですか?」


「俺はサボりだけど」


「じゃあ私もサボりです」


 姿勢は崩さず、目線を合わせながら飄々と答えた。


 なるほど。よく分からん。

 美女と二人きりでサボれるのは嬉しいけど、何考えてんのか分かんないから普通に怖いな。


 思考を巡らせるが、何をしたいか見当がつかない。……もう俺には諦めて寝そべることにしかできなかった。

 すると、一秒遅れて隣のやつも寝そべった。


「……」

「……」


 沈黙が流れる。

 このまま、時間が流れるのを待ってもいい気はした。だが——


 居心地わりぃな。せっかくのサボりの時間が無駄になっちまう。

 少しくらいは話してみるか。


「何がしたいんだよ」


「あなたと同じことをしたいだけです。まぁサボることにも興味はあったので、一石二鳥ってやつです」


 そう言い切ると、霜凪は俺の顔を覗き込み——

 

 次の瞬間、俺の上に跨り、覆いかぶさるような体勢になった。

 黒い長髪は垂れ、綺麗なツリ目には引き込まれそうになる。

 

 急にどうしたんだこいつ!? 近い。近すぎる。

 話しかけなけりゃよかったか?

 

 戸惑っていると、こいつはそんな俺を気にも留めずに言った。


「けど私は今までこんな経験がないので、なにをすればいいのか分からないんです。なので教えてください。サボりってものを」


 回答は想像していたものの斜め上だった。

 少なくとも変な事ではないらしい。

 

 とはいえ、明らかに面倒くさそうな依頼だ。俺がわざわざそんなことをする必要はないだろう。

 それに、こいつと一緒にいると、他のやつに色々言われそうだしな。


「やだよ。適当にネットで調べればいいじゃねーか」


「照れてるんですか?」


「照れてねーよ」


「顔、赤いですよ?」


 そう言われ、体全体が熱くなっていることに気づく。

 まぁ、こいつはモデルと遜色ない見た目をしているんだ。そんな奴に、こんな体勢を取られたら、赤くならない方がおかしいだろう。


「分かったからどけ。教えてやるから」


 数秒ほど思考していたのだが、一向にどく気配がないので依頼を了承することにした。


「本当ですか!」


 俺が答えた瞬間、霜凪の顔がパァッと明るくなった。それと同時に、瞬時に動いて真横で正座した。

 俺は体を起こしながら、その光景を見る。


 はやっ……。 さっきまでは全然動かなかったくせに、こういう時は速いんだな。


「それじゃあ教えてください! 屋上でのサボり方!」


 目をキラキラと輝かせながら、そう言ってくる。


 サボり方……つっても、普段何もしてないんだよな。

 けど、こいつを納得させる言い方をしねーと、また面倒くさそうだしな。


「よーし。サボりの流儀を心して聞けよ。屋上でやることはたった一つだけだ。」


 まぁ、こういうのは少し言い方を変えればいいだけだ。

 

「それは風を感じることだ」


「風を……感じる?」


「あぁ。寝そべりながらでも、座りながらでもいいからとにかく風を感じるんだ。それを楽しむことで、サボりとなる」


「なるほどぉ」


 霜凪は感嘆を漏らした。

 適当なことを言ったが、納得してくれたらしい。


「じゃ、俺は風を感じとくからお前も適当にしとけ」


「はい!頑張ります!」


 余計なことを言うと、また変な事をされそうなので、もう寝ることにした。

 これで、おとなしくなってくれるだろう。


 

 *****


 …………ん。

 眠気を覚ましながら体を起こす。時間を確認したいが、屋上には時計がない。


 スマホを取り出し、確認しようとした時——

 

「あ、起きました? もう三時間目が終わりますよ」


「…………まじで?」


 霜凪の声が聞こえてきた。まだいたらしい。

 そしてどうやら、一時間半くらいは眠っていたようだ。


 いつもは三十分くらいで起きれるのに……。夜にカップラーメン食ったのが悪かったのか……?

 というか、こいつはなんでまだいるんだよ。

 

「お前さぁ、授業とかでなくてもいいの? 成績落ちるんじゃない?」


「落ちたところで微々たるものですよ。それに、あなたと同じことをすると言ったじゃないですか」


 まさかそこまでだなんて思わないだろ。

 ここまで来ると怖いんだよな、こいつ。


「ちなみに次の授業はどうするんですか? 今日はこのままずっとサボります?」


「いいや、次は出るよ。楽な授業だし」


 まぁ嘘だけど。次は学年主任が担当してる科学のはずだ。寝ることも遊ぶこともできないなら出るはずがないだろう。


 ただ一旦こいつから離れたい。最初は出るふりをして保健室に行けば完璧だろう。


「じゃあじゃあ! 次はいつ、どこでサボります? もっと教えてください!」

 

「なら、B棟三階の空き教室かな。あそこらへんだと授業もされてないし見つからねぇんだよ」


「なるほど!」


「いつなのかは俺にも分らん。俺はサボりたいときにサボるから。これもサボりの流儀だ」


 そして、サボりマスターはクールに去るぜ!

 なんて言ったりしてな。俺は案外この状況を楽しんでるのかもしれない。


 

 *****


 翌日。出席を取るためだけに、六時間目という遅い時間に登校した。

 今日はどこでサボろうかと考えていたのだが、少し気になることがある。


 今、霜凪は空き教室にいんのか?

 さすがにいないか……? でも、あいつならあり得るんだよな。


 それで、ちょっとした好奇心で立ち寄ったのだが——


「あ、おはようございます」


「いるんだよな~これが」


 いた。それに人が変わったように、お菓子を食いながら、ダラダラと小説を読んでいる。

 昨日までは身なりもキチっとしていたのに、今では汚れるそぶりも見せずに寝転がって、埃を制服につけまくっている。


 おかしいな。こんな人間じゃなかったはずなんだけど……。

 

「随分とくつろいでるじゃねぇか」


「お! わかりますか。実はスマホでサボり方というものを検索したんです!」


「いつからいるのさ」


「昨日の五時間目からです!」


「は!?」


 待て待て待て。もしかしてずっといたのか? こんな空き教室に?

 本当に人が変わったんじゃないか?


 俺の頭が?で埋め尽くされていたとき、


「あの、ずっとここにいたから、もう飽きちゃいました。新しい所に連れて行ってくれませんか?」


「……傲慢になったな」


「サボりは楽しまなきゃらしいので」


 くそうぜぇ……。ニヤニヤしてる顔もうぜぇ。

 その上、昨日の俺の言葉をしっかりと覚えてるのもうぜぇ。

 

 くそっ。昨日までは楽しくサボれてたのに、なんでこいつに振り回されなければいけないんだ。


「はあぁ。分かったよ、ついて来い」


「やったぁ!結構優しいんですね」


「うるせぇよ」


 仕方なしに別の場所に連れていくことにした。

 こんなことする必要もない気がしたが、少しだけ面白そうなことになる予感がした。


 こいつ、サボってるの先生にバレたらどうなるんだろうな。

 俺の成績なんて地の地に落ちてるんだから実質ノーダメだ。だが、こいつにとっては大打撃になるだろうな。


 そんな思考が俺の中にはあった。

 

 

 そして、普段は先生にバレる確率の高い体育館の裏へ来た。

 ちょうど授業もあってるからなおさらだ。


「ふぅん、体育館の裏ですか。ここってあんまり来ることないですよね」


「来る理由がないしな。放置されてるせいで草がボーボーだし、居心地は悪いよ」


 霜凪は草の少ない所を見つけ出しそこに腰を下ろした。

 今日は昨日のような正座ではなく、地面で汚れないようにつま先立ちをしている。


 俺でもここにはほとんど来ない。

 草は生い茂ってるし、どこのクラスが体育をやってるかなんて把握できないから、怖いのだ。


「ここでは何するんですか?」


「屋上と同じさ。風を感じて楽しむんだ」


「本読んでてもいいですか?」


「いいぞ。俺はゲームしとくから」


 言い切ると同時に、授業開始のチャイムが鳴った。

 体育館の中からは、体操の声が聞こえてくる。


 だが、そんなものは気にせずに、スマホでゲームを起動する。

 今日はイベント開始日だ。午前中はずっと寝てたから、ランキングに追いつくよう急がなければならない。


 

 そうして各々の時間を楽しんで、三十分ほど経過した。

 ふと気になって横を見る。


 さすがにつま先立ちはきつかったようで、けつを地面につけながら本を読んでいる霜凪が目に入った。

 猫背で、服には埃がついており、昨日とは別人に見える。

 

 あんな優等生をここまでサボりにはまらせたのは、結構やばいことをした気がするな。

 こいつは家柄も結構よかった気がするけど、俺が怒られるべきなのか?


 そんな風にいろんな考え事をしていたのだが、こっちの目線に気づいた霜凪と目が合った。


「どうしたんですか? そんなじろじろ見て」


「いや、一応言っておくけど、成績悪くなっても俺のせいにするなよ」


「あら、そんなこと気にしてるんですか。そんなの当り前ですよ」


 少し意外そうな顔をしながらそう答えてくる。

 

 まぁ、確証なんてものはないけど、大丈夫な感じがこいつからはした。

 それより、サボっているときに余計なことを考えてしまった。こいつのせいだろう。


「というか、本当にそれだけなんですか?」


「あ? そうだけど」


「長いこと見つめてくるから、てっきり告白だと思ったんですけど?」


「はぁ!?!?」


 反射で大きい声を出してしまう。


 こいつはどういう意図で言ってんだ?

 あー、もう。頭がこんがらがってくる。


 そう思考をしていると——


「こぉぉおらああぁぁ!!!! 何やってんだお前らああぁぁぁ!!!」


 体育教師に見つかってしまうのだった。



 *****


 ——あの後、俺らは二人とも体育教官室に連れていかれ、二時間ほど説教された。


「いやぁ、随分怒られましたねぇ。主にあなたが」


 教師陣の俺の印象は最悪なため、俺だけが悪いことにされかけていた。だが、宣言通り霜凪も自分が悪いと言ってくれたおかげで、停学まではいかずに済んだ。


「はあぁ、帰るのが遅くなっちまった」


「あなたが大きな声なんか出すからですよ」


「お前があんなこと言わなきゃ大丈夫だったんだよ」


 とは言ったものの、一応霜凪には悪いことをしたと思ってはいる。

 霜凪のせいというのも事実だけど。


「やっぱり学校内でサボるのは危険ですね。あなたもやめた方がいいんじゃないですか?」


「なんだよ。それを言うためだけに、俺と一緒に怒られたのか?」


 そうだとしたら、相当頭おかしいけどな。


「違いますよぉ。私が言いたいのは、学校でサボると先生に見つかる危険があると言うことですよ。なので、明日は学校、抜け出しましょう。そうすれば、二人仲良くサボれますよ」


「……お前、最初からそれ目的だったのか?」


「顔赤いですよ」


 ニマニマしながらそんなこと言ってくるこいつを、初めて可愛いと思ってしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ