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茉莉花

作者: なき
掲載日:2026/01/24

短いお話です。殴り書きなのでさらっと読めます。

数日前から住処を変えました。

前よりも低い所です。

ですが案外陽の光が入ってきて、そこまでジメジメしてません。彼らの靴先が私の目線の高さとなります。

四畳半では余剰してしまうほどの話がありますが、急いで話す事でもありません。引っ越さない限り、ここでは時間がゆらりと流れていきます。ただ長居はしたくないかな。私は過去に教鞭を執っていたが、これも楽しい話ではないな。


数日経って、横の部屋に新しい人が越してきた。

どうやら同じ匂いがする。挨拶はそこそこに、壁が薄いもんで音が聞こえてくるのですが、何をしてるのかさっぱり分からない。ただ詮索は野暮でしょう。こちらもされたくはないのだから。

彼が越してきて、季節が一つ回った。この間に私は彼の趣味趣向の一端を知り、また私も彼と話をした。

やはり私の嗅覚は間違ってはなく、同じ匂いの人であった。

数日が経った。

この集合住宅の前にトラックが止まり、彼の部屋から荷物が運び出されて行った。悲しいとかではない。むしろ祝福すべきなのだ。彼はこれから防音が備わって、今よりも高い部屋に行けるのだから。ただ、私はまだここだ。


また季節が回った。やけに廊下が広いなと思いながらも、洗濯機を回す今日この頃であったが、怖い人はいつでもいる。そう、大家だ。

「お前はいつまでここで暮らすのか」

「せめて家賃を払え」

と、私の耳が痛くなる言葉をまるで機関銃のように差し出してくる。あの人にも弾切れがあって欲しいと願うばかりである。

そんな大家が珍しく頼み事をしてきた。猫を探せと。

「どうせ暇だろ? ついでに外の空気吸ってこいよ」

相変わらず人の心にずかずかと殴り込んでくる。だが、久々に人様の役に立てそうで、嬉しいような気がしなくもない。

探しに外に出たが、何と我が住処のすぐ側にいたではないか。

大家のことが嫌いになったのか? と聞いてみるが、まあ答えはしない。仕方ないから大家の元に連れて行くがこれがまた大変で、大家に威嚇し、大荒れ。本当に飼い主だったのか? と疑問を投げたくなってしまった。

まあこのまま返す訳にもいかないので、そのまま我が部屋に住まわす事に。参ったな、私の稼ぎは私一人の食い扶持しかないというのに。


季節がまた一つ回った。

この四畳半に新たな者が加わった話は記憶に新しいとは思うが、こやつ、曲者である。偏食、不遜、猫の可愛げを削ぎ落としたかのような存在だ。陽の当たりを独占されたりもするので、若干後悔をする時もある。

こいつの名前は茉莉花とした。ただ私が茉莉花茶が好きなだけだ。

ただ茉莉花を飼っているという事実で、大家を黙らすことは出来ているし、私自身も食い扶持のためにこれまで以上に労働をこなせている。時計のない部屋の針が、少し進んでいるのかもな。

茉莉花と過ごす時間が増え、観察をすることが多くなった。最初は手厳しい評価をしてしまったが、なかなかどうしてこいつ、可愛いのだ。

二人分の食い扶持を確保するために、勤労に努めるようになり、私は元の職に戻った。これしか出来ないからである。

教科書を開き、採点を重ねていくうちに、生活に少し余裕も生まれ、大家とも仲良くなれてきた。催促されることも減った。この部屋の鍵を返す時が近づいてきたのかもな。


季節がまた一つ。

卒業生を世に出した私は教室の片付けを行い、帰路についた。早くペット可の住居を探さなくてはと、大慌てで内見などを行う。

茉莉花に、この部屋を出るがお前も来るかと尋ねるが、答えはしない。ただ、前よりもその沈黙を推察出来るようにはなっていた。


また一つ回った。遂に鍵を返す時が来た。思えば永い時間が経った。隣の彼は幸せにやれているだろうか、大家一人で管理し続けられるのだろうか。大家には悪いが、茉莉花は私と来る。残念だったな。

トラックが来てしまった。

もう二度と、この敷居を跨ぐことがないように。

読んでくれてありがとうございました

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