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呪鎖の勇者と修繕師の眼  作者: ソルト
プロローグ
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9話 修繕屋との出会い

商人に案内され、私はノヴァリスの街の外れにやって来た。

 石畳は昼の陽射しに白く輝き、窓辺に吊るされた花が風に揺れている。戦場で見てきた荒々しさとは正反対の、穏やかな空気が漂っていた。


「この街で修繕といえば、彼が一番です」

 商人は自信たっぷりに言って、小さな木造の建物の前で立ち止まる。


 看板には「修繕屋」とだけ彫られていた。

 飾り気はないが、清潔に保たれた佇まいに、私は自然と肩の力を抜いた。



 扉を開けると、木と油の匂いがふわりと漂ってきた。

 奥の作業台で片付けをしていた青年がこちらを振り返る。


 黒髪に落ち着いた眼差し。十七、十八といったところだろうか。

 その雰囲気は穏やかで、思わず安心感を覚える。


「いらっしゃいませ。修繕のご依頼でしょうか?」


 丁寧な声音に、私はわずかに驚いた。



 商人が前に出て、革の胸当てや旅鞄を取り出す。

「長旅で装備が傷んでしまいまして。まずはこちらを見ていただけますか」


 青年――エルシオは手際よく点検し、静かに告げる。

「胸当ては肩口の縫い目が弱っています。負荷がかかれば裂けるでしょう。旅鞄の金具も作り直す必要がありますね」


 ただ直すのではなく、どこがどんな理由で弱いのかを丁寧に説明してくれる。

 その誠実な物言いに、私は感心していた。


「修繕は修理屋に依頼しますので、仕上がりは数日後になります」


「ええ、お願いします」

 商人は深く頷き、満足げな表情を浮かべる。



 その時、商人が時計を見て声を上げた。

「しまった、もうこんな時間か……。私はこれで失礼します。彼女の料金は私が払いますので、私の分に付けておいてください」


「えっ……」

 思わず声が漏れたが、商人はにこやかに手を振り、あっという間に去っていった。


 残された私は、少し気恥ずかしくなりながら青年に向き直った。



「……もしよろしければ、私の装備も見ていただけますか?」


「もちろんです。どうぞ」


 私は腰の剣を鞘ごと机に置いた。

 エルシオは真剣な眼差しで刃を観察し、静かに言葉を選ぶ。


「よく手入れされていますね。ただ、柄の部分は早めに補強した方がよろしいでしょう。このままでは長期には耐えられません」


 その冷静な指摘に、私は少し頷く。

「やはり……無理をさせていましたか」


 この剣は長い旅を共にした大切な相棒だ。そのことを理解してもらえたようで、心が少し温かくなる。


「修理屋に持ち込みますので、お預かりしてもよろしいですか?」


「お願いします」


 そう答えて、私は剣から手を離した。

 エルシオは静かにそれを受け取り、その重みを確かめるように目を細める。


「……それでは、こちらで確認させていただきます」


 そう言う彼を見守りながら、私は工房の椅子に腰を下ろした。

 静かな時間が流れ、彼の指先の動きをただ見つめ続ける。

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