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呪鎖の勇者と修繕師の眼  作者: ソルト
プロローグ
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5話 運命の来訪者

翌朝。

 ミレナはいつものように店の戸を開け、通りに面した看板を出した。

 「占い承ります 一回銀貨一枚」

 その文字を見慣れた人々が、すでに並び始めている。


 石畳を踏む靴音、ざわめき、露店の呼び込み。

 ノヴァリスの朝は今日も活気に満ちていた。



 帳場に座り、深呼吸をする。

 昨日の夜、弟エルシオの様子が少しおかしかったのを思い出す。

 疲れていたのか、それとも外の依頼が堪えたのか――聞いても答えは曖昧だった。

 けれど食事も普通に摂っていたし、無理はしていないように見える。

 ならば大丈夫だろう、と自分に言い聞かせて目の前の仕事に集中する。


「悩みがありますね?」


 向かいの椅子に座る中年の男が、少し逡巡してから頷いた。

 その瞬間、視界に淡い霧のような“感覚”が広がる。

 悩みの内容は分からない。ただ――導くべき行動だけが浮かぶ。


「……家に帰り、妻と話しなさい」


 男は驚いたように目を見開き、それから深々と頭を下げて去っていった。

 銀貨一枚が卓に残されている。


 こうして一人、また一人。

 ミレナは言葉を告げ、客はそれぞれの悩みに向き合う。



 昼を過ぎても列は途切れなかった。

 魔王が討たれて一年。表向きは平和を取り戻したはずなのに、人々の不安は尽きない。

 明日の暮らし、家族の病、商売の先行き。

 どれも自分に答えられるものではない。

 ただ一つの行動を示すだけ――その力が人々にとって救いになるのなら、続ける意味はあるのだろう。


 だが時折、胸の奥に空虚さが広がることもあった。

 ――私の言葉は、ただの小さな灯火にすぎない。

 そう思わずにはいられないのだ。



 日が傾き始めた頃だった。

 行列の中に、ひときわ目を引く少女の姿があった。


 銀糸のように輝く髪。

 碧く澄んだ瞳。

 背丈は高くないのに、ただそこにいるだけで空気が変わる。


 可憐で、美しい。

 だが同時に、人を寄せつけない冷ややかさを纏っているようにも見える。


 思わず視線が吸い寄せられ、ミレナは息を呑んだ。

 少女は静かに列を進み、やがて店の前の椅子に腰掛ける。


「悩みがありますね?」


 いつもの言葉を口にした瞬間、ミレナの胸の奥がざわついた。

 霧のような感覚が広がり、何か大きな運命が動こうとしている――そんな予感がした。

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