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呪鎖の勇者と修繕師の眼  作者: ソルト
第1章 呪鎖編1
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46話 出発

 東の空が淡く白みはじめ、鳥のさえずりが遠くから聞こえてくる。

 長い夜が明け、静かな朝が訪れた。

 アリシアはまだ眠るエルシオの横で外の光を見つめ、そっと立ち上がる。

 体の疲れは残っているが、不思議と心は軽かった。

 昨夜まで張りつめていた村の空気が、今は穏やかに澄んでいる。


 外に出ると、朝露をまとった風が髪を揺らした。

 広場の端で、レギウスが腕を組んで空を見上げていた。

 赤い髪が朝日に染まり、まるで炎のようにきらめいている。

 その背には、五百年という時間の重みを感じさせる静けさがあった。


「よく眠れましたか?」

 アリシアの声に、レギウスは小さく肩をすくめる。

「五百年寝てた身だ。これ以上寝たら、今度こそ石になる。」


 冗談めかした口調に、アリシアが微笑む。

 そのやり取りの後ろで、宿の扉が軋み、エルシオが顔を出した。

「おはようございます。……なんだか、村の空気が昨日と全然違いますね。」

「ええ。祈りが終わって、ようやく“日常”が戻ったんでしょう。」


 三人は軽い朝食を終えると、出発の支度を整えた。

 背に荷を負い、剣を腰に下げ、村の出口へ向かう。

 その途中、広場ではすでに村人たちが集まり、三人を見送る準備をしていた。


 彼らの顔に恐れはなく、むしろどこか晴れやかな笑みを浮かべている。

 五百年にわたり信じ続けてきた“守護の魔族”が、再び歩き出す――

 それはこの村にとって、新しい時代の幕開けでもあった。


「レギウス様、どうかお元気で。」

 年老いた村長が深く頭を下げる。

「あなた様がこの地を護ってくださったこと、我らは忘れません。」


「“様”はやめろ。」

 レギウスは軽く笑いながら言った。

「もう護るもんなんてねぇよ。お前らの方が、よっぽど強い。」


 村長は目を細め、静かに頷いた。

「それでも、あなたはこの村の誇りです。」


 アリシアはその言葉を聞きながら、少しだけ振り返る。

「いい村ですね。五百年も誰かを信じ続けるなんて、簡単なことじゃない。」


「……信じてたからこそ、今があるんです。」

 エルシオが言った。

 その瞳には、ほんの少しの尊敬が宿っていた。


 レギウスは短く笑うと、朝の光を見上げた。

「さて、俺たちは俺たちの道を行こうか。……いつまでも感傷に浸ってたら、また封印されちまう。」


 村人たちの笑い声が広場に響く。

 三人は手を振って別れを告げ、北東へと続く道へ歩き出した。

 フェルデア――次の目的地はまだ遠い。

 けれどその足取りに迷いはなく、背に受ける風は確かに新しい。


 朝靄の中、三つの影が並んで遠ざかっていく。

 その姿を、村人たちは長く見送っていた。

 まるで五百年の祈りを、ようやく託せたかのように。

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