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呪鎖の勇者と修繕師の眼  作者: ソルト
第1章 呪鎖編1
42/47

42話 封印

「……今の、聞こえましたか?」

 小さく呟くと、隣で目を覚ましたアリシアが顔を上げる。

「声? いえ、何も。夢ではありませんか?」

「……そうかもしれません。でも、外が光って……」


 二人はそっと外套を羽織り、宿を出た。

 夜の空気はひんやりと冷たく、村の通りはひっそりと静まり返っている。

 遠くの森の方角に、淡い青の光が揺れていた。


「……昼間の祠のあたりですね」

「行ってみましょう。」


 足音を忍ばせて向かうと、木々の隙間から光が滲み、空気がかすかに震えている。

 近づくにつれ、ぼんやりと人影が見えた。


 祠の前で、数人の村人が集まっていた。

 手には桶を持ち、その中の水が淡く輝いている。

 村人たちは無言のまま、順番にその水を石壇へと注いでいた。


 水が触れるたび、地面に描かれた古い紋様が淡く浮かび上がり、青白い光を放つ。

 その光はやがて祠全体を包み込み、薄く脈を打つように明滅した。


「……アリシアさん、これは……?」

「これは……まさかとは思いますが、封印を解く儀式だと思われます。」


「封印を? どうしてそんな……」

「わかりません。けれど、見てください。封印の陣を囲むように、解放の陣が組まれています。そしてあの水には魔力があります。

 強大な封印を少しずつ緩めるように、大量に注がれている……。」


 村人たちは祈るような表情を浮かべながらも、どこか無機質だった。

 光に照らされた横顔は虚ろで、まるで誰かに操られているようにも見える。


 やがて最後のひとりが桶を置くと、光がゆるやかに沈んだ。

 石の紋様は完全には消えず、中心にひとすじ、微かな青い筋が残る。

 それはまるで、封印の“綻び”のように見えた。


 村人たちは言葉ひとつ発せず、その場を離れていった。

 静寂だけが残る。


「……魔族が封印されているのになぜ……?」

 アリシアがぽつりと漏らす。

「まさか、村全体が……?」

「断定はできません。けれど、確かに封印が緩められました。」


 エルシオは一歩前に出た。

 石壇の表面には幾重もの線が走り、中央の部分だけが淡く光っている。

 その光は、今にも消えそうで――けれど、確かに生きていた。


「……この模様、どこかで……」

 無意識に、指先が石壇へと伸びる。

 その瞬間、指先に冷たい感触が伝わった。


「待ってください、エルシオさん!」


 アリシアの声が響いたが、もう遅かった。

 触れた場所から一筋の光が走り、祠全体が一斉に輝いた。


 ゴウッ――!

 風が吹き荒れ、青白い光が夜空に柱のように立ち昇る。

 地面に刻まれた紋が明滅し、空気が重く震えた。


「な、なんですか、これ……っ!」

「封印が……開いていきます!」


 アリシアが前に出て、剣を構える。

 祠の奥から、低く響く唸り声が漏れた。

 それは長い眠りの底から、誰かが呼吸を取り戻すような音だった。


 石が割れ、破片が宙に舞う。

 封印の中心が裂け、そこから赤い光が滲み出す。

 やがて、光の中に“人の形”が浮かび上がった。


 赤い髪が闇を照らし、金色の瞳がゆっくりと開く。

 空気が一変し、夜の冷たささえ遠のく。


「……外の、空気……ずいぶん薄くなったな。」


 声は穏やかで、落ち着いていた。

 怒りも、憎しみも感じられない。

 ただ、長い眠りから目覚めた者の静かな戸惑いがそこにあった。


 アリシアが剣を構えたまま、低くつぶやく。

「……封印が、完全に……解けてしまいましたね。」

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