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呪鎖の勇者と修繕師の眼  作者: ソルト
第1章 呪鎖編1
40/47

40話 村

 日が傾き始めた頃、ふたりは道の先に小さな集落を見つけた。

 木造の家々が並び、煙突からは夕餉の煙が立ち上る。村の周囲には麦畑が広がり、穏やかな風が金色の穂を揺らしていた。


「今日はここで休みましょう。次の街までは、まだまだかかりますから」

「そうですね。日が暮れるまでに着けてよかったです」


 アリシアの言葉に、エルシオはほっと息をついた。

 長い旅路に慣れてきたとはいえ、歩き続ける脚には疲労が残る。

 そんな二人を、村の入口にいた青年が明るい笑顔で迎えた。


「旅の方ですか? 宿ならこの先の広場を右ですよ。今夜は冷えますし、ゆっくりしていってください」

「ありがとうございます」

 エルシオが頭を下げると、青年は「気をつけて」と言い残して家へ戻っていった。


 案内通り進むと、小さな宿が見つかった。

 村の規模にしては立派な造りだ。木の看板には「風見亭」と書かれている。

 扉を開けると、香ばしいパンとスープの匂いが迎えてくれた。


「いらっしゃいませ。お二人ですか?」

「はい、今夜一晩だけお願いします」


 宿の女将は温かい笑顔を浮かべ、すぐに部屋を用意してくれた。

 夕食も勧められ、ふたりは久しぶりに落ち着いた食卓についた。

 スープには野菜と鶏肉がたっぷり入っていて、素朴ながら滋味深い味だった。


「……美味しいですね」

「はい。こういうの、久しぶりです」


 穏やかな食事。外では子供たちの笑い声。

 ここが危険な世界の一部だなんて、到底思えない。


 しかし、不思議なことに――日が完全に落ちる頃、村の通りから人の気配が消えた。

 犬の鳴き声も、井戸水の音も、まるで誰かが世界の音量を絞ったように静まり返る。


「……静かすぎますね」

「そうですね。みんな寝るの、早いんですね」


 エルシオが苦笑すると、アリシアは窓の外に視線を向けた。

 暗闇の向こう、森の方角。

 わずかに――青白い光が一瞬、瞬いた気がした。


「……エルシオさん。今、光が見えませんでしたか?」

「え? どこです?」

「森の奥です。ほんの一瞬、青く……」


 だが、もう何も見えない。

 月の光に溶けて、森はただ静かに影を落とすだけだった。


「……気のせいでしょうか」

「でも、アリシアさんが見間違えるとは思えませんけど」


 アリシアは少し眉をひそめたが、やがて椅子に座り直した。

「明日の朝、念のため確かめてみましょう」


 その夜、ふたりは早めに灯りを落とした。

 けれどエルシオは、なぜか眠れなかった。

 あの青い光が頭から離れない。

 ――あれは、ただの光ではなかった気がする。


 遠く、森の方角で。

 ふっと、もう一度青い閃光が瞬いた。

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