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呪鎖の勇者と修繕師の眼  作者: ソルト
第1章 呪鎖編1
39/47

39話 魔力について

 旅立ちから三日。森を抜け、草原の続く丘陵地帯へと足を踏み入れていた。空は高く、風はやわらかい。


 「これから、どのくらい歩くんですか?」

 エルシオが尋ねると、アリシアは地図を広げた。


 「北東の街まで……そうですね。早くても一ヶ月ほどでしょうか」

 「一ヶ月……けっこう長旅ですね」

 「その間に、少しずつでも強くなりましょう」


 アリシアの微笑みは、どこか穏やかで、戦場で見せた鋭さとは違っていた。


 「修行……ですか?」

 「ええ。あなたのスキルを活かすには、体と魔力の感覚を磨くのが一番です」


 ***


 夕暮れ。焚き火の火が赤く揺れ、草の香りが風に混じる。

 アリシアは膝をつき、掌を広げた。


 「まずは魔力を感じ取る練習です。私の手に触れてみてください」

 エルシオは少し戸惑いながらも、指先を重ねる。すると、微かな温もりが伝わった。


 「これが……魔力……?」

 「そうです。生きている者なら、誰の中にも流れています」


 鼓動に似たリズムが手のひらを通して伝わってくる。静かで、確かな流れ。

 エルシオは目を閉じ、その感覚を追った。


 「あなたのスキル《弱点看破》は、相手の構造や力の流れを視るもの。魔力の扱いに慣れれば、見える“範囲”が広がるかもしれません」

 「なるほど……つまり、今よりもっと見えるようになるってことですね」

 「ええ。ですが焦らないでください。魔力は呼吸のようなものです。力むと流れが乱れてしまいます」


 アリシアの声が静かに響く。

 その声音は、焚き火の音と混ざってやわらかく溶けていった。


 エルシオは深く息を吸い、ゆっくりと手のひらに意識を集める。

 だが何も感じない。

 空気の温度も、風の流れも、ただ通り過ぎていくばかりだった。


 「……やっぱり難しいですね」

 「最初は誰でもそうです」

 アリシアは小さく笑い、再び彼の手に触れた。

 「今、意識を手の中心に置いて。体の中の力を“少しだけ”動かすように」


 エルシオの指先に、かすかな温もりが宿った。

 目を開けると、手のひらの上に淡い光が浮かんでいる。


 「……できた、のか?」

 「ええ。小さくても、確かに魔力の灯りです」


 その光は数秒で消えたが、エルシオの胸の中には確かな手応えが残った。


 「……これが、僕の中にある力なんですね」

 「はい。そして、あなたの見る“弱点”も、この力を通して視ているはずです」


 風が一陣吹き抜けた。

 焚き火の火がふっと揺れ、二人の影が重なる。


 「ありがとうございます、アリシアさん。なんとなく掴めた気がします」

 「いいえ。教える価値があったと感じています。あなたは筋がいいです」

 「……本当ですか?」

 「ええ、嘘は言いません」


 アリシアは静かに笑った。

 その笑顔は、夜の静けさに溶けるようにやさしかった。


 「今日はもう休みましょう。明日からは実戦を想定して少しずつ体を慣らしていきます」

 「はい。頑張ります」


 エルシオは寝袋に身を沈めながら、空を見上げた。

 見慣れた街の屋根ではなく、見知らぬ空の星々。

 それでも、不安よりも期待の方が少しだけ大きい。


 ――この旅で、自分は変われるのだろうか。


 焚き火の最後の火の粉が、夜風に乗って消えていった。

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