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呪鎖の勇者と修繕師の眼  作者: ソルト
第1章 呪鎖編1
37/47

37話 スキルについて

 焚き火の火が穏やかに揺れていた。

 夜の森は静まり返り、虫の声すら遠ざかっている。

 空には無数の星が瞬き、風が草を撫でるたびに、火の粉がひとつふたつ空へと昇っていった。


「……アリシアさん。魔法のこと、ありがとうございました。

 それで、スキルって、魔法とは違うんですよね?」


 エルシオが問いかけると、アリシアは小さく頷いた。

 焚き火の光が、彼女の銀の髪をやわらかく照らす。


「ええ。スキルは、魔法とは違って“授かる力”です。

 生まれた瞬間に神から与えられる、その人だけの特別な力。

 訓練で覚えるものでも、努力で増やせるものでもありません」


「神から……ですか」


「そう。どんな人にも一つだけ与えられます。

 ただ、その力がどういうものかは誰も教えてくれない。

 自分で感じて、理解して、そして名づけるんです」


「名づける?」


 アリシアは微笑み、焚き火に手をかざした。


「神が“スキル名”を告げるわけではありません。

 初めて発動したとき、頭の中に浮かぶんです――“これはこういう力だ”って。

 私は自分のスキルを、“力の解放”と呼んでいます」


 エルシオは目を瞬かせた。


「力の……解放」


「ええ。私の体の中には、“力”が少しずつ蓄積されていくんです。

 何もしていなくても、時間とともに自然に――一日に一ポイントずつ。

 それを十ポイント消費することで、一分間だけ全ての能力が上昇します」


「つまり……使うと減るけど、また自然に溜まっていくんですね」


「そうです。完全に失われることはありません。

 使った分だけ減って、時間とともにまた貯まる。

 まるで息をするように、力が循環しているんです」


 アリシアは手を握り、軽く力を込める。

 その瞬間、掌に淡い光が宿り、まるで鼓動のように明滅した。


「ただ、この力は無限ではありません。

 私は魔王を倒すときに、蓄えていたほとんどの力を使い果たしました。

 今は三百ポイントほどしか残っていません。

 ……だから、もう軽々しく使うわけにはいかないんです」


 焚き火の光が彼女の瞳に反射し、わずかに寂しげに揺れた。

 エルシオは言葉を失ったまま、ただ聞いていた。


「力って……不思議ですね」


 アリシアは自嘲気味に笑う。


「ええ。私はこの力で何度も人を救い、同時に多くを壊しました。

 だからあまり好きではありません。

 本当は、こんなものに頼らずに生きていけたらと思うんです」


「……でも、その力で救われた人も、きっとたくさんいるはずです」


 エルシオの静かな声に、アリシアの瞳がわずかに揺れた。

 彼の真っすぐな視線が、焚き火よりも温かく感じられた。


「あなたは、優しい人ですね。

 力の使い方を迷えるのは、それだけ心が強い証拠です」


「いえ、そんな……。

 僕のスキルなんて、ただ“見える”だけですよ。

 壊れかけた物や、人の弱点が……」


「弱点看破。――それは、とても危うく、そして尊い力です」


 アリシアはゆっくりと言葉を選ぶように続けた。


「その目で何を“見るか”で、未来は変わります。

 力そのものに善も悪もない。

 使う人の心が、力の意味を決めるんです」


 エルシオは少し考え、微かに笑った。


「……僕の力も、誰かを助けるために使えるようになりたいです」


「きっと、なれますよ」


 アリシアは柔らかく微笑む。

 その微笑みは、闇の中の灯のようにあたたかかった。


 二人の間を流れる沈黙は、重くも苦しくもなかった。

 焚き火の音だけが、穏やかに夜を刻む。


 やがて、アリシアが夜空を見上げた。

 星々が揺れ、月が森の輪郭を照らしている。


「……明日は早く出ましょう。北東へ向かうなら、森を抜けるのに時間がかかります」


「はい。おやすみなさい、アリシアさん」


「ええ。おやすみなさい、エルシオさん」


 そう言ってアリシアは毛布を肩まで引き上げた。

 エルシオはまだ燃える焚き火を見つめながら、

 ゆっくりと目を閉じた。


 ――その夜。

 ふたりの心には、同じ炎が宿っていた。

 それは“力”ではなく、“信頼”という名の光だった。

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