表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
呪鎖の勇者と修繕師の眼  作者: ソルト
第1章 呪鎖編1
31/47

31話 白と黒の境界

朝靄の森に、剣と咆哮が交錯した。

 低く差し込む光が、濃い影を引き延ばしている。

 湿った空気を裂くたびに、金属音と熱が響く。


 アリシアは剣を構え、わずかに腰を落とした。

 その目は鋭く、焦点はただ一つ、目の前の巨体に向けられている。


 「《ルミナ・アーク》。」


 短い声と共に、剣が白く光を放つ。

 朝の冷たい空気を押し返すように、光の波紋が地面を這った。

 黒い炎に包まれたオークの体が、ギシリと鳴る。


 その姿は、もはやただの獣ではなかった。

 魔族――バラムガンの意志を宿した肉の器。

 黒い魔力が筋肉を膨張させ、吐息一つで空気が震える。


 「グオオオオオオオオオオッ!!」


 咆哮と共に、黒い火球が放たれる。

 軌跡は歪みながらも鋭く、木々の幹を次々と砕いていく。

 アリシアは滑るように身をずらし、剣の腹で一撃を弾いた。

 白光と闇が衝突し、閃光が走る。


 「……闇の魔力が強すぎる。」


 黒炎が地を這い、朝露を蒸発させる。

 土の焦げる匂いが鼻を刺す。

 だが、アリシアは眉ひとつ動かさず、距離を詰めた。


 黒い腕が振り下ろされる。

 その圧力だけで、空気が押し潰されるような衝撃。

 アリシアは地を蹴り、逆方向に回り込む。


 剣が唸りを上げた。

 白い閃光が巨体を横切る。

 刃が肉を裂き、黒い煙が弾けた。


 オークが体勢を崩し、右足を踏みしめる。

 その一歩で地面が沈む。

 森全体が震え、葉が雪のように舞い落ちる。


 アリシアの足下に白光が流れた。

 わずかな間合いの中で、呼吸を整える。

 その瞳は迷いを失い、ただ敵を“見る”だけ。


 「……やはり、ただのオークではありませんね。」


 黒炎が膨張し、次の瞬間には闇の弾丸が連射された。

 視認するよりも速い。

 アリシアは体を低くし、地を滑るように前進した。


 光と闇が擦れ合う音が、森の中に木霊する。

 ひと振りごとに、木々がなぎ倒され、地面に焦げ跡が刻まれる。

 周囲の靄が熱気で消え、代わりに白い灰が舞い上がる。


 エルシオは遠くからその光景を見つめていた。

 手の中の力が、何の役にも立たないことを悟りながら。

 目の前の光景は、まるで神話の断片のようだった。


 (あれが……本当の戦いなんだ……)


 アリシアが、さらに踏み込む。

 白光が弧を描き、巨体を貫こうとする。

 しかし、オークは腕を交差させて防いだ。

 黒い衝撃波が走り、アリシアがわずかに後退する。


 互いの足音。呼吸。

 それだけが、朝の森を支配していた。


 オークが一歩前へ出る。

 アリシアも、一歩進む。


 距離は、三歩。


 アリシアは息を吸った。

 その瞬間、白光が剣先に収束する。


 「……これで。」


 次の一瞬、音が消えた。

 彼女の姿がかすみ、次に見えたのはオークの胸を斜めに走る光の線だった。


 遅れて、爆風。

 衝撃が走り、周囲の木々が一斉に弾ける。


 黒炎が空を裂き、風が吹き荒れた。

 アリシアはその場に立ち、息を殺す。

 剣先から滴る白光が、土に吸い込まれていった。


 やがて、闇が少しずつ薄れていく。

 オークの体が膝をついた。

 黒い魔力が煙のように漏れ、空気に溶けていく。


 だが――終わってはいなかった。


 体を支えるその腕に、再び黒が集まり始める。

 バラムガンの意志が、まだそこにある。


 アリシアは唇を引き結び、剣を構え直した。

 その横顔を、朝日が照らす。

 白光と金色の光が交わり、剣身が一瞬だけ輝いた。


 エルシオはただ、息を呑んだ。

 これが終わりではないと、直感でわかっていた。


 「まだ……立つ気ですか。」


 アリシアの言葉に応えるように、

 オークの咆哮が森を揺らす。


 「グオオオオオオオオオオオオッ!!」


 光と闇が再び交錯した。

 次の瞬間、世界が閃光で満たされる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ