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呪鎖の勇者と修繕師の眼  作者: ソルト
第1章 呪鎖編1
30/47

30話 闇をまとう者

 森を包む夜気が、一瞬で重く沈んだ。

 まるで空気そのものが凍りついたかのように、風の流れが止まる。

 オークの体表を黒い靄が這い回り、地面の影がじわりと広がっていく。


 「――来ます、エルシオさん!」

 アリシアの声が響く。

 その瞬間、巨体が地を蹴った。


 轟音。

 オークの腕が振り下ろされ、地面が陥没する。

 砂煙が弾け、木々が悲鳴を上げるように軋んだ。


 アリシアはすれすれでそれをかわす。

 白銀の髪が風を裂き、剣が瞬く。

 刃が腕を掠めるが、傷は浅い。

 鉄を叩いたような鈍い音が響いた。


 「……やはり、ただの肉体強化ではありませんね」

 息を整えながら呟く。


 エルシオは離れた位置から戦況を見つめていた。

 スキル《弱点看破》を発動する。

 しかし――視界が黒く濁った。


 (……見えない。あまりにも魔力が濃い……!)


 オークの全身を覆う闇が、まるで鎧のように光を拒んでいる。

 弱点を視ようとするたび、黒い靄が視界を塞ぐ。

 エルシオは額を押さえ、スキルを解除した。

 今の自分では、この戦いに割って入ることすらできない。


 オークが低く笑う。

 「小虫が何をしても無駄だ。貴様らの視界など、闇で覆ってやる。」


 次の瞬間、空気が震えた。

 地面に黒い紋様が浮かび上がる。

 「魔法陣……!」


 アリシアが跳躍した直後、紋様が爆ぜた。

 無数の闇弾が放たれ、森の空間を埋め尽くす。

 その一発一発が、木々を焼き、地を穿つ。


 「――やはり、魔法まで……!」

 アリシアは剣を翻し、闇弾を弾き返す。

 刃と魔力がぶつかるたび、光と闇が散った。


 爆風の中、オークの姿がかすむ。

 だが、確かに動いていた。

 黒い軌跡を描きながら、もう一度彼女へと迫る。


 「速い……!」


 アリシアは防御の構えを取る。

 鈍い衝撃音。

 剣と拳がぶつかり、彼女の足がわずかに滑る。

 その反動を利用し、反撃の一閃を放つ。


 刃が闇を裂き、頬を掠める。

 わずかな血が飛び、赤黒く光る地面に散った。


 「くっ……傷の再生まで……!」

 切り裂いたはずの傷口が、瞬く間に閉じていく。


 バラムガンの声が低く響いた。

 「どうした、勇者。剣だけでは、闇は斬れぬぞ。」


 アリシアは目を細め、息を整えた。

 「……ですが、光は闇を貫きます。」


 オークが嗤う。

 「その光が届くうちに、立っていられるかな?」


 闇の波動が放たれた。

 空気が反転するように沈み込み、黒い渦が地を這う。

 アリシアの足元の影が、不気味に伸びた。


 「――影が……!」

 エルシオが声を上げたときには、アリシアの脚が縫い付けられていた。

 闇の紐が足首に絡みつき、動きを封じる。


 「ぐっ……!」


 オークの拳が振り下ろされる。

 アリシアは剣を盾にして受け止める。

 火花が散り、体が押し込まれる。


 だが――彼女は退かない。

 「……それで、終わりですか。」


 足元の影に、微かな光が差す。

 アリシアがわずかに魔力を集中させ、剣を振り上げた。

 その刃が影を断ち、闇が弾ける。


 「――やはり、力押しばかりですね。」


 「なに……?」


 オークが振り向いた瞬間、アリシアは既に動いていた。

 体をひねり、闇弾の合間を抜け、斬撃を叩き込む。

 刃が肩を裂き、黒い血が噴き出す。


 「貴様ぁぁぁぁ!!!」

 怒号と共に、オークの掌に魔力が凝縮された。

 地面に放たれたそれは、炸裂音を上げて爆発する。

 衝撃が二人の間を切り裂いた。


 爆煙の向こうで、アリシアが息を整えている。

 「……厄介ですね。魔力の干渉が思ってたより強い……。」


 エルシオは拳を握りしめた。

 (アリシアさん……どうすれば……)


 視ようとしても、何も見えない。

 闇が視界を覆い、全ての輪郭を溶かしていく。

 自分の力が、今は無意味だと痛感する。


 「エルシオさん!」

 「……はい!」

 「下がっていてください。ここからは――私が勝ちます。」


 そう言って、アリシアは再び剣を構えた。

 その刃の先には、微かに太陽の光が宿る。

 闇と光が交錯する中、再び戦いの火蓋が切られた。

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