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呪鎖の勇者と修繕師の眼  作者: ソルト
プロローグ
3/47

3話 初めての戦い

喉の奥で声が凍りつく。

 ゴブリンは唸り声を上げながら、短剣を握りしめこちらに突き進んできた。

 その動きは小柄ながら素早く、狩人が獲物を追い立てるような鋭さがあった。


「っ……!」


 反射的に背を向け、走り出す。

 街まではもう近い。門まで逃げ込めば兵士がいる。

 頭ではそう考えるが、体は恐怖に震えて思うように動いてくれない。


 背後から荒い息づかいが迫る。足音が地面を叩き、確実に距離を詰めてくる。

 こんなに速いのか、と頭が真っ白になる。

 普段、街の中で平穏に暮らすだけの自分が、魔物に追われているなんて――。


 心臓の音ばかりが大きくなり、肺が焼けるように苦しい。

 だが足は止まらない。止まれば終わりだと、本能が叫んでいた。


 しかし、終わりは唐突に訪れる。

 足元の石に躓き、前のめりに倒れ込んだのだ。


「ぐっ……!」


 地面に手をついた瞬間、肩に重みがのしかかる。

 振り返ると、血走った目のゴブリンがこちらを押さえ込み、短剣を振りかざしていた。


 ――死ぬ。


 そう思った瞬間、世界が変わった。



 視界に何かが見えたわけではない。

 だが、強烈な“確信”が頭を貫いた。


 ――そこが弱い。


 ゴブリンの胸元。

 そこに意識が引き寄せられる。

 打ち込めば倒せると、理屈ではなく直感が告げていた。


「……俺の……スキル……?」


 思考より先に、体が動いていた。

 傍らに転がっていた木の枝を掴み、全身の力を込めて、その一点へ叩きつける。


 ゴブリンの体が大きくのけぞった。

 短剣が手から滑り落ち、地面に転がる。


 偶然なんかじゃない。

 あの瞬間、確かに“ここだ”と分かったから狙ったのだ。


「はぁっ……はぁっ……!」


 荒い息を吐きながら、再び枝を振り下ろす。

 脳裏に焼き付いたその一点へ。


 鈍い衝撃が手に伝わり、ゴブリンが呻き声を上げて崩れ落ちる。

 数度痙攣した後、完全に動きを止めた。



 しばらくの間、エルシオはその場に座り込んだまま動けなかった。

 全身が震えている。恐怖と、そして理解できない驚きのせいで。


 ――〈弱点看破〉が……生き物にも通じた。


 今まで、建物や道具にしか使えないと思っていた。

 家の柱、剣の刃、屋根の継ぎ目……。

 だが、今。魔物の命を奪う“弱点”がはっきりと分かってしまった。


「俺のスキル……モンスターにまで……」


 声に出した瞬間、背筋が冷たく震える。

 これは力なのか。それとも……。


 息を整えながら立ち上がり、折れた枝を握りしめる。

 街の灯りはもう目の前に見えている。

 だがその帰路は、今までよりもずっと重たく感じられた。

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