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呪鎖の勇者と修繕師の眼  作者: ソルト
第1章 呪鎖編1
29/47

29話 憑依する者

森を渡る風が止み、世界が静止したようだった。

 木々の隙間からわずかに差し込む光が、揺れる影を地面に落とす。

 その先に、ひときわ異様な気配を放つ影があった。


 一体のオーク。

 皮膚は濁った灰緑色、全身を覆う筋肉が岩のように固い。

だが、目だけが異質だった。

 黒の中に赤い光が宿り、獣ではなく“意思”を宿した人のような輝きを放っている。


 「……アリシアさん。やはり、ただのモンスターではないですね」

 「はい。間違いありません。……魔族が憑依しています。」


 アリシアの声は静かで落ち着いていた。

 だが、その瞳の奥に鋭い光が宿っている。

 エルシオは無意識に息を潜めた。


 オークの喉が鳴る。

 地を這うような低い声が、森の空気を震わせた。


 「――見つけたぞ……勇者。」


 その言葉が放たれた瞬間、空気が一変した。

 血が凍るような冷たい感覚がエルシオを包み込む。

 “勇者”。

 その名が指すのが、誰なのかを理解するのに時間は要らなかった。


 アリシアは表情を変えずに、穏やかな口調で応じた。

 「……オークに探される覚えはないのですが。」


 「この体を借りているだけだ。愚かなオークなど、器として十分だ。」


 低く嗤う声。

 その口調には、明らかにこの世界の生き物ではない“悪意”が滲んでいた。


 「……魔族が、憑依……!」

 エルシオが思わず息を呑む。


 「そうだ。私は――四将のひとり、“バラムガン”。」


 「四将……?」

 エルシオが呟くと、アリシアは静かに頷いた。

 「魔王に仕えた四人の将……。まさか、あなたが。」


 「ふん。俺のペットの魔獣を殺したのはお前だろう、勇者。一瞬で死んだからもしやと思ったが。」


 アリシアは眉をわずかに寄せる。

 「……あの魔獣は、あなたが放ったのですね。」


 「ほう……やはり間違いない。」


 アリシアはゆっくりと前へ出る。

 その姿は冷静で、しかし揺るぎなかった。


 「どうして、こんな場所に現れたのですか?」

 「新しき王の命によるものだ。お前を滅ぼすためにな。」


 「……新しい、王……?」

 「魔王様は再び生まれた。お前が殺したあの方の“血”を継ぐ者としてな。」


 アリシアの表情がわずかに動く。

 しかし、それは恐れではなかった。

 ただ、かすかに心の奥に沈む決意が、その瞳を強くした。


 エルシオは隣でその気配を感じ取っていた。

 彼女の小さな背中が、不思議と誰よりも大きく見える。


 オークの体がぐらりと傾き、足元の地面が軋む。

 木の葉が舞い、夜の闇が揺れた。


 「――エルシオさん。下がってください。」

 「……はい。」


 アリシアの剣が鞘を抜け、銀の光が月明かりを裂く。

 静寂の中、その音だけが鋭く響いた。


 バラムガンの口元が歪む。

 「……さあ勇者。お前の力を測り、魔王様への土産としよう。」


 アリシアはわずかに息を整え、剣を構える。

 「来ます、エルシオさん。離れないでください。」


 風が止まり、夜が息を潜めた。

 そして、咆哮が森を揺らした。

 ――“戦い”が始まる音だった。

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