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呪鎖の勇者と修繕師の眼  作者: ソルト
第1章 呪鎖編1
23/47

23話 森に潜むもの

 ――グオオオオオオオオオオオオオッ!!!


 鼓膜を貫くような咆哮が夜気を震わせた。

 地面の落ち葉が舞い上がり、焚き火の残り火がかき消える。


 アリシアは剣を抜き放ち、エルシオの前に立つ。

 「離れないでください!」

 「……はい!」


 森を包む闇の中、巨大な影が動いた。

 その輪郭は狼のようだが、常識では説明できないほど大きい。

 人の背丈の三倍はある。

 漆黒の毛並みに、紫がかった光が脈打つように走っていた。


 「魔力の気配……間違いありません。魔獣です。」


 アリシアの声は冷静だった。

 彼女の背中越しに見える魔獣の姿に、エルシオは息を呑む。

 恐怖よりも――目の前の“構造”を知りたいという衝動が勝った。


 エルシオは集中し、スキルを発動する。

 視界の色が淡く変わり、魔獣の身体が線と光で構成されたように映る。

 胸の奥――心臓の横に、一瞬、赤く輝く“ひび”のようなものが見えた。


 「……右胸のあたりが……弱点です!」


 叫んだ瞬間、魔獣の周囲の魔力が渦を巻いた。

 地面が震え、黒い靄が広がる。


 「下がってください!」

 アリシアが叫ぶと同時に、闇の中から四つの影が飛び出した。


 それは――狼だった。

 魔獣よりも一回り小さいが、それでも普通の狼の比ではない。

 牙は月光を反射し、瞳は血のように赤く光っていた。


 「……召喚、ですか」

 アリシアが低く呟く。

 「魔獣が……他の魔物を操るなんて……」


 狼たちは唸り声を上げながら、エルシオを囲むように散開した。

 アリシアが一歩前に出て、剣を構える。


 「来ます――!」


 最初の一体が飛びかかる。

 アリシアは地を蹴り、流れるような動きで横へ回避。

 空を裂くように剣を振り抜くと、狼の首が鮮やかに宙を舞った。


 すかさず二体目が背後から迫る。

 エルシオが「後ろ!」と叫ぶ前に、アリシアの体が反転していた。

 低い姿勢で地を滑りながら剣を突き上げ、喉元を貫く。


 「これで二体……!」


 残る二体が同時に左右から襲いかかる。

 アリシアは受け太刀をしながら後退し、木を蹴って宙を舞った。

 体勢を崩した一体の背に着地し、そのまま刃を突き立てる。


 最後の一体が吠えた。

 巨体を振るい、アリシアに飛びかかる。

 彼女は剣を逆手に構え、冷たい目でその動きを見切る。


 ――一閃。


 剣が闇を裂き、狼の胴が地面に沈んだ。

 血が土に吸い込まれ、夜の森に静寂が戻る。


 「……終わりました。」

 アリシアが短く息を整える。


 エルシオは呆然と立ち尽くしていた。

 戦闘というものを、間近で見たのは初めてだった。

 アリシアの動きは、言葉にならないほど正確で、美しかった。


 「すごい……まるで、全部が見えているみたいでした」

 「慣れですよ。――ですが、油断は禁物です。」


 アリシアは視線を魔獣のほうへ向けた。

 狼たちの死骸を前に、主たる魔獣はまだ一歩も動いていない。

 ただ、静かに息をしているだけ。


 その瞳が、ゆっくりとエルシオたちに向けられた。

 赤黒い光が燃え上がる。


 「……何か、感じますか?」

 「ええ……まだアイツからは余裕を感じます……。」


 エルシオは無意識に喉を鳴らした。

 魔獣の四肢に宿る力が、今にも弾けそうに震えている。

 このままでは、さっきの戦いとは桁が違う。


 「……アリシアさん、どうしますか?」

 「倒します。――ここで、終わらせます。」


 その言葉と同時に、アリシアが前へと踏み出した。

 月明かりが剣の刃に反射し、森の闇を切り裂く。


 だがその瞬間、魔獣の体に紫の紋様が浮かび上がる。

 地面が低く唸り、周囲の木々がざわめいた。


 「……スキル発動……!?」


 エルシオの声が震える。

 魔獣の咆哮が、二人を包み込んだ。


 ――グオオオオオオオオッ!!!


 地面が裂けるような衝撃。

 光が弾け、闇の中から新たな影が現れた。


 再び、四匹の狼。

 まるで呼吸をするように、魔獣の足元から生まれていく。


 「やはり……召喚。けれど、数が限られている……なら、まだ戦える。」


 アリシアは剣を握り直し、次の一歩を踏み出した。

 戦いの幕は、まだ下りていない。

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