表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
呪鎖の勇者と修繕師の眼  作者: ソルト
第1章 呪鎖編1
22/47

22話 増える影

森の空気は、朝露とともに冷たかった。

 小鳥のさえずりがどこか遠くで響き、風が枝葉を揺らしている。

 その静けさを切り裂くように、茂みの奥から飛び出した影があった。


 「アリシアさん、右です!」


 エルシオの声と同時に、アリシアの体が風を切った。

 銀の剣が一閃。草むらから現れた小型の魔物が悲鳴を上げ、地面に倒れ込む。

 まだ息がある個体に、彼女は軽く蹴りを入れ、確実に止めを刺した。


 「……数が多いですね」

 アリシアが息を整えながらつぶやく。

 額に浮かんだ汗を指でぬぐい、辺りを警戒する。


 「このあたりは安全だって、街で聞いてたんですけどね」

 エルシオが苦笑いを浮かべながら言う。

 腰の袋から小瓶を取り出し、軽く傷の手当てをする。

 モンスターの血が飛び散り、土の匂いと混ざって生々しく漂った。


 森の奥では、まだざわめきが続いていた。

 木の陰から光を反射する瞳が、いくつもこちらを見ている。


 「……どうやら、今日はこの辺で切り上げた方が良さそうです」

 「はい、僕もそう思います」


 二人は森の中を抜け、開けた場所に出た。

 少し離れた丘の上で焚き火を起こし、濡れた服を乾かす。

 風が木々の間を抜けて、パチパチと薪の音を運んでくる。


 エルシオは手帳を開いて、軽くメモを取りながら口を開いた。

 「……最近、モンスターの数が増えてる気がしませんか?」


 アリシアが小さくうなずく。

 「ええ。気づいてました。街道沿いでも、以前より気配が多いんです。

  でも……普通、こんな場所には出てこないはずなんです。」


 エルシオは少し考え込むように、炎を見つめた。

 「僕もそう思います。

  街の外れで僕が襲われた時も、

  それからアリシアさんが商人を助けた時も……どちらも“ありえない場所”でした。」


 アリシアは手を止め、顔を上げる。

 炎の光が瞳に映り、静かに揺れた。

 「偶然……とは思えませんね。」


 森の奥から風が吹く。

 焚き火の炎が一瞬ゆらぎ、影が長く伸びた。


 「……エルシオさん。何かが、動き始めているのかもしれません。」

 その声には、わずかな緊張が混ざっていた。

 かつて魔王と戦った者だけが知る、“嫌な予感”のようなもの。


 エルシオは喉を鳴らし、言葉を失う。

 聞こえるのは、風と焚き火の音だけ。

 それでも、胸の奥に確かなざわめきが残っていた。


 「……気のせいだといいんですけど」

 「ええ。そうだと、いいんですけどね」


 その瞬間だった。

 森の奥――遠くの闇の中から、何かが軋むような音が響いた。

 鳥たちが一斉に飛び立ち、木々が揺れる。


 エルシオが立ち上がる。

 風に乗って、低く、腹の底を震わせるような鳴き声が届いた。


 ――グオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!


 空気が震え、森がざわめきに包まれる。

 焚き火の火が大きく揺れ、アリシアが剣を握る。


 「……今のは、まさか……魔獣……?」


 森の奥の闇が、ゆっくりと息をしているようだった。

 夜が落ちていく。

 それは、新たな不穏の幕開けを告げる音のように響いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ