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呪鎖の勇者と修繕師の眼  作者: ソルト
第1章 呪鎖編1
21/47

21話 アリシアの戦い

 森の空気がぴんと張りつめていた。

 風が止み、鳥の声さえ消える。

 エルシオは息をのんだ。


「エルシオさん、下がってください」

 アリシアの声は静かで、けれど鋭かった。

 鞘から抜かれた銀の剣が光を反射し、わずかに森を照らす。


 茂みが揺れる。

 そこから現れたのは、棍棒を握る小さな影――ゴブリンだった。

 唸り声とともに飛びかかる。


 一瞬。

 風を裂く音とともに、アリシアの姿が消えた。

 次の瞬間、銀光が閃き、ゴブリンの動きが止まる。


 そのまま、音もなく崩れ落ちた。

 剣を払う仕草まで無駄がなく、流れるようだった。


「……もう大丈夫です」

 アリシアは息を整えながら言った。

 エルシオはただ、呆然と見つめる。


 あの小柄な体のどこに、こんな力があるのか。

 そして、なぜこの人はここまで冷静でいられるのか。


「……すごい」

 かすれた声でそう言うと、アリシアは小さく笑った。


「慣れていますから」

 それだけ言って、すぐに踵を返す。

 その横顔には、どこか冷たい影が落ちていた。



 夕暮れ。

 二人は森を抜けて小さな丘に腰を下ろした。

 アリシアが火を起こし、焚き火が小さくぱちぱちと鳴る。


「街を出て一日目。どうでしたか?」

「……全部が初めてでした。風も、匂いも、音も……。でも、怖くはなかったです」

「それは良かった」


 アリシアは鍋に水を注ぎながら、静かに微笑む。

 火の粉が舞い、彼女の銀髪に淡い光が映った。


「でも、戦う姿を見て……思ったんです」

「?」

「僕も少し、強くなりたいです。

 守れるようになりたい。誰かを支えられるくらいに」


 その言葉に、アリシアの手が一瞬止まった。

 しばらく黙り込んでいたが、やがて静かに口を開いた。


「……“守るために戦う”。そういう言葉、私は少し苦手なんです」

「え?」

「私が剣を取ったのは、誰かを守るためじゃありません。

 大切なものを奪われたから……。

 取り戻すために戦っただけです」


 エルシオはその言葉に息をのんだ。

 焚き火の赤い光が、アリシアの瞳の奥に映っている。

 けれどその輝きは、どこか遠く、悲しげだった。


「それでも、誰かを助けているじゃないですか」

「……そう見えるだけですよ」

 アリシアは小さく笑い、焚き火に視線を落とす。


「私の戦いは、誰かのためじゃなく、自分のため。

 だから、誇れたものじゃないんです」


 その声は静かで、けれどどこか痛みを含んでいた。

 エルシオは言葉を失い、火の粉が舞う音だけが耳に残った。


 長い沈黙のあと、アリシアがふっと表情をやわらげる。


「でも……あなたのように言える人は、きっと強いと思います」

「僕が……?」

「はい。優しさを持って戦える人は、強いです。

 それは私にはなかったものだから」


 エルシオは胸の奥が締めつけられるような気がした。

 この人は、どれほどのものを背負ってここにいるのだろう。


「……アリシアさん」

「はい?」

「僕、少しずつでいいので、教えてください。

 強くなる方法を」


 アリシアはゆっくり顔を上げ、微笑んだ。

「分かりました。無理のない範囲で、少しずつ」


 焚き火の光が二人を照らす。

 その夜、エルシオは初めて“自分の力で何かを変えたい”と強く思った。

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