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呪鎖の勇者と修繕師の眼  作者: ソルト
プロローグ
10/47

10話 視えてしまったもの

 机の上に置かれた剣を、そっと両手で持ち上げる。

 銀に輝く刃は、長い年月を戦い抜いてきたにもかかわらず、驚くほど澄んだ輝きを放っていた。

 柄の革こそ擦り切れているものの、それもまた「よく使われてきた証」に思えた。


 ただの武器じゃない――。

 この剣には、持ち主の生き様そのものが刻み込まれている。


「……すごい剣だな」

 思わず呟きが漏れる。


 視線を横にやると、椅子に腰掛けた少女――アリシアが、少し恥ずかしそうに笑っていた。

 その笑みは戦士のものではなく、ごく普通の少女の表情に見えて。

 だからこそ、この剣との落差が余計に気になった。



 気づけば、胸の奥がざわついていた。

 彼女はいったい何者なのか――。


 普段なら人に使おうなどと思わなかった。

 俺のスキル〈弱点看破〉は、建物や道具の損耗を見抜くためのものだ。

 けれど、この剣を持つ少女については、どうしても知りたかった。


 ほんの出来心。

 意識を深く沈め、スキルを発動する。



 視界に淡い光が浮かんだ。

 柄の弱り、刃の摩耗……いつも通りの情報が流れ込んでくる。


 だが次の瞬間、光は剣を離れ、自然とアリシア本人へと伸びていった。


「……っ」


 胸の奥。

 心臓から放射状に、四本の細い鎖のような影が絡みついているのが視えた。

 その鎖は彼女の体を締め付け、力を押しとどめている。


 武器の傷みではない。

 病でも怪我でもない。

 これは――呪い。



 息が詰まり、慌てて視線をそらす。


「どうかしましたか?」

 不思議そうに問いかける声が耳に届く。

 澄んだ碧眼がまっすぐこちらを見つめていた。


「……い、いえ。少し集中しすぎただけです」


 なんとか声を整え、剣を机に戻す。

 動揺を悟られないように、あくまで平静を装った。


「修繕に支障はありません。修理屋に持ち込みますので、明日の夕方には仕上がるはずです」


「ありがとうございます。本当に助かります」


 アリシアは柔らかく微笑む。その笑顔は純粋で、さっき視えた呪いの影など幻のように思えてしまうほどだった。


 だが――確かに視えてしまった。

 彼女の心臓を縛る四本の鎖が、確かに存在するということを。

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