10話 視えてしまったもの
机の上に置かれた剣を、そっと両手で持ち上げる。
銀に輝く刃は、長い年月を戦い抜いてきたにもかかわらず、驚くほど澄んだ輝きを放っていた。
柄の革こそ擦り切れているものの、それもまた「よく使われてきた証」に思えた。
ただの武器じゃない――。
この剣には、持ち主の生き様そのものが刻み込まれている。
「……すごい剣だな」
思わず呟きが漏れる。
視線を横にやると、椅子に腰掛けた少女――アリシアが、少し恥ずかしそうに笑っていた。
その笑みは戦士のものではなく、ごく普通の少女の表情に見えて。
だからこそ、この剣との落差が余計に気になった。
◆
気づけば、胸の奥がざわついていた。
彼女はいったい何者なのか――。
普段なら人に使おうなどと思わなかった。
俺のスキル〈弱点看破〉は、建物や道具の損耗を見抜くためのものだ。
けれど、この剣を持つ少女については、どうしても知りたかった。
ほんの出来心。
意識を深く沈め、スキルを発動する。
◆
視界に淡い光が浮かんだ。
柄の弱り、刃の摩耗……いつも通りの情報が流れ込んでくる。
だが次の瞬間、光は剣を離れ、自然とアリシア本人へと伸びていった。
「……っ」
胸の奥。
心臓から放射状に、四本の細い鎖のような影が絡みついているのが視えた。
その鎖は彼女の体を締め付け、力を押しとどめている。
武器の傷みではない。
病でも怪我でもない。
これは――呪い。
◆
息が詰まり、慌てて視線をそらす。
「どうかしましたか?」
不思議そうに問いかける声が耳に届く。
澄んだ碧眼がまっすぐこちらを見つめていた。
「……い、いえ。少し集中しすぎただけです」
なんとか声を整え、剣を机に戻す。
動揺を悟られないように、あくまで平静を装った。
「修繕に支障はありません。修理屋に持ち込みますので、明日の夕方には仕上がるはずです」
「ありがとうございます。本当に助かります」
アリシアは柔らかく微笑む。その笑顔は純粋で、さっき視えた呪いの影など幻のように思えてしまうほどだった。
だが――確かに視えてしまった。
彼女の心臓を縛る四本の鎖が、確かに存在するということを。




