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呪鎖の勇者と修繕師の眼  作者: ソルト
プロローグ
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1話 始まりの街ノヴァリス

ここノヴァリスは、大陸の中でも比較的穏やかな街だ。

 城壁に囲まれた街並みには石畳の道が走り、朝になれば商人や旅人が行き交い、露店にはパンや果物、布地が並ぶ。

 遠くの鐘の音と、鍛冶屋の槌音が混ざり合い、今日もまた一日が始まったと告げている。


 魔王が討たれてから一年。

 最前線の都市に比べれば、この街は戦火から遠く、平和そのものに見えるだろう。

 人々は魔物の脅威を恐れながらも、日常を取り戻しつつあった。



 その街の片隅に、〈弱点看破〉という少し変わったスキルを持つ少年がいた。

 名をエルシオ。十七歳。

 幼い頃に両親を失い、姉のミレナと共に暮らしている。


 エルシオのスキルは、剣や家の柱など――“物の脆い部分”を直感的に見抜く力だった。

 柱なら「ここを補強すれば持つ」。

 剣なら「ここが折れやすい」。

 それを伝えるだけで、修繕の手間はぐっと減る。


 冒険者のように華やかさはないが、街の大工や鍛冶屋にとってはありがたい存在だ。

 その助言に銀貨十枚。大きな仕事なら金貨一枚にもなる。

 姉の占いと合わせれば、二人で暮らすには十分すぎる収入だった。



「おはよう、エル。今日も依頼?」


 朝食のパンを切り分けながら、ミレナが声をかけてきた。

 彼女は四歳年上で、今は街で小さな占い屋を営んでいる。

 その能力は、悩みを抱えた人に「どうすればいいか」を示すものだった。

 人の心を救う力に、多くの人々が行列を作る。


 エルシオは肩をすくめて答えた。

「いや、今日は依頼が入ってないみたいだ」


 そう言ってパンをかじる。

 こうして何もない日は、街をぶらぶらしながら声をかけられるのを待つことになる。

 暇といえば暇だが、平和な証拠でもあった。



 午前は本当に何もなく、エルシオは広場の噴水に腰を下ろしてぼんやり空を見上げていた。

 露店の商人に冷やかされ、顔見知りの子供に手を振られ、退屈だけれど穏やかな時間。

 ――この生活がずっと続けばいい。


 そう思っていた、その日の午後。


「エルさん、依頼です!」


 駆け込んできた少年が声を張り上げた。

「街の外れにある古い小屋を見てほしいって!」


 エルシオは眉をひそめた。

 街の外。そこは、彼が一番避けたい場所だった。

 危険だからだ。魔王が倒れたとはいえ、魔物はまだ完全に消えたわけではない。


 けれど、ここしばらく仕事は少ない。

 収入が減ってきたのも事実だった。


「……仕方ないか」


 そう呟き、エルシオはゆっくりと腰を上げた。

 その胸の奥に、わずかな不安を抱えながら。

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