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わんこな旦那様の胃袋を掴んだら、溺愛が止まらなくなりました。  作者: 楠ノ木雫


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◇35

 使節団の王子達はシャレニア王陛下へお誕生日を祝うお言葉を伝えていた。その中で、だいぶ失礼な態度を取られたチョランの王女殿下は、さっきのような私との態度とまるっきり違う様子。驚きはしなかったが……呆れてしまいそうになった。


 お隣にいらっしゃるタリス夫人は呆れてものも言えないようで、反対側にいらっしゃるトメラス夫人は笑顔を見せつつも、扇子を開いて隠していた口は全く笑っていなかった。


 まぁ、いつもの事なのだろう。彼女は何かと理由を付けてこちらに訪問されていたようで、訪問中は旦那様を追いかけまわしていたようだ。旦那様ご本人は相手が相手なため強く言えずかわし続けていたそうだ。


 首都を案内しろだの、護衛をしろだの、さらには結婚しろだのとうるさかったらしい。いやぁ、人気者はつらいですね。なんて罪な人なのでしょうか。


 そう思いつつも、つい数日前に本人が言っていた事を思い出した。



『あ”~~~~、仕事辞めたい……』


『何言ってるんですか、騎士団総括様』


『騎士団長殿に全部任せて俺らで領地に行こ。とっても広くて綺麗な草原があるんだ。一緒に行こうよ。ピクニックしよピクニック!』



 最近やたらと抱きしめてくるわ抱っこしてくるわ大好きだなんだといきなり連呼してくるわとあったのは、こういう事だったのか。なるほど、だいぶ滅入っているようだ。うん、強引な人なのかな。お疲れ様です。私は勘弁(かんべん)だわ。


 陛下の近くに立ってる旦那様にニコッとした王女様が見えたが……対する旦那様は……うわぁ、無表情で目つぶってる。あんな顔初めて見たんだけど。なるほど、こんな感じか。


 本来なら、私はチョランの王女に案内や説明などをするわけなんだけど……何故だかその役をトメラス夫人が買って出てくれた。私にウィンクして。きっと察したのだろう。後で何か贈らせてください。



「あら~まだご結婚なさっていないようですね~。もういい歳なのに~。まさか貰い手がいない、なんてことあり得ませんよね? 一国の王女様なのですからいずれは決められた殿方と結婚しますし。もし決まった際には祝福いたしますわ~」


「相変わらず王族に敬意を示さない無礼者なのは変わってらっしゃらないのね」



 何やら不穏な空気となっていたけれど、隣のタリス夫人がため息をついていたので何となく察した。あれはあのままにして構いませんよとでも言いたそうな顔をしているから、とりあえず気にせず貴賓客に挨拶して回る事にした。


 まぁ、お二人は年が近いしな。けど、トメラス夫人って、本当にどストレートに言うなぁ、と思ってしまった。尊敬は……していいのだろうか。



「こちらにいらっしゃいましたか、ライアス王子」


「ダルナード夫人、私もいるのですが?」


「顔がそっくりですから見落としてしまいましたわ」



 今回、あの密売事件の事がありミルシス王国の使節団がご来訪する事が決まった。そして、そのタイミングを見計らい、私はとある方をご紹介することにした。



「ご紹介しますね。こちら、シャレニアで香辛料事業をされていらっしゃる方です」


「お初にお目にかかります……」



 ミルシス王国は、国内で香辛料があまり出回らず母国である暁明王国から香辛料を輸入していた。と言っても、このシャレニア王国ほどのものではない。


 だから、今回二人に香辛料を勧めるよう提案したのだ。そして、このお二人には事前に話を付けている。だから、この後話をする予定になっているのだ。



「三人は、とても仲がよろしいのでしょうか?」


「えぇ、小さい頃から交流があったのですよ」


「なるほど……」



 以前、ちょっと……いや、だいぶか。晩餐会で侯爵を追い詰めてしまったから今回の交流で話が良い方にまとまるよう尽力(じんりょく)しなくてはならない。


 そりゃ、大公家が香辛料を減らすようなものを出してしまえば需要がどんどん減ってしまい売り上げが右肩下がりになってしまう。自分達や、領地民の生活まで(おびや)かされてしまうのだから頭を抱えるに決まってる。



「それで、夫人。よろしいのですか?」



 と、ライアス王子はそう言いつつ目線を違う方に向けた。侯爵は「あ……」と焦りを見せたような声を出している。


 その先にあったもの、それは……今問題になっているチョランの王女だ。楽しそうに話を……いや、旦那様のあの顔。あれは……真顔? 私、あの顔初めて見るぞ?



「ダルナード卿はとてもハンサムな方ですからね」


「……こちらが困ってしまうくらい、ですね」


「おや、夫人の口からものろけが出てくるとは意外ですね。では早く行って……おや」



 ササッと王女をよけ、見つけたらしい私に一直線に近づいてきた。いきなり私の横に立ち、肩を抱いてくる。ここをどこだか分かっていてやっているのだろうか。恥ずかしいからやめてください。



「ご機嫌麗しゅう、ライアス王子。お久しぶりでございます、テモワス王子」


「ダルナード卿も大変ですね」


「可愛い妻を見つめる周りの者達を牽制するのに、ですか?」


「おや、それには私も入っているのかな。その気はないので勘違いはしないでくださいね。とてもお似合いですよ、お二人とも」



 お邪魔虫は退散するとしましょうか、と3人は逃げていってしまった。いや、なんて話をしているのだこの人は。と、反論したかったけれど、まるで入れ替わりのように近づいてくる人が一人。いや、面倒な事になるだろうから巻き込まれないように逃げたのだろうな、ライアス王子は。そのタイミングで二人も便乗して逃げたか。



「オリバー!」



 先ほど旦那様に話しかけていたチョランの王女だ。



「何か御用ですか、王女殿下」



 うわぁ、声が冷たい。いつもと全然違う。この人は本当に私の知る旦那様なのだろうか。



「オリバー、あのね」


「先ほども申し上げましたが、私は既婚者ですし近い間柄でもございませんのでそのような呼び方はやめていただけますか」


「別にいいじゃないっ! だって、それなりには近いでしょ?」


「殿下」



 王女の、初めて会った時や、さっき陛下にご挨拶した時とは全く違った猫かぶりに驚いていたけれど、冷たい声の旦那様の方がもっと衝撃的で固まってしまった。誰だ、この人は。


 けれど、王女の方も何故だか驚いているようだ。何かいつもと違うのだろうか。



「も~そんなに怒らないでよっ!」


「御用がないのなら失礼します」



 行こ、スイラン。そう顔で言われ、私の肩を抱いていた手に力が入り王女殿下に背中を向けるよう促されそのまま一緒に離れた。


 ちらり、と旦那様の顔を見たけど、気が付かれ笑顔を見せてきた。あぁ、なるほど。王女殿下の事は気にするなと。


 その後、誕生祭の主役であらせられる国王陛下の所(避難所)に向かい、笑顔で迎えられてしまった。一緒にいらした王妃殿下にはクスクス笑われたが。なるほど、この状況をだいぶ面白く思っているわけだ。こちらとしては笑い事ではないのだけれど。



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