◇33
時は過ぎ、《クッキー専門店・パティスリー》も着実に成果を上げていた。最初はためらっていた紅茶のクッキーは今では人気商品となっていた。
そして、今日。私は今、王城にいる。
もう国王誕生祭を数日に控えているのだ。そのため他国からの使節団の方々が着々とシャレニア王国に集まってきている。そしてその中の一つ。
「お久しぶりでございます、姉様」
「お元気そうで何よりです」
「……長旅、ご苦労様」
何故だか、暁明王国の者達が来ていた。まぁ、王女の嫁ぎ先の国王誕生祭だから分かるっちゃ分かるけど……何故に私の弟達である双子が来てるんだ。しきたりはどうした、しきたりは。王族が島を出てこんな所に来ていていいのか。
しかも、双子は王子モードでありつつも、もう旦那様と話したくて話したくてしょうがないらしい。周りの目は騙せても、私は騙せないぞ。
「この度はご招待いただき誠にありがとうございます。そして、お誕生日おめでとうございます、シャレニア王」
「ご足労頂き光栄だ。滞在中は羽を伸ばしてゆっくりしていってくれ」
「恐れ入ります」
シャレニアとでは文化が違うから、こちらに集まって来る使節団の者達は服装はもちろん所作まで変わってくる。暁明王国の者がこの国に来るのは私が初めてであるため、周りはどう言った対応をしていいのか分からずにいる。だから私が相手をしているわけなんだけれど……陛下と王妃殿下はだいぶ楽しんでいらっしゃる様子だ。
「あらまぁ、とってもしっかりしているのね。素敵なピンクの髪もお姉さんにそっくりだわ」
「お褒めいただき光栄です」
「我が国の王族は皆ピンクの髪色をしているのです。我々の父上である国王陛下も、母上である王妃殿下も父上といとこ同士という事もあり同じ髪色をしていますよ」
「ほぅ、そうなのか。今度会ってみたいものだな。その時は我々がそちらの国に赴くとしようか」
「光栄です。きっと父上もお喜びになります」
「お待ちしております」
陛下方の前でヘマをしないか心配ではあったが、腐っても王族だ。ちゃんと出来て偉いぞ。
今回、弟達は使節団用に用意されていた王宮の来賓専用の部屋ではなくダルナード邸で過ごすことになっている。だから話す時間は十分にあるだろう。
まぁこれから色々と忙しくなるが……私は大公妃殿下であるからこの国の為にも頑張らなければ。
とりあえず、今日はもうひと国の使節団もいらっしゃることになっているからそちらに向かおう。実は予定より早い到着となりもう来ていらっしゃるようで、タリス夫人が対応しているらしい。私もすぐに行かなければ。
と、思っていたんだけど……なんとも楽しそうに談話しているようだ。でも、何故に万国共通語ではないのだろうか。
「遅くなってしまい申し訳ありません。スイラン・ダルナードと申します。初めまして」
だけど……あぁ、なるほど。私の弟達と同じぐらいの歳の女の子はきっと王族の方なのだろう。でも万国共通語が出来ないらしい。隣国で使われている言葉しか分からないのだろうか。
でも、タリス夫人がそちらの言葉で話しかけている。なるほど、喋れないのなら引っ込んでろと。そういう事か。だけど……
『初めまして』
『こ、こちらこそ初めまして』
この国の方々はメリウス王国から来た方々だ。母国にもメリウス王国使節団は来たことがあり、私も交流があった。まぁ、そちらの言語の猛勉強はしたから一応喋れる。あぁ、お母様の鬼の顔が浮かぶ……さっさと覚えなさいと叩き込まれた日々がフラッシュバックされそうだ。これは血と涙と恐怖のたまものだと言っても過言ではない。
『ではご案内しますね』
そう言うと、タリス夫人は潔く下がった。出来るのならよろしいですわ。とでも言いたいのだろう。あぁ、怖い。
毎年、こういった際はタリス夫人が仕切っていたようだ。お出迎えするのは夫人の仕事らしいし。ミーア夫人はそういった事には口出しはせずお好きにどうぞと譲っていたそうだ。確かに、面倒ごとはしませんよって言いそうだ。
とはいえ、経験者であるタリス夫人に何か聞こうとすると、なら私がやりますから引っ込んでいてくださいと言われそうだから頑張ろう。
『シャレニアは初めてですか?』
『は、はい』
『そうでしたか。でしたら滞在中空いた時間でいろいろと見て回っていかがでしょう。美術館や劇場、ボートや噴水ショーなどございますよ』
『噴水ショー! あっ、ですか……』
『ふふ、音楽に合わせて噴水の水が踊るように地面から噴き出すのですよ。もしよろしければガイドもお付けいたしましょうか。ショーが始まる時間などもお調べしましょう』
『でも、お手間をおかけしてしまいますから……』
『構いませんよ。王女様にシャレニアを気に入ってくださるよう務めさせてくださいな』
『じゃあ、お願いします!』
例え王女であっても中身は可愛い女の子だ。
「おぉ、先月ぶりですね、ダルナード夫人」
「お越しくださりありがとうございます、スラディ大公」
今回は、テリサ王国の使節団も参加となった。初参加だ。あまりこの国と関わりのない国ではあったけれど、向こうは関わりを持ちたかったようだ。向こうは私を通じて関わりを作ったため私を利用したという事ではあるけれど、私としても紅茶の件で利用させてもらったからこれでおあいこだ。どちらも得したんだし。
そんなこんなで、今日の来訪者はきちんとご案内したのだが……
「はっはっはっ、やはり良いですなぁこれは。とても新鮮で楽しいですよ」
「大公は本当にこのテーブルが好きですね」
「おや、王子はあまり好きではないのですかな?」
「もちろん好きですよ。前これを回しすぎて母上に怒られたこともあります」
「ははっ、子供のうちはそれでよろしいかと思いますよ。やりたくなってしまうものですからね」
まぁ、双子はダルナード邸に泊まる事にはなっていたけれど……何故にスラディ大公までいらっしゃるんだろうか。まぁ、この回るテーブルで食事したかったのは知ってるけれど……今日は王宮での食事ではなかっただろうか。いいの?
丸いテーブルに私と旦那様、双子とスラディ大公という何とも言えないメンバーが揃っているわけだけど……いいの?
「おぉ~! 八宝菜だ!」
「リーファ! それチンジャオロースだよね! ねーちゃん選んでくれたの!」
「こら、お行儀良くしなさい」
「はっはっはっはっ! いつもながらにお二人は元気がありますな。ダルナード夫人、良いではないですか。今日くらいは。久しぶりのお姉さんとの再会なんですから。ダルナード卿も、どうでしょう」
「えぇ、食事は楽しくしなくては意味がないですからね。スイラン、久しぶりなんだから、今日ぐらいは大目に見てやってくれないか?」
「……羽目は外しすぎないようにね」
「はーい!」
「ねーちゃんありがと!」
おい、ねーちゃん呼びはやめろ。
その後、楽しく昔話に花を咲かせつつもここに来てからの結婚話も交えつつ、そして酒も進み楽しい食事の時間となった。
「いやぁ姫様は本当にお酒が強いですなぁ~! ダルナード卿はご存じですかな? 姫様の成人式の話を」
「スラディ大公、少し飲みすぎですよ」
「そうですか? シャレニア王国のお酒はとても口当たりが良くて飲みやすいのでつい飲みすぎてしまいそうになりますね」
「そうなの?」
「おこちゃまはジュースよ」
「ケチ」
アホか。ダメに決まってるだろ。あんたらは成人してないんだからソフトドリンクだ。
「姫様の事なら小さい頃からの付き合いですからよく知ってますよ~、お聞きになりますかな、ダルナード卿?」
「もちろんですよ」
「おぉ~! でしたら、どれがいいでしょうかねぇ。あれは確か、姫様が10歳の頃だったでしょうか。結構やんちゃでしたから……」
「ストップ」
このじいさんは酔うとぺらぺらと喋っちゃうのが問題よね。本当にやめてほしい。私の幼少時代なんて聞かなくてもいい。ちょっと旦那様、何ですその残念そうな顔は。
でも、こんな風に昔の話をしつつの食事はだいぶ久しぶりだった。まぁ、弟達との食事が久しぶりだったというのもあるけれど。
とても、楽しかった。




