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わんこな旦那様の胃袋を掴んだら、溺愛が止まらなくなりました。  作者: 楠ノ木雫


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36/46

◇32-2

 仮面舞踏会の会場に何人かいる、お酒のグラスをトレイに乗せ歩き回る使用人の中で、黄色の蝶ネクタイをしているうちの一人に声をかけた。



黒の間(・・・)の休憩室に行きたいのだが、案内してくれるか」


「かしこまりました」



 そう旦那様が言うと、会場から離れた場所に案内された。この会場に入るために通った扉とは違う扉を通り、長く続く廊下を歩いた。


 今のは合図だ。裏オークション会場は勝手に入れるところではない。会場内には、裏オークションの存在を知る者は恐らく半分もいないはずだ。ただ仮面舞踏会を楽しみに来ただけの客もいるのだ。


 裏オークションとは、名前の通り非公式のオークション。とはいえ、ギリギリ合法である。取り扱っている商品は、ここの主催者が用意したものもあれば、他の者が出したものまである。売っていいものと悪いものは国々で変わってるくるけれど、それでもちゃんと守ってチェックしているようだ。


 そして、購入したらオークション側は一切の責任を問わない事がルール。自分で買ったのだから責任を持ってくれ、という事。


 そうして辿り着いた、大きな扉。この煌びやかな廊下には似つかない重量感のありそうな金属の扉だ。その前に立っていた使用人に、スラディ大公から頂いた会員カードを見せた。使用人は頷き、扉を開ける。



「足元が暗くなっておりますのでお気を付けください」



 使用人の案内で付いていくように私達は扉をくぐる。まるで劇場のような道で、その先にあった会場もまさに劇場のような造りだった。真ん中に舞台があり、それを上から見られるように席が並んでいる。まるで地球にあった小さ目の東京ドームのようだ。二階席だけの。


 こちらをどうぞ、と渡されたのは金色で高級感のある装飾がされた、片方に持ち手のある望遠鏡。これでステージに用意された商品を見るのか。


 案内してくれた使用人から、説明を受けた。今回は42点の商品が準備されており、一点ずつステージに用意されては説明され指定された金額からの競売スタートとなるらしい。



「もしお求めの際には私に金額をお申し付けください。この札を上げて金額を代わりに提示いたします」



 札には、20と数字が書いてある。私達は20番のお客さんという事なのだろう。なるほど。声を出すと誰なのか分かってしまう可能性もあるからという事もあるかもしれない。


 そして、パラパラとお客さんらしき方々が集まってきた。皆仮面を付けている。



「さぁ、本日はお集まりいただきありがとうございます!」



 薄暗かったステージに明かりが当てられ、ステージの真ん中に黒い紳士服を着た仮面の男性が現れた。これからオークションが始まるようだ。


 説明の通り、一つ商品がステージの真ん中に運ばれてきた。タイヤが付いているのだろう低めの台に乗せられ運ばれてきた、大きな剣だ。



「これは初代レマックス帝国皇帝が所持していた大剣でございます! 保存状態もよく、(さび)や――」



 レマックス帝国なんて、確か幻の国と言われた国だ。とはいえ、それが存在したのは今から約1000年も前の話。本当にあったのかどうかも分からない。


 それからというものの、幻の孤島に眠っていた水晶、古代遺跡で発見されたとされる宝石、幻のマヤリラ民族伝統の刺繍がされた織物、などなど物珍しいものばかりが出てきてはいい値で売却されていった。


 そして、23点目。



「これは繊細なガラス細工で形作られた置き物でございます!」



 出てきたのは、大きな花だ。透明感のあるピンク色をした花びらは、大きなものが5枚、その上に小さなものが5枚重なっていて、真ん中には黄色の宝石があしらわれている。


 あぁ、これか。そう悟ってしまった。それと同時に、呆れてしまった。呆れて笑えない。なんてものを……



「今日は、どれくらい使ってもよろしいですか」


「いくらでも」



 隣の人に聞くと、さらっと返された。マジで使っていいらしい。


 その言葉に一安心し、横に立つ使用人に金額を伝えた。


 番号札を上げた使用人は……



「10億」



 その、いきなりの巨額に周りは驚きを隠せずざわざわと騒ぎ立てる。先ほどまでは大体高くて2~3億程度だった。それなのにいきなり10億が出てきたんだからそうなるに決まってる。


 他の客を見るにひそひそと話をしている者達がちらほら。あれを狙っていたらしいけれど、さすがに10億なんてお金は出せないらしい。


 そして、時間になり私が落札となった。



「はぁ……」


「へぇ、あれか」


「……呆れてものも言えません」



 まさか、こんなものが裏オークションに出てくるとは思わなかった。というか、呆れて遠い目をしてしまう。


 というか、まずはテリサ王国の警備の見直しを提案したいところだ。


 けれど、まさか他にもあるわけないわよね、と疑り深く見ていると、とあるものが出てきた。



「……ん?」



 それは、壺だ。骨董品(こっとうひん)らしいんだけど……そこまで魅力的に思うような説明はない。年代物、らしいけど……設定金額が、意外と高い。



「どうしたの」


「いや、その……」



 隣に使用人が立っているから、聞こえないように旦那様の耳元に顔を近づけた。



「……色が、おかしいなと思って」


「色?」


「あの壺を作った製作者の出身国は陶磁器(とうじき)が特産品となっていますが……色がやけにぼやけているというか……それに、年数が経っているのであれば、例え色が暗めであってもあそこまで新しいような色にはなりません」


「へぇ……」



 あの国の壺は、いくつか見た事がある。そして、いろいろと教えてもらった事もあった。けれど、その特徴とはかけ離れたような装飾だ。きっとあれは、偽物だと思う。となると……


 そんな時だった。



「1億」



 その壺に、1億の価値を付けた客がいた。


 何となく心配してしまったけれど……



「5億」



 えっ……5億?


 あれを買うと? 5億で買うと。いいの?


 けれど、止まる事はなかった。いきなり隣の旦那様が口を開いたからだ。



「10億」



 えっ? 10億?


 さっき、あの壺は変だと話をしていたはずなのに……もしかして、何かあった?



「12憶」



 またまた巨額の声が、私達より少し遠くの方から聞こえてきた。最初に希望価格を提示した彼だ。薄暗いから見えづらくて分からないけれど、この会場にはシャレニア人の他にも外国人が何人もいるはずだ。だから誰なのか予測は出来ない。



「20億」



 ……旦那様、一体いくら使うつもりですか。



「25億」



 え、だいぶ上がってませ……



「40億」



 旦那様!? 40億!? 40億いきますか!?



「あの、だ、大丈夫ですか……?」


「うん」



 仮面をしていても分かる。だいぶ良い笑顔だ。さっきいくらでもと言われたけど、一体いくらまで予算があるのか。


 でも、そこまで希望価格を提示していると……だいぶあの壺が気になって仕方ないな。


 向こうの人言ってこないけど……やっぱり40億以上は出せない?



「45億」


「60億」



 すかさず旦那様が45億を一刀両断。私含め外野はもう言葉が出せない。二番目に希望価格を提示した人も静かになっちゃったし。さすがに60億はないか。


 というより、さっき私が使った10億、だいぶ大金だと思ってたのに可愛く思えてきたのだが。



「60億以上の方、いらっしゃいませんか? ではこちらは60億で落札です!」



 ……60億で、買ってしまった。



「あの……」


「ん?」



 とっても素敵な笑顔……旦那様が恐ろしく感じるのは私だけだろうか。



「……何でも、ありません」



 としか、言いようがなかった。


 そうして、初めて参加した裏オークションは幕を閉じたのだった。購入したものはすぐに屋敷に届けてくれるらしい。まぁ、巨額で買ったのだからすぐお届けになるよね。さ、帰って見てみよう。



「はぁ……」


「お疲れ様」



 まだ仮面舞踏会は終わっていなかったけれど、気疲れしてしまった事がバレてしまい旦那様と一緒に馬車に戻った。けれど……



「スイランは先に帰ってて」


「え?」


「俺ちょっと用事が出来ちゃったんだ。だから家で待ってて」



 そう言いつつ笑顔でドアを閉めてしまった。旦那様の一言で、馬車が動き出してしまう。


 用事? 用事って、どんな用事?


 一応私の用事は終わったはずなんだけど……もしかしてあの壺かな。だって、あんな大金で買ってしまったんだから。ただ私は色が変だとしか言ってない。もしかして偽物? と思ったとしてもそこまでするだろうか。


 そして、あの壺を欲しがった人はあと二人。ここには他国の者達も集まっているから予測出来ないけれど……もしかしたら、先ほどバッタリお会いした知り合いもあの場にいた可能性がある。……――ミルシス王国第二王子、テモワス・ルア・ミルシス王子が。



「……ん? 待って、おチビちゃ……ん!?」



 待て待て待て待て、やばい、それはヤバい……!!


 すぐに私はこの馬車の御者に戻るように伝えた。


 もしかして旦那様、あの人達と一緒にいないよね!? ダメダメダメダメ!! おチビちゃんはダメ!! 絶対収拾付かなくなっちゃう!?


 一体旦那様の用事が何だったのかは分からないけれど、あの二人の目的が分からない以上出くわす確率がだいぶ高い。となると……うわ、恐ろしい。


 何となく、血の気が引いたような、ないような。とりあえず、旦那様を回収しなくては……!!


 屋敷の前には馬車がいくつも並んでいるけれど、帰ろうとしている人はいない。だから、すぐに仮面をつけて馬車を降りると急いで屋敷の方に早歩きで向かった。


 玄関前の使用人は、焦る私を見て不審に思ったようだ。けれど、持っていた招待状と「忘れ物をしてしまったの」と言い訳を付けるとすぐに通らせてくれた。一緒に探すと言われたけれど、どこにあるか分かるから大丈夫と断りすぐに右側にある廊下に向かった。


 会場に向かう廊下とは違う廊下だ。私達が裏オークション後に玄関に行くために案内された廊下である。玄関に入るドアは小さくてあまり目立たないけれど、ちゃんと覚えてる。


 そして、私がその廊下を速足で進むと……えっ。



「どけぇぇぇ!!」


「えっ」



 誰かが、こちらに向かって走ってくる。男性だ。どけ、と言われるという事はこの屋敷の使用人ではないから裏オークションの参加者となる。けれど、ここまで急いで走っているし、何かを手に持っている。


 これは……止めた方がいい?


 と、思って目の前まで来ていた男性を止めようとしたけれど……あれ?


 いきなり、目の前まで来ていた男性が消えて、大きな音が廊下に響いた。



「俺の奥さんに触んな」



 ……わぁお。旦那様強いな。一蹴(ひとけ)りで壁に飛ばしちゃったよ。しかもめり込んでるし。



「こ、この……」


「あ゙?」



 こ、っわ……ドスの利いた声が、だいぶ怖い……


 これ、どうしたらいい?



「俺の、奥さん、っつったか?」



 修羅場、とはこの事を言うのだろうか。


 この男性と旦那様の登場で周りが見えていなかったのか、この男性が走ってきていた方向から、一人こちらに向かってきている人がいた。そして、その人物は……お会いしたくなかった方。



「お前か、私のスイランさんを(うば)ったのは」



 その声と一緒に、旦那様のところまで飛び、胸ぐらをつかんできたのは……おチビちゃんならぬ、ミルシス王国近衛騎士団副団長ミシェル・トワイニス嬢。


 でも……ちょ~っと、身長が、足りてないかな? 旦那様身長高いから、一応胸ぐらを掴めているけれど……顔がだいぶ遠い。


 けれど……何この緊張感のある空気は。と、思っていたら旦那様はパシッとミシェルの手を払った。



「奪った? 貰ったの間違いだろ。俺とスイランは夫婦だ。そこは間違わないでいただきたい」


「あ゙?」


「スト~~~~~~ップ!!」



 ほ~らやっぱりこうなった!! だから二人が出くわす前に旦那様を回収しようと思ってたのに!!


 はぁ、これどうしたらいいのよ……


 と、思っていたら二人はいきなり剣とナイフを抜いていた。いや、ちょっと待て、ここでそんな事……と思っていたら、二人共違う方向に投げ……逃げようとしていたらしいあの男性の顔面すれすれに刺さっていた。そ~っと逃げようとしていたらしい。


 ……こっわ。というか、息ピッタリだな。初めまして、だよね? 同じ騎士だから?


 とりあえず、ミシェルと同じ方向から走ってきたテモワス王子に助け船の視線を送っておいた。



「……とりあえず、こいつ回収するぞミシェル」


「……かしこまりました」



 ……はぁ、面倒くさい事になっちゃった。



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