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わんこな旦那様の胃袋を掴んだら、溺愛が止まらなくなりました。  作者: 楠ノ木雫


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◇28


 今日貰ったトメラス夫人からのプレゼント。封筒の中に入っていたのは、封筒より一回り小さいカードだった。黒い背景に、赤色のスペードのようなマークが入っている。まるでトランプのようだ。銀色のラメが入っていて、デザインもとても繊細で綺麗。でも、一体これは何なのだろうか。



「これ、ナイトクラブの会員証じゃないか」


「ナイトクラブ?」



 帰ってきていた旦那様がそう教えてくれた。確か地球では、お酒を飲みながらダンスや音楽を楽しむ場所じゃなかったっけ。へぇ、この世界にもクラブってあるんだ。



「主に貴族が利用するバーみたいなものだよ。とは言っても、身分を隠す人もいるけどね。あそこじゃ悪~い(うわさ)話とかが飛び交うんだよ。貴族なんて悪い話大好きだしね」



 なるほど、悪い噂をするにはここがぴったりという事か。社交界では言えない事とかはここで話すという事ね。



「会員制なんですよね?」


「そう。ナイトクラブを管理しているトメラス夫人が選んだ者達のみがメンバーになれるんだ。あんな情報収集に適したシステムなんだ、皆参加したがるでしょ」



 なるほど……確かにそうかも。悪い噂って言うと、何だか恐ろしい噂ばかりのような気もするけれど、私も気になるな。



「けれど、そんな場に何人も参加させたら問題事も起こる。だから会員制なんだ。とは言ってもそれでも酒が入るから問題事が起こる事はあるだろうけれど、スタッフは全員が腕の立つ警備員みたいなやつららしいんだ。それを知ってて騒ぎを起こすなんてことしないでしょ?」


「なる、ほど……さすが公爵夫人ですね」



 ちゃんと管理しているようだから、安全ではあるようだ。なら、行っても大丈夫かな?


 でも、どうして夫人は私にこれを渡しのだろうか。紅茶のお礼? それとも、大公妃殿下である私と仲良くなりたいから? まぁよく分らないけれど、行けば分かるよね。



「行くの?」


「行きますよ。せっかく会員にしてくださったのですから。もし面白そうな(うわさ)があったらすぐに伝えますね」


「ふぅん……まぁ、スイランはお酒強いけどさぁ……そこ、言ってみれば酔っ払い共のたまり場だよ?」


「大丈夫ですよ。手紙には、トメラス夫人が案内してくれるみたいですから」


「……」



 この会員証は私のみが使える。だから旦那様は私と一緒には入れないのだ。そんな不機嫌そうな顔をされても私は何も出来ませんよ。


 さっき旦那様が言った通り私はお酒には強い。黒歴史ではあるのだが、私の16の成人式。儀式後に行われる宴会で私は用意されていた暁明(シァミン)王国で製造しているお酒を全部飲んでしまったのだ。まぁ、お爺ちゃんたちもたらふく飲んだが、私が一番多く飲んだと思う。(たる)いくつぶんだったのかは忘れたが。


 暁明(シァミン)王国で製造されているお酒は日本酒みたいな味をしていて、どれも度数がお高めだ。それなのに私はあれだけ飲んでもケロッとしていたことにお母様は危機感を感じたらしい。


 だって、前世ぶりにお酒が飲めたんだから羽目を外すに決まってる。16年ぶり? いやぁ本当に美味しかった。


 まぁこの話は私からは話していないから、きっとリーファだろうな。果たしてどこまで言ったのか気になるところではあるけれど。



「会員証を持っているのはスイランだけだから俺行けないし……使用人も入れないし……ちょっと心配なんだけど」



 そう言って後ろから捕まえられてしまう。私がナイトクラブに行く事は旦那様にとっては面白くないらしい。でも、せっかく貰ったんだから行きたいし。それに、どうして私にこれを渡したのかも気になるし。



「大丈夫ですよ」


「行くの?」


「はい」


「ふ~ん」



 ……その返事、いやな予感がするのだが。




 そうして数日後、ナイトクラブに行く日となった。


 ナイトクラブとあって、時間は夕方だ。いつもと違う、暗いダークブルーのドレスに着替えて、そして髪はウィッグでピンクの髪を隠しオレンジの色に変えた。変装だなんて初めてだから、ちょっとわくわくしそう。



「私だって分かる?」


「瞳の色で分かるかもしれませんが、行き先が薄暗いようですから近くまでいかないと分からないと思いますよ」



 鏡を覗いてみても、確かに近くじゃないと分からないかもしれない。と、思っていたら鏡に入ってきた人が一人。そして、後ろから抱きしめてくる。



「俺なら匂いで分かるよ」


「匂いがかげるくらいの位置まで他人を入れるつもりはありませんよ」


「それなら安心」



 というか、ちょっときつい香水つけていても旦那様なら分かっちゃうかもしれない。


 ダルナード大公家の家紋が刻まれていない馬車に乗り、向かった先は、劇場だ。トメラス公爵家が経営している、首都で一番大きな劇場である。とても人気があってチケットを取るのは大変なんだそうだ。


 さすがトメラス公爵家、といったところだろうか。とても建物が大きく、そして派手だ。その建物に入っていくお客様は、装いからして貴族が大半だ。劇場はお金持ちの娯楽、というわけではないけれど、ここは貴族専用といってもいいくらいの金額といったところか。


 トメラス夫人が手紙で伝えてきたとおりに、劇場に入り受付に。そこでチケットを出すのだけれど、出したチケットの下にもう一枚封筒を重ねる。それを確認すると、劇場のスタッフが案内してくれた。



「お待ちしていましたわ、ダルナード夫人」


「ごきげんよう、トメラス夫人」



 会場に向かう廊下を外れ、とある扉まで到着するとトメラス夫人が見えた。私を見つけて駆け寄ってきてくれて、挨拶をするとすぐに腕に絡みついてきた。こんなにスキンシップが大胆だと、何も言えなくなる。とりあえず、旦那様には言わなくていいだろう。相手は女性だし。


 そして、夫人からとあるものを手渡された。それは、白い仮面だ。今日は身分を隠しての参加となるためこれを用意してくれたそうだ。付けて差し上げます、とトメラス夫人が付けてくれた。


 長いレットカーペットの廊下を進み、大きな扉に辿り着く。脇に二人のスタッフがいて、トメラス夫人が目くばせすると静かに扉を開いていた。その奥は少し薄暗い空間に見えた。


 何人もの人たちの声が聞こえてくる。とても楽しそうだ。お酒を飲む場所だから分かるけれど……本当にホストクラブみたいな感じがする。前世では一回も行ったことがないけれど、雰囲気とか、イメージとかがそれっぽい。


 赤を基調とした部屋で、ソファーの席がいくつも並んでいる。大きく長い赤いレースのカーテンが天井から垂れていてテーブルを仕切っているようだ。



「いかがです?」


「新鮮ですね。皆さん楽しそうです」



 そう言いながら歩きつつも周りを見渡す。大体15人~20人くらいだろうか。男性と女性どちらもいるけれど、どちらかといえば女性が多いか。まぁ、噂好きなのは女性の方が多いという事か。私のように仮面をしている人はぱらぱらといる。あとは、パーティーなどで見た事がある人が何人か。


 広い席に辿り着き、どうぞ座ってくださいと座らせてくれた。とってもゆったりとしていて、ソファーも座り心地がいい。



「何かお飲みになりますか? お酒は?」


「お酒は遠慮しますね。旦那様に怒られてしまうので」


「あら、そうなのですか。それでも構いませんよ」



 彼女は、ふふっと笑いつつも席に来ていた男性スタッフにグレープジュースを二つと伝えていた。


 周りはだいぶ楽しそうだけれど、一体どんな話をしているのだろうかと気になったけれど……耳を澄ませずとも聞こえてくる。




「聞きました? 紅茶に含まれているカフェイン、摂りすぎは身体に悪いんですって」


「わたくしも聞きました。ミセラ夫人のブティックに行った時に出していただいた紅茶は本当に美味しくて……だから最近は紅茶の茶葉を少なくしましたの。スプーン1杯でいいらしいのでそうしてみたのですが、とても美味しかったですわ。美味しく頂けるのでしたらいいですわよね」


「わたくし、聞きましたの。ダルナード夫人ってお胸が大きいでしょう? 体型もスラッとしていらっしゃるし。その理由はカフェインを適度に摂っているからだったんですって」


「まぁ! では私も気を付けなければいけませんね、ふふ」




 あぁ……そういう話か。なるほど、そういう話はさすがに社交界じゃ出来ないわ。だからここでするって事ね。


 というより、多分それはお母様の遺伝だと思います。はい。まぁ、健康になる事は大切だろうけれども。




「ダルナード卿って、そういう女性がタイプだったのね? 全く女性に振り向かなかったのはそのせいだったのかしら」


「意外でしたわ~」




 旦那様、言われてますよ。


 今日、言われたこととか全部話してねって本人に言われたけど……これは絶対言えない。




「ルイボスティーが妊婦に良いんですって。しかも、老化を防いで肌をよくするんだとか」


「そうそう、ですから私もどこで手に入れればいいのか探しているのよ。やっぱり、ダルナード夫人にお聞きした方がいいのかしら?」


「そうねぇ、でもお会いするタイミングがないから……」




 やっぱり、皆ルイボスティーが気になる様だ。まぁ、女性には嬉しい効果ばかりだからそうなるか。




「最近旦那様と夜の営みがご無沙汰だから、ルイボスティーを飲めば誘ってくれるかしら?」


「あらそうなの?」


「えぇ、でもこちらから誘うのもちょっとねぇ……(しゅうとめ)には(にら)まれるわで困ってるのよぉ」




 ……そういうのもあるんだ。というか、全部ルイボスティーで解決なんてしようとしないでほしい。


 けど、先ほどからトメラス夫人楽しそうにクスクス笑っているのだが。もしかして、これを見越して連れてきたとか?


 なんてことは聞けず、持ってきてくれた飲み物で彼女と乾杯をした。



「ここは、非公式の小さなパーティーと言いましょうか。ですから社交界では出回らないような話題も出てくるのです。例えば……愛人の話とか、おいたをした貴族の話、あとは……夫婦のベッド事情、とか」


「……なるほど」



 最後の例えを耳元で(ささや)かないでください。わざとでしょ。


 まぁ、貴族達が喜びそうで外じゃ出来ない話ばかりということか。ここにタリス夫人がいたら多分怒り狂っていることだろう。貴族という自覚はないのですか! と。


 ここのシステムを教えてくれたけれど、旦那様から教えてもらった通りだった。もちろんセキュリティもしっかりしているようだ。この世界にセキュリティという言葉はないけれど。




「お前のところ、大丈夫か? ダルナード夫人が紅茶の飲み方で《茶葉はスプーン1杯》って言っちまったからな」


「あぁ、そうそうそれだよ。ちょうど困っててさ。これから茶葉の需要(じゅよう)が減ってくるんじゃないかって懸念(けねん)しているんだ。しかも今度は新しい茶葉と来た。もうこっちは冷や冷やだよ」




 そんな声も聞こえてきた。


 紅茶の需要が減る。今まで茶葉を一度に大量に入れていたのだから、そうなるのは分かってる。けど、確かに茶葉製造の業者は困るだろうな。まぁ、分かっていた事ではあるけれど。




「ティーセットだって、新しいふた付きのティーポットが暁明の方で発売されてただでさえ売り上げが減ってるっていうのに、困ったもんだな」


「相手は大公妃殿下なんだ、仕方ないだろ。他の事業も視野に入れるのをお勧めしとくよ」


「そう言われてもなぁ……」




 それに、食事の香辛料だって減らそうと考えている。香辛料の摂りすぎだって身体に悪いんだから。けれど、減らせば需要が減るのは当たり前だ。需要が減ったことにより困る人達だって増える。


 トメラス夫人と楽しく劇場などの話をしつつも、その事しか頭になかった。


 茶葉に、ティーポットに、香辛料。香辛料は、シャレニア王国が大陸一の生産量を(ほこ)ってるけれど……どうしたものか。


 ずっと、その事ばかり考えていた。



 けれど……



「見つけた」



 劇場に戻り、観客に紛れて外に出るあたりで、後ろから流れるように手を握られた。隣に立ち、私の歩く速度に合わせて歩く彼は、見なくても分かる。この声、そして大きな手は、私の旦那様だ。


 ほらね、と言っているような顔をしてくるあたり、きっと出かける前の事を言ってるんだと思う。匂いで私が見つけられるって言ってたっけ。


 でも、さ……それより、長い金髪ですか。まぁ、旦那様も変装しなくちゃ浮気してるって周りが思っちゃうだろうし、変装は賢明(けんめい)だろうけど……後ろに束ねた金髪が似合ってるな。明るいところでちゃんと見たいかも。



「近づけさせないんじゃなかったっけ?」


「……旦那様の職業はなんでしたっけ」



 さすがにこの国の騎士団長総括様の気配は無理でしょ。それなのに気配消して近づいてくるなんて……意地悪か、これ。



「ははっ、ごめんごめん」


「……」


「そんな顔も可愛いけれど、俺としては君の笑ってる顔の方が好きだな。だから機嫌(きげん)直して?」



 機嫌を直して、と言われても……機嫌が悪いわけじゃない。それより、気になっていることが一つ。


 変装中ではあるけれど、君、ですか。


 いつも、スイランって何度も何度も呼ばれていたからだろうか。君、と呼ばれると……なんだか寂しい気分になる。


 だからだろうか。彼と繋ぐ手に少し力が入ってしまったのは。



 ようやく劇場から出ると、馬車をすぐに見つけ乗り込むことが出来た。



「スイラン」



 座った瞬間、私の方に手を伸ばしオレンジのかつらを取った。押さえていたピンなども外され、隠していたピンクの髪が垂れた。


 押さえつけられていたから、だいぶうねっちゃってる。



「やっぱり、俺はいつもの可愛いスイランがいいな」



 そう言いつつ、キスをしてきた。



「いつもと違うスイランもたまにはいいけどね」



 満面の笑みを見せる旦那様。けれど……私も、旦那様の髪に手を伸ばした。金髪のかつらを、何とか外すといつもの赤い髪が現れた。


 やっぱり、私はこっちがいい。そう思ってしまい、無意識に旦那様の頬を撫でていた。



「こっちがいい?」


「……はい」


「そっか。嬉しい」



 私も、いつもの私が好きだと言ってくれて、とても嬉しいです。


 さっきまで変装していたから変な気分になっていたけれど、旦那様に「スイラン」と呼ばれるだけで、安心してしまう。


 それだけ、旦那様の近くが心地いい、という事なんだと思う。


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