◇24-1
シャレニア王国の首都にある王城。その敷地内にある宮の一つであるこの建物は、王族がパーティーなどを開く際に使われる会場だ。旦那様は陛下の甥であるため、私達の結婚式の際は披露宴にこの会場を使わせてもらった。
そして今日、王妃殿下主催のパーティーが催された。
「こちらにいらっしゃいましたか、ダルナード卿。ご夫人も、ご機嫌麗しゅう」
「あぁ、タリス卿」
もちろん、この会場には高位貴族もいる。そして、貴族の中では一番地位の高い私達に挨拶をしてくる人達も多いという事。
タリス公爵とタリス夫人とは披露宴でもお会いしたけれど……やはり緊張する。地位は一つ下ではあるけれど、やっぱり影響力というものは強い。それに、夫人も社交界では強い統率力を持っているから、気を付けないといけない人物だ。
これから、私が社交界で一番上の階級の夫人という事になる。舐められてはいけませんよ、姫様。と暁明のばぁやに言われているし。旦那様の為にも、頑張らせてもらわなきゃ。
「実は、大公妃殿下とお話したいと夫と話していたのです。いかがでしょう、あちらでお話をするのは」
それを言い出したのは、タリス夫人。
彼女はとても凛とした雰囲気の人だと披露宴の時に思っていたけれど、堂々としていて余裕も見せる方だ。彼女の持つ青い扇子はとてもよく似合っている。
それに、何となくではあるけれど、見極めようとしているようにも見える。いきなり嫁いできた、小さな島国の元王女。そんな小娘がこれから社交界を統率する事が出来るか、といったところか。
とはいえ、私は私でやるべきことは心得ている。旦那様の為にも、きちんと大公妃をやらせていただきますとも。
「私も、タリス夫人とお話がしたいと思っていたのです。初めてシャレニアに来たものですから、あまり社交界の事を知らなくて……教えていただけると嬉しいです」
「微力ではありますが、お役に立てることがあるのでしたら、よろこんで」
果たして、その笑顔の裏には何が書かれているのだろうか。逆に怖くもある。
「では旦那様、行ってまいります」
「いってらっしゃい。あとで迎えにいくから」
……来るんだ、迎えに。仕事の話とか、挨拶とかあるだろうに。
旦那様はこの国にとって重要な軍事力を管理する役職を持つ方。その忙しさからこういったパーティーにはあまり顔を出さないのだと聞いていた。だから、旦那様と話す場があれば飛び込む者達も多少なりともいるはずだ。
きっとその事も旦那様も理解しているはずなのに……来るんだ、迎えに。
「閣下ととても仲がよろしいのですね」
「えっ?」
「初めて見ましたわ、閣下のあのような姿を」
あのような姿、というのは……迎えに行く、と言ったところだろうか。別に普通のような気もしなくもないけれど……確か、陛下が以前旦那様は剣一筋の人だって言っていたような。想像しか出来ないけれど……わんこな旦那様が頭の中で邪魔をしてくる。お願い、大人しくしてて。
こちらにどうぞ、と談話が出来るよう用意されたソファーに座るよう促された。お隣、失礼してもよろしいでしょうか、と聞かれ許可をする。誰もいないから、ここを選んだのね。
「そういえば、夫人はお茶がお好きだそうですね。確か、閣下にお茶を淹れて差し上げているのだとか」
「えぇ、私他国のお茶を集めるのが趣味で、旦那様と過ごすアフタヌーンティーではその日の気分で茶葉を選び淹れて差し上げているのです」
「そうでしたか。とても仲睦まじいようで、安心しましたわ」
やっぱり、この方もちゃんとチェックしているようだ。まぁ、いきなり嫁いできた大公妃殿下だから注目はするだろう。
「夫人の母国でいらっしゃる暁明王国は貿易が盛んで何ヶ国もの国と取引をしているとお聞きしました。数年前から我がシャレニア王国とも貿易をさせていただいていているわけですから、夫人がこちらにいらしてくれた事は、国にとってもとてもありがたい事だと思っておりました」
「……そこまでおっしゃってくださってくれるとは、歓迎してくださりありがとうございます」
「もちろんですわ。夫人は我が国との架け橋となってくださった方ですから」
だいぶ、持ち上げるのね。恐らく、これで機嫌を損ねて離婚なんて事を言い出せば国際問題になると思っているのだろう。
「暁明王国は、我が国で長年頭を悩ませていたエネルギー問題を解決させてくださいました。更には……希少価値のあるものまで、この国に輸出してくださるとも聞きましたわ」
夫人は、希少価値のあるものまで、という言葉を小さな声で呟くように私に言った。それだけ、あまり周りに広げるべきでないものだと分かっているのだ。
そして、こんなに人がいるこの場所でこの話を出した。
確か、グロンダン夫人が社交界でこう言いふらしたんだっけ。私が、プラチナホワイトを持っていると嘘をついていたと。自分は元王女だからと見栄を張っていた、と。
暁明王国がどんな国で、ムセラス教皇とも繋がりがあると知っていても、私の悪評を言いふらすとは。
まぁでも、その後私に他国から結婚祝いの品が来たと知ってびっくりしているかも。
けれど、それを嘘だと見抜き、まだ公表されていないはずの、プラチナホワイトを輸入したことも知っている。それは、もうすでに情報を入手していたのか、それとも見抜いていたのか。
とはいえ、どちらであっても夫人はただ者ではないという事は分かる。
「本当に、感謝しているのです。ですから、わたくしたちは微力ながらお力になりたいと思っていますの」
お力に、ね……
公爵家のご夫人であり社交界にとって影響力もあるお方。そして私は彼女より上の地位である。夫人とは周りとの交流を深める事が仕事と言っても過言ではないから、彼女とは仲良くしていた方がいい。もちろん、足元をすくわれないように気を付けながら。
「恐れながら、わたくしが他の貴族夫人達とお会いする場を設けさせていただきたいと思っているのです。いかがでしょう、今度わたくしの主催するお茶会にいらっしゃいませんか? シャレニアの名産品である紅茶をご用意いたしますよ」
「……」
……シャレニアの名産品である、紅茶、ですか。
どうしよう、お仕事ではあっても、それを断りたい気持ちに駆られてしまう……
「……では、お言葉に甘えて、参加させてください」
けれど、ここはやっぱり大公妃としてちゃんとしないといけない。これも旦那様の為だ、と自分に言い聞かせよう。




