◇1
とある世界の、小さな島国。
広く大きな王宮の、赤を基調とした大きく広い空間。
明かりの灯る灯籠がいくつも並べられ、部屋の中を明るく灯す。
部屋の入口からまっすぐに敷かれた赤い敷物の先には、3段の階段。その上には、権力者だけが座る事を許された椅子がある。座るのは、この国を統治する者。国王陛下だ。
そして、王の前に跪く王族の娘が一人。
王が口を開いた。
「暁明王国第一王女、李・翠蘭には、《シャレニア王国》に嫁ぐ事を命じ……」
部屋に響き渡る王の下命。
だが、その御言葉はふと途切れる。
部屋に、静寂が訪れる。
そして――
「……たくない゙よぉぉ”ぉ”ぉ”ぉ”ぉ”ぉ”!!」
「姫さまぁぁぁぁ!!」
「あ゙ぁぁぁぁ~、まさか他国に嫁ぐ事になるとはぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙~!」
……いや、お前ら泣きやめよ。
先ほどとは打って変わった、だいぶおかしな空気となってしまった。姫様と呼ばれた私は、王の前に跪いているわけなんだけど……
視界に入るのは、両側に立つ錚々たる人物達の……号泣顔。そして目の前の王座に堂々と座っていたはずのお父様、この国の国王陛下は王座から崩れ落ちバシバシ椅子を叩きつつも大号泣中である。
「……わたくし、李・翠蘭、王命により謹んでお受けいたしまぁ~す」
「翠蘭ちゃぁぁぁぁぁぁん!!」
「姫様ぁぁぁぁぁぁ!!」
「行かないでぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「嫁いじゃだめぇぇぇぇぇぇ!!」
いやいや、私もう19なのですが。本当は16歳の時に結婚するはずだったのに、あんたらが私にふさわしくない男とは結婚させないと蹴り飛ばしまくった事が原因でこの歳になっちゃったんだけど。もう流石にさ、結婚しなきゃでしょ。婚期逃しちゃうって。
今回は、もうそろそろヤバいと危機感を感じお父様のいらっしゃる執務室に怒鳴り込……入室し、さっさと結婚させろと脅し……いや、お願いしたからようやくここまでこぎつけたのに。時間がかかっていたけれど、きっとお母様が何とかしてくれていたのだろうな。
というか、もうそろそろ泣きやめアンタら。いい年したおっさん共が揃いも揃って何泣いてんのさ。みっともない。いつもの威厳はどうした。取り戻せ。
「ちょっとあなた、何翠蘭ちゃんのめでたい門出にみっともなく泣いてるのよ」
「だ、だってぇ……」
王座の隣に置かれたもう一つの椅子に座る、この国の母、王妃殿下。そして私のお母様である。良かった、ツッコんでくれた。ありがとうござ……
「わ、わ、私、だってぇ……泣いちゃうの我慢してたのに゙ぃ゙ぃ゙ぃ゙ぃ゙ぃ゙ぃ゙!!」
あ、ダメだったわ。ウチの家族は泣き虫だったわ。あ、他の人達も。
ここは緑と海に囲まれた豊かな島国、【暁明王国】。
信号無視したトラックに轢かれたかと思ったら、気が付いたらばぶばぶと赤ちゃんプレイを強いられていた。いきなりこの世界に異世界転生させられ、その王族として生まれたと思ったら、今度はまた婚期を逃がさなきゃいけないって? ふざけんな、前世と同じような寂しい独身生活はもうごめんだ。
私は楽しく充実した生活を送っておばあちゃんになるまで生きるって決めたんだ。前世みたいに独身歴を重ねて寂しく29歳でトラック事故に遭い人生を終わらせるなんて事したくないんだから。いや、この世界じゃ馬車か?
と言っても、言ってみればこの国は中華系ファンタジーそのものだから、大きな車輪が二つ付いた、屋形にすだれがかかった乗り物だが。
「ねぇちゃんが結婚かぁ~」
「ちゃ~んとお母様の言う事よく聞くのよ。お父様はたまにおかしなことを言うから絶対にお母様に聞く事。いいわね」
「「はぁ~い」」
私の言葉に声をそろえて返事をしたのは、10歳の双子の兄弟。身長も顔も本当にそっくりな私の弟達である。私たち家族は桃色の髪と瞳を持つ。いわば王族の証だ。お母様はお父様とはいとこだから王族の血が流れているため同じ容姿だ。というか、この国の人口が少ないからもう全員親戚みたいな感覚なのよね。
お父様とお母様と違って全然泣き虫ではないところが救いだ。
これから、こちらにシャレニア王国の使節団が来訪しもてなす事となる。この結婚で両国の友好関係を確かなものにする事になるから、そのための来訪となる。だからおもてなしをするために今から忙しくなるのだ。
……まぁ、私の結婚相手に会えるわけではないけれど。この国のしきたりで、結婚式まで顔を合わせることを禁じられている。会えるのは結婚式だなんて……気になるに決まってる。
まぁ、しきたりなんだからしょうがないっちゃしょうがないけど。
私の理想はイケメンスパダリ。だけど我儘は言えないから、とりあえず優しくて思いやりのある人であることを祈ろう。




