はなれた星
こんにちは赤豆 蓮根です。
見ていただけたら嬉しいです。
繋がれた手の温もりと心地のいい寝息
傍に居て離れる事など無いのだと思っていた。
あの日までは………
啜り泣く声とひそひそと聞こえる声。
『…可哀想にまだ子供なのに』
『顔も見れない程だって言うじゃない…』
『…ほら、あの子。何時も一緒にいた…可哀想に』
『…どうせならあの子も……ねぇ?』
此方を見ながら口々に話している。
皆が何を思っているのか分かる、だって正しい。
僕達は離れるべきじゃない、離れてはいけなかった。
どうして、どうしてこんな事に…
突然、俯いていた僕の肩を強い力で抱き寄せられ
そのまま抱き締められた。
大好きだった彼の匂いが荒れた気持ちを少し和らげた
彼の胸を僅かに押し体を離す。
「……僕じゃないだろう?」
そう言って彼を見ると唇を噛み苦しそうな顔をしていた。
『……お前だって大切な幼なじみ…だろ?』
その場から離れようとした僕の腕を掴み引かれた
その手を払い彼のアーモンドの瞳を見つめ
「あの子はもう居ない、私も居ないんだよ」
あの子が死んだ、なら私も死ぬべきだ。
あの子はきっと寂しい思いをしているだろう
だって私が寂しいのだから。
私達は全てが一緒だった、全部が同じだった。
お揃いの黒髪も、鏡を見ている様な紫の瞳も
背丈も性格も好きな物も嫌いな物も全てが一緒だった
産まれ落ちた日が同じであるのなら死ぬ時も同じでしょう?
死んだって離れてあげない。
あの日、あの子は真っ逆さまに落ちて行った。
何時ものように学校が終わり
放課後2人で屋上へ行って寄り添って座って
くすくす笑いあいながら話しをして
けれどその日、些細な事で喧嘩をしてしまった。
お互い頭に血が登り口論になって
言ってはいけないことを言ってしまった。
それを聞いたあの子は虚ろな目をして
嫌な笑みを浮かべフェンスを乗り越え落ちて行った。
あの子があの時何かを言っていたけれど結局分からず
私の元に戻ってきた時にはお揃いが消えていた。
あの子の居ない事に耐えられず飛ぶことに決めた。
あの子と同じ屋上にしようと思っていたけれど
無理そうだったので、屋敷の屋根から飛ぶ事にした。
さぁ、待っているだろうあの子の元へ行こう。
身を乗り出し頭から抵抗なく落ちて行く。
地面へと降りる直前
凄い速度で落ちていたにも関わらず
突風で有り得ない事に体が浮かび上がった。
一瞬の風は消え尻を強く打ちながら落ちた。
死ねなかった。
涙と嗚咽が止まらなかった。
あの子との別れだって泣けなかったのに。
どうして今更……
呼吸が上手くできない、視界がぶれ意識が遠のく……
「…どうしてなの……アルテ!」
『……起きて』
呼んでる、あの子が……けれど目が開かない。
声が出せない。どうにかして聞こえていると伝えたい
『セレネ……独りにしてごめんね。
でも、セレネがあんな事言うからだよ
セレネ……僕はずっと君と居る。だから、だから
哀しまないで、傍に居るよ。僕らはずっと一緒だ』
なら、姿を見せてよ!
隣にいてよ、夜だって夜明けだって寒くて寒くて堪らない。
何時もみたいに傍で手を握って温めてよ
温もりが欲しい、欲しいよ。
「…っ、そばに居てよ、アルテ……」
やっと出せた声はきっと届かなかった。
アルテの声は聞こえなくなっていたから。
背にあたる柔らかい感触と見慣れた天井に
自分が部屋で寝かされている事に気づいた。
死のうとして飛んだけれど死ねなかった。
それは覚えているのにその後が思い出せない。
あのあと、どうしたんだっけ?
まだぼうっとする頭を抑え思い出そうと試みるも
無理そうだと諦める。
体から力が抜け再びベッドへと沈んだ時だった。
軽いノックの音がなり許可する前に入って来た。
牛乳の入ったコップとパンを乗せた木製のトレイを持って
起きている事に気づき安心した様な顔で
『…おはよう、目が覚めたんだな。
軽い朝食を持ってきたんだが食べられそうか?』
そう言ってベッドサイドにトレイを置いた。
彼は栗色の髪をもつ僕達の幼なじみエルディスだ。
僕は首を振って要らないと言うと
エルディスは眉を寄せて僕の手を握り怒った様な顔で
『…セレネ、お前昨日何しようとしてたんだ?』
どうやら僕が屋上に1人立ち落ちていくのを見ていたのだろう。
「……足を…滑らせたんだ」
じっと見つめてくるアーモンドの瞳から目を背け
握られている手をそっと剥がす。
そして、彼に向き直り言った。
「…僕はもう大丈夫だよ。だから、気にしないで」
偽物の笑顔を貼り付けてそう言うと彼は何か言いたそうにして
結局は何も言わずにまた来るよとだけ言って出て行った。
彼はアルテの恋人で僕の兄的な存在だ。
僕は彼にずっと想いを寄せていた、けれど彼が選んだのはアルテだった。
アルテは僕とは比べ物にならないほど優秀で
頭が良くて穏やかで優しくて皆の人気者だった。
僕は兄程頭は良くなくて凡人だった。
できることと言えば運動が少し出来るくらい
僕はどちらかと言えば群れるのは嫌だったし
アルテとエルディスと居ることが多かった。
僕はずっと3人で居たかった、ずっとずっと。
なのに、なのに……下らない、嫉妬だった。
二人が付き合い出したことに気づいた僕は
二人から離れようとした、それに気づいたアルテは
僕を問いただしたどうして離れるのかと聞いてきた
黒い感情にのまれていた僕はつい、言ってしまった。
「私はもう、アルテの近くに居たくないの!」
ただ、苦しくて苦しくて想い人が同じ顔のアルテを
選んだ事実に辛くて悲しくてどうしようも無くて
だから、つい思ってもない事を言ってしまった。
どうしてあんな事を言ってしまったのか……
自分でも訳が分からないうちに口から出てしまっていた。
言ったあとからしまったとアルテの顔を見た時
アルテはとても苦しそうな顔をしていた。
すぐにアルテに違うの!と言おうとした
けれど何故か言葉が出てこずに口からパクパクと
空気が漏れただけだった。
アルテはじっとこちらを見ていて
私はせめてもとアルテの腕を握った。
どうにかして伝えようと腕に必死に縋りついた。
けれど、アルテはいつもの穏やかな顔に戻り
そっと手を離すとフェンスの方へと歩いていった。
そして、フェンスを掴みこちらを振り返り笑った。
不思議な程晴れやかな顔をして笑っていた。
その笑顔が何処か恐ろしくて気づけば走り出していた。
フェンスを軽く越えたアルテは
その晴れやかな顔のままこちらに何かを言って
そのまま落ちて行った。
あの時、アルテはなんて言っていたのだろうか。
私は、私は細い腕を掴むことすら出来ず
ただ落ちていくあの子を見ている事しか出来なかった。
最後まで見て下さりありがとうございました。