第七話
あれから僕はずっと何事も無かったかのように笑顔で過ごしてきた。
彼女のことを忘れて。
思い出した今、なぜずっと忘れていたのかと言う思いよりも、彼女と再び出逢えたことの喜びが勝つ。
先程湖で出会った女性は間違いなくあの時の少女だ。
なぜああして話を交わせたかは分からない。
けれど僕にはそんなことはどうだって良かった。
彼女に会えただけで嬉しかったから。
全ての記憶を取り戻した僕はゆっくりと瞼を開く。
その時には僕の頭の痛みはおさまっていた。
急いで彼女を探してみるが、どこに視線を移しても彼女の姿が僕の視界に映ることは無かった。
その時、僕は頭上に違和感を覚える。
気になって頭に手を向かわせると、そこにはシロツメクサで作られた花冠が被せられていた。
最後に彼女を見た時に作っていたものだろう。
そう思うとどこか心臓がうるさくなる。
こんなに嬉しく思うのはいつぶりだろうか。
まったく、彼女にはいつも嬉しい思いをさせてもらうばかりだ。
……もう一度会えたらいいのにな。
そう心の中で呟き、どこか悲しそうに微笑む僕の傍には、月明かりに照らされて輝く一輪の月下美人が花を咲かせている。
そんな美しい花を横目に、僕は夜空を通り過ぎる一筋の光から目を離さなかった。