第四話
霧に包まれたかのようにぼんやりとした夜空に浮かぶ月の下、僕は湖のほとりの小さな野原で一人横になっていた。
少しの間体を起こして目の前の湖に視点を合わせれば、水面に浮かぶ散った桜の花びらが風に吹かれて流されていくのが見える。
あまり目にしないような景色に少し興味が湧くも、眠気に逆らえなかった僕は再び横になって瞳を閉じた。
どのくらい寝ていたのだろうか。
そんなことも分からずに瞼を開く。
すると僕の視界に可愛らしい少女が顔を出す。
「へ?」
いきなりのことに驚き、情けない声を出してしまう。
僕が寝ていた間にここに来たのであろう少女は、美しい白色の髪に、透き通った黄緑の瞳をしていた。
そんな瞳に目を奪われていると、少女が僕に話しかけてくる。
「君、こんな所で何してるの?」
「はえっ、えと、……月が綺麗だったから、見に来たんだ。」
普段あまり人と話すことがないため、緊張のあまり言葉を上手く発することが出来ない。
少女もそんな僕をみてイタズラ気味に笑うと、
「そんな緊張しなくていいんだよ?」
とふんわりとした口調で言った。
それでも緊張が消えさらない僕は何を言ったら良いのか分からずに、
「つ、月が綺麗ですね。」
と呟いた。
文末が近づくにつれて声量は落ちていく。
こんな声が聞こえているはずもなく、返事が返ってくることは無い、そう思っていたが
「たしかに!月が綺麗だね!」
と少女は笑顔で答えた。
その笑顔を見てどこか安心感を覚えた僕は、先程の緊張はどこへ行ったのかと聞きたいくらいに、少女とスムーズに会話を繰り広げた。
他愛もないような話が続き、気づけば朝日が顔をだし始める時間帯。
僕たちは今日の夜もここで会おうと約束し、この湖を後にした。