008 子犬のようなお客様
翌日、朝からガブリエラはお人形の様に美しく着飾り、両親も城へ呼ばれたかのような綺羅びやかな服を纏っていました。
そして何故かルシアンも極厚眼鏡を取り正装姿で、普段通りなのは私だけです。
ただ、正装姿といっても、汚れることなど気にする素振りもなくルシアンはいつも通り中庭の花壇で草花の手入れをしています。
しかし、その隣には中庭にはほとんど顔を出さないガブリエラの姿がありました。
「ルシアン様。やっぱり眼鏡がない方が素敵ですわ。ねぇ。お部屋に戻りましょう? お洋服が汚れてしまいますわ」
「……俺に構うな。伯爵の到着は午後。時間はまだある。汚れるからあっちにいってろ」
「まぁ。私を気遣ってくださるのね。ふふっ」
ガブリエラが満足そうに微笑んだ時、中庭にメイドが駆け込んできました。
「が、ガブリエラ様っ。お出でになりました」
「伯爵が!?」
「いえ。レオナルド王子です」
「えっ。なんであの子が? まさか、昨日の手紙通りに昼食をいただくつもりかしら」
ガブリエラは頭を抱えていますが、手紙とは初耳です。
「ガブリエラ。それは何の話なの?」
「あっ。そうだわ。手紙にはお姉様の名前が書かれていましたし、面倒だからお姉様がお相手して差し上げて。わたくしは初めだけ顔を出しますから。そうすれば満足なさるでしょうし。その格好では失礼ですから、着替えていらしてね」
ガブリエラは早口で言い切ると、メイドと共に中庭を後にしました。ルシアンは小さな苗木を手に持ったまま、私の隣に立つと尋ねます。
「手紙って何?」
「私も知らないわ」
「着替えなくていいんじゃないか? 変に気に入られても困るから」
「気に入られる? それはないわ。ガブリエラが隣にいるのよ。私は背景にしかならないから」
「……それは違う。だが、そうあって欲しいものだ」
ルシアンが真面目な顔で呟くと、屋敷の方からバタバタとせわしない足音が近づいてきました。
「いた! シェーラ嬢~。んっ? 貴様、誰だ!?」
元気いっぱいで現れたのはレオナルド王子です。
息を切らして私を指差し、隣に立つルシアンを喧嘩腰で睨みつけました。
ルシアンは落ち着いた様子で言い返します。
「シェーラの婚約者です」
「えっ」
驚いてルシアンへと視線を上げると、真顔のまま王子を睨んでいます。そして私よりも驚いているのは王子でした。
「なっななななんだと!? それは駄目だ! シェーラ=ルロワ嬢には、この国の王子である僕が婚約を申し込むことにした」
「ええっ!? あ、あの。昨日の件は、ガブリエラと勘違いされたのでしたよね?」
「ガブリエラは好かん。あんな恐ろしい女は無理だ。僕はシェーラ嬢がいいのだ」
見た目通り子供っぽいその物言いに、ルシアンはため息を漏らした後、王子の視線を阻むように私の前に立ちました。
「君がよくとも他の誰も認めないだろうな。精霊の加護を受けた絶世の美女ならば、国王陛下も首を縦に振るだろうが」
「それは……。適当に誤魔化せばいい」
「ふん。子どもだな。婚約を申し込むのなら、せめて足場を固めてから来い。周りは迷惑でしかない。それから、シェーラは俺の婚約者だからな」
返す言葉がなく悔しそうにうつむく王子の後ろから、遅れて近衛騎士達が駆けてきました。
「レオナルド様っ! 探しましたよ!?」
「レオナルド王子~。どうしてこのようなところに? お食事はこちらですわ」
「そうですよ! ガブリエラ様をお待たせするなんてなりません!」
「おい。お前達。僕は――」
キャンキャンと吠える子犬のような王子はガブリエラと共に現れた近衛騎士たちに連れて行かれました。
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