003 妹の尻拭い
変わり果てた姿の王子を発見したのは、普段は人通りの多い裏庭の噴水でした。
あたり一面土砂降りの雨が降った後のように地面は濡れ、よく見ると氷の粒が散らばっています。
噴水の横に王子はうつ伏せで倒れていました。近衛騎士と思われる人達は、一人は噴水の縁に、他の数名は地面に転がっています。
「うわぁ。派手にやったな」
ルシアンですら頭を抱えるほどの惨状に、一瞬身を引いたものの、私は全身ずぶ濡れの王子に駆け寄り抱き起こしました。
「あ、あのっ。大丈夫ですか?」
「うっ……。君は、さっきの……」
「急な悪天候に驚きましたね。お怪我はないですか?」
「……悪天候? あれは違う。あの女がやったんだ。私の火照った頭を冷やしてやると豪語した直後に……」
王子はそこまで話すとブルッと身震いしました。
そして自身のずぶ濡れの身体をさすり青白い顔で辺りを見回します。
どうやら王子はガブリエラにやられたことを覚えているようです。いつもなら、鈴蘭の加護のせいか誰も彼女の関与を疑わず、天変地異だと思い込むのに。いくら少年でも、やはり一国の王子、他の殿方よりも見る目があるようです。
震える王子に、私は自分のローブをかけました。
「良かったら、これで温まってください」
「……。あ、ありがと。君は、優しいな。そうか。先程の氷は君に温めてもらう為に降ったんだな」
「は?」
王子は微笑み、むくっと起き上がると、冷たい手で私の手を握りしめて、そして――。
「うざっ」
というルシアンの声とともに、その場に卒倒しました。
ルシアンが背後から分厚い辞典で殴ったのです。
「る、ルシアンっ!?」
「ガブリエラのこと。覚えてたら不味いだろ。記憶飛んでると良いんだけど」
「で、でも。王族を傷付けるなんて……」
「角じゃなくて面で殴った。それに、ガブリエラに求婚したらこういう目に遭うことは誰でも知ってる。自業自得だ。それよりどいて」
鈴蘭の加護を受けたガブリエラに求婚する者は、いつも不幸な目に遭うのはすでに定説で、一部の者からは、精霊の花嫁に手を出したからだと噂されています。
それはあながち間違った噂ではないのですが……。
ルシアンは王子から私のローブを引き剥がすと、石畳の上を引きずって移動させ、大木の下の柔らかな土の上に王子を寝かせました。
「ここならすぐに傷も癒える。傷がなければ、全て夢だと思うだろ」
そう言った後、ルシアンが木に何か話しかけると、不思議な事に王子の顔色はみるみる良くなっていきました。
王子は大事なさそうなので、私は倒れた近衛騎士も大木に運ぼうと思い、地面に転がる一人の騎士に手を伸ばすと、ルシアンが私の名を不思議そうに呼びました。
「シェーラ?」
「近衛騎士の方々も、木の下に運べば良くなるかと思って」
「はぁ。……仕方ないな。俺が運ぶよ。シェーラには重すぎるから。全く、妹の尻拭いは大変だな。まぁ、それもあと少しか」
「えっ? ――あぁ。そうね」
妹は来月、十五歳になります。
妹には婚約者がいます。まだ一度もお会いしたことはありませんが、その婚約者が迎えに来る約束の日が、十五歳の誕生日なのです。
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