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030 伯爵の怒り

 門の前には、漆黒の馬車が止まっていました。  

 両親もガブリエラも屋敷の前で伯爵を出迎えに来ています。レオナルド王子は、ガブリエラの護衛かのように周りを囲む近衛騎士を横目に一歩引いた様子で見ています。


 馬車の扉が開くと、両親は私に前へ出るように目配せしました。私はフェミューを乗せた鈴蘭の鉢植えを手に、馬車の前で待ちました。


 サリュウス伯爵は、以前と変わらず異彩を放ちながら馬車から現れました。その後ろには、黒いローブを目深に被ったルシアンがいます。

 私は跪き伯爵に挨拶を述べました。


「お待ちしておりました。サリュウス伯爵」

「出迎えご苦労。約束の花嫁を迎えに来た」


 伯爵がガブリエラへと視線を向けると、それを遮るように、緊張した面持ちの両親が前へ出ました。


「サリュウス伯爵。お待ちしておりました。娘は支度を済ませております。どうぞお連れください」


 引きつった笑顔で両親が私を差し出すと、サリュウス伯爵は私に顔を向けズリズリと足を進め、眼の前まで来ると首をメキッと鳴らして私を見下ろしました。


「お前は……何故、鈴蘭の加護を得ているのだ」


 どうやら、フェミューとルシアンで作った魔法薬は成功したようです。


「これは――」

「サリュウス伯爵。貴方との約束は娘を差し出すこと。約束は違えていないわ。さぁ。娘をお願いしますわ」


 私を庇うようにして母が伯爵に弁明すると、伯爵は無言のまま私を見つめ、次いで鈴蘭の鉢植えに視線を落とし、目が合ったフェミューはビクッと体を震わせました。


「鈴蘭よ。何故、力を貸したのだ?」

『私はね。――』

「お母様! 伯爵がお困りですわ。やはりお姉様ではわたくしの身代わりなんて出来ません。わたくしが婚約者としてこの身を捧げますわ!」


 ガブリエラがここぞとばかりに声を上げると、皆の視線がガブリエラに集まり、父が慌て始めました。


「な、何をいっているのだ!? ガブリエラは王命により、レオナルド王子と婚約するのだろう?」

「いいえ。レオナルド王子、違いますわよね?」

「ああ。僕はガブリエラとは気が合わない。彼女と婚約などこの世に女性が彼女しかいなかったとしても断る」

「そんなことまで言わなくてもよろしくてよ。それより、ほら」

「…………」

「何をボサッとしておりますの?」


 レオナルド王子はガブリエラに何かを催促されていますが、そっぽを向いたまま無視し続けています。

 何が起きたか分からず困惑していると、目の前の伯爵から、ゴキュっと首を鳴らす音がしました。

 先程と違い、伯爵からは殺伐とした空気が漏れ始めたことを私はフェミューから感じ取りました。


「なんの茶番か分からぬが、何故、貴様は私が渡したドレスを着ておらぬのだ?」

「へっ? そ、それは」

「両親ともども私を騙そうとしたのか? 約束を無下にし、偽りを纏った娘を身代わりにし、この伯爵を愚弄したのだな!?」


 伯爵の地鳴りのような低い声に、ガブリエラは震え上がり、隣にいた近衛騎士の後ろに身を隠しました。

 誰もが言葉を発することを忘れたかのような静けさの中、ルシアンが進言しました。


「父上。ルロワ伯爵は我々を欺こうとしたのです。いや。ルロワ伯爵だけではありません。この場にいる――」

「そ、そそそそれは違いますっ。お、王命で、ガブリエラを嫁がせることが出来なくなってしまい、仕方なく身代わりでシェーラを……」


 父が私を盾にして伯爵に訴えかけると、また空気が重くなりました。火に油を注ぐとは、このような時に使う言葉なのでしょう。

 伯爵は私に向かって怒鳴りました。


「どこにそんな王命が存在するのだ? 貴様らは、私と王との友誼すら穢すつもりか!?」


 伯爵の瞳が煌々と紅く燃え上がる焔のように発光したかと思うと、大地が小さく震え始め、それは次第に大きくなりました。

 父は母の方へと走って逃げ、両親は抱き合い庭の隅に座り込み、ガブリエラはレオナルド王子と共に近衛騎士に守られていました。


 慣れないヒールのせいか私はその場に倒れそうになったとき、誰かが背中から抱きとめてくれました。


「シェーラ。大丈夫か?」

「ルシアン」

「怒らせてしまったな。父上のこと。こうなったら、母上にしか止められない」


 目の前の伯爵の足は、完全に大地と融合し、手から垂れた幹のようなものも大地に根付き地鳴りを起こしていました。

 ですが、怒らせてしまうのは仕方がありません。

 先程ルシアンが述べようとしたように、私を含め、この場にいる誰もがサリュウス伯爵を騙そうとしていたのですから。

 

「サリュウス伯爵。申し訳ありません。私は偽の加護を得て、貴方を騙そうとしました」

「偽の加護だと? 何故そのような愚行を?」

「私は……ルシアンを愛しているからです」

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