028 父の意向(ルシアン視点)
久々に父と再会した。昨日合流し、父は三日ほど前から滞在しているとのことだが、まさか滞在場所が王城だとは思ってもいなかった。
父曰く、この見た目で泊まれるところは、貴族の屋敷かお城くらいしか無いのだという。意外なことに、この国の王とは馬が合うらしく、滞在中は王と共に国内の山々へと視察に行っていたらしい。だから、まだ父とは挨拶程度しか会話を交わしていない。
明日ルロワ家に寄り国へ戻る予定ではあったのだが、面倒なことに陛下とその息子のレオナルドとの夕食に招待されてしまった。
レオナルドと対面で席に着き、父と陛下の会話を聞きながら、ほぼ会話のないまま夕食を終えたのだが、やはり王子は俺に接触してきた。
レオナルドは、客室の前で待ち構えていた。
「はじめまして。えっと、なんて呼べば良いですか?」
「どう呼んでいただいても結構ですよ。はじめましてでも無いので」
「へぇー。随分とサラッと言葉を返すね。僕に嘘ついたこと忘れたの?」
「言わなくても良いことを言わなかっただけですよ。好きになった女性の想い人にあんな事を言われても冷静に考えられないだろ」
「ははっ。ちょいちょい語尾が高圧的なんだけど。明日が楽しみだな。せいぜい頑張って足掻いてくれよな」
この態度だと、恐らく何か企んでいそうだ。
王命を出さない道を選んだのか。それとも……。
「もし邪魔をしようとしているなら、一つだけ忠告をしておく。サリュウス伯爵家の婚約者を奪うことは、国を滅ぼすことに繋がる。もし王命を振りかざそうというなら、正しく使えよ」
「なっ、何だと!? お、お前がどんな顔をするか楽しみにしているからな!」
「何をしても構わないが、俺の顔なんか見てないで、ちゃんとシェーラの顔を見ろよ」
「なっ、……。いちいち馬鹿にするなっ」
王子が怒って俺の前から走り去って行くと、背後から父の気配がした。
「レオナルド王子と仲が良いのだな」
「そんな事はありませんよ」
「国王から聞いたぞ。部屋で話そうか」
何を聞いたかまでは言わず、父は俺の顔色を探っている様子だった。
そして、客室の柔らかなソファーに腰掛け、俺は父に尋ねた。
「何をお聞きになったのですか?」
「お前が鈴蘭の娘との婚約を嫌がり、別の者を身代わりに立てようとしていると」
「それは、ルロワ伯爵がしようとしていることです」
父はゴリッと首を捻ると、小さく唸り声を上げた。
「うむ。そうか。ではルロワ伯爵は、鈴蘭の精霊を手放すのが惜しく、姉の方を私に差し出そうとしたのか」
「どちらかといえばガブリエラの策略ですけどね。父上のような化け物の息子と結婚したくないからです」
「あぁ。そんな事を申していたな。アレは新しいタイプの花嫁だ。はっはっはっ」
「笑い事ではありません。俺はアレが婚約者だなんて嫌ですから」
俺の言葉に父は笑いを止め、虚ろな瞳をこちらへと向けた。
「ほぉ。やはり。国王の言葉通りではないか。ルシアン。私は鈴蘭が選んだ婚約者しか受け入れるつもりはない。それがサリュウス家のしきたりであり、それ故、当家は永年繁栄してきたのだ。覚悟を決めよ」
「分かっています。ですが――」
「この話は終わりだ。明日は帰国だ。早く休め」
父は有無を言わさず会話を終わらせると、隣の客室へと戻っていった。




