020 鈴蘭とルシアン
部屋にルシアンを呼ぶのは初めてです。
使用人達はサリュウス伯爵の噂話で持ち切りだったので、誰にも気づかれずに部屋に案内することが出来ました。
ルシアンには少しだけ部屋の前で待ってもらって、私は先に部屋に入りました。
『どうしてルシアン様が一緒なの!?』
フェミューは扉が閉まるなり、鉢植えから飛び出し不安そうに尋ねました。今気付きましたが、フェミューはルシアンに様を付けて呼んでいます。
「ルシアンが誰なのか、フェミューは知っているのでしょう? どうして避けようとするの?」
『だって、怖かったんだもの。初めてルシアン様に会った時、すっごく怖い顔で睨まれたんだから。それに……』
「それに?」
『サリュウス伯爵が嫌いなの。私は一緒に生まれた鈴蘭の精霊の姉妹達と国を離れたくなかったのに。私が一番適任だって言われて、無理やり一人だけここに連れてこられたの。ルシアン様はあの伯爵のご子息だから……』
「そうだったのね」
離れ離れの家族が恋しいのか、フェミューは鈴蘭の花にそっと手を触れ肩を落としました。
『でも、シェーラがいつも話し相手になってくれたから、寂しくなかったわ。――ルシアン様はどうして来たの?』
「フェミューと話したいんですって。一晩だけでも、鈴蘭の鉢植えをルシアンに貸してあげてもいいかしら?」
『それは嫌。私はここがいいの。でも、ずっと逃げてもいられないもの。今、少しだけ会うだけならいいわ』
「本当? すぐ呼んでくるわ」
ルシアンを呼んで部屋に戻ると、普段より淑やかな雰囲気でフェミューが鈴蘭の花に腰掛けていました。
『初めましてルシアン=サリュウス様。私は鈴蘭の精霊フェミューと申します』
「初めてではないだろう。率直に聞こう。君は何故ガブリエラを婚約者に選んだんだ?」
『えっ。私は……』
「ルシアン。フェミューを責めないで。この子は家族と離れて一人で頑張ってきたのだから」
唐突な質問に面食らって鈴蘭から落ちそうになったフェミューを手ですくい上げて抱きしめると、それを見たルシアンは驚いて私の顔をじっと見つめて尋ねました。
「分かった。昔のことはとやかく言わない。――それより、シェーラには精霊が見えているのか?」
「ええ」
『会話もできるわよ』
フェミューが答えると、ルシアンは眉間にシワを寄せ、首を傾げながら私に目を向けました。
「今まで黙っていてごめんなさい。私が見えるのはフェミューだけだし、誰にも言わないで欲しいってお願いされていたの」
「そうか。二人は仲がいいのか?」
『そうよ! シェーラは私の一番の友達なんだから』
「それなら、シェーラにガブリエラのような加護を与えることは出来ないか?」
『ええっ。加護をシェーラに!? どういう事?』
驚くフェミューに、ルシアンはことの経緯を話しました。
フェミューは時折ニヤニヤしながら聞き、最後まで聞き終えると、真剣な目でルシアンに尋ねました。
『婚約するには、私の加護が必要なのね。でも、私が加護を与えられるのは一人までよ。そんなに力の強い精霊じゃないから……。ねぇ。ルシアン様は、身代わりで婚約者にさせられるからじゃなくて、シェーラを婚約者にしたいのよね?』
「ああ。シェーラしか考えられない」
『きゃ~。そんな目で言われたら、私、頑張っちゃう~』
「頑張ったら出来るのか!?」
『ふふんっ。頑張っても、無理なものは無理!』
フェミューが胸を張ってそう言うと、ルシアンがスッと真顔になり、フェミューは怖がって私の後ろに隠れました。
「ルシアン。フェミューが怖がっているわ」
「ああ。すまない。期待してしまった分、顔に出てしまった。精霊と契りを交わすことは一人としか出来ないが、加護を何人にも与えられる精霊は沢山いるから……」
『ルシアン様。加護は与えられないけど、それっぽく見せることならできるわ』
「それっぽく?」
フェミューの言葉を繰り返し、ルシアンは眉間にシワを寄せて首をひねりました。




