001 王子の求婚
「シェーラ=ルロワ嬢! 僕と婚約してください!」
振り返ると、深々と頭を下げ、バラの花束を掲げた背の低い少年の姿がありました。
今回の相手は、随分と若く、どう見てもまだ子供です。
ああ。また来たのね。私は心の中で、そう呟きました。
顔を合わせるまでもなく、彼がどんな反応をするのか、私には分かっていたのです。
そして、これからどんな言葉を紡ぐであろうかも。
「えーっとぉ。君がシェーラ嬢?」
「はい。左様でございます」
「嘘だろ!? そんな馬鹿な……」
掲げていたバラの花束を地面に落とし、少年は私の顔をまじまじと見つめて落胆しました。
こんなことは、もう慣れたものです。
「絶世の美女って聞いてきたんだけど? 君、普通過ぎだよね? まさかその顔で、とか言わないよね?」
名前すら名乗っていない無礼な少年は、私を残念そうに見上げて尋ねました。
こんな台詞も耳にタコです。
なので、返す言葉もいつもと同じです。
「おそらく、妹のガブリエラとお間違いかと存じます」
「えっ? 妹!? そ、その妹ってさ、髪は白銀で唇は桃色、声音は鈴の如く可憐で誰もが振り返る絶世の美女って奴?」
何と口の悪いガキ……ではなくて、お坊ちゃまなのでしょう。
「はい。新校舎におりますよ」
「そっか。でも、君の妹なんだよね?」
「……私は、妹とは似ていません。妹は、噂通りの身形だと思いますよ」
「ふぅーん。ありがと。それなら、バラを無駄にしなくて済みそうだ。――よぉしっ! 行ってくる」
口の悪い坊ちゃまは、意外と素直に御礼を言える子だったみたいです。
それなら、少しだけ忠告してあげようと思いました。
「あの。頭上と左右。それから後ろに気を付けてくださいね」
「は?」
「何か飛んでくるかもしれませんので」
「僕には近衛騎士がついているから平気だよ。ご忠告どうも」
少年は軽く手を振ると、校舎の方へ走っていきました。その後ろには、数名の騎士の姿があります。
「近衛騎士?」
ということは、今の少年は――。
「シェーラ。さっきの奴が誰だか知らないのか?」
「あら。ルシアン」
後ろから声をかけてきたのは、ルシアンでした。
黒いローブは裾が泥だらけで、ついさっきまで花壇で花をいじっていたのが窺えます。
彼の名前はルシアン=サース。丸い極厚のメガネをかけた留学生の彼は、私と同じ魔法植物学を専攻する唯一の同期です。
「さっきのは、この国の若き王子。名前は……忘れた」
「確か、レオナルド王子だわ」
「そう。それそれ。追いかけなくていいのか?」
「追いかける?」
「ああ。あの調子だと、名乗らないだろうな。さすがにまずいだろ。ガブリエラの性格だと……」
ガブリエラは気位が高く、求婚してきた相手をいつも試すのです。
しかも、最近は以前よりエスカレートしてきて、前回の求婚者は、怪鳥に襲われ翌日裏山で発見される始末でした。
さすがに王子にまでそんなことはしないと思いますが、王子だと気付かずに何かしてしまったら……。
「大変っ。急がなくちゃ」
「俺も行く。面白そうだし」
「もう。ルシアンったら」
私は、ルシアンと二人で新校舎へと急ぎました。
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