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20 炎の精霊王・サラマンダー

夜の更新3/4

「いいだろう、交渉成立だ。では、さっそく役に立ってもらおうか」


 アイディーンがそう言い手を叩くと、入り口の方から大勢の騎士がやってきてアニーたちを取り囲んだ。


「ニコラ……!」とアニーの叫ぶ声が聞こえる。

 アニーたちは、騎士たちに拘束されて、私から引き離されていった。


「さあ、こっちへ来い。お前が役に立たなければ、アンナに頑張ってもらうしかないぞ」


 アイディーンは、アニーたちに思わず駆け寄ろうとする私を制止するように言う。

 心無い振る舞いに、思わずキッとアイディーンを睨んだが、アイディーンはまるで子犬にでも睨まれたかのように鼻で笑って軽くいなし、装置の前の座を私に明け渡してきた。

 

 その態度にムッとしつつも、仕方なくアイディーンの方に進んで行き、装置の前に立って手をかざす。

 ふと、装置越しに前の方を見ると、装置のすぐ後ろに、奥の壁に向かってぽっかりと大きな穴が開いていた。家一軒分が丸ごと入りそうなほどの大きさのその穴は、底が見えないほど深く、まるで地下深くまで続いているかのように暗かった。

 

 私は少し肝が冷えるような感覚を覚えながら穴から視線を外し、チラリとアイディーンの方を見た。

 アイディーンはさも、満足そうな顔でこちらを見ている。

 

 その表情に歯がゆさを覚えながら、再び前方に目を向けると、今度は大きな穴の向こうの壁に、観覧席のような場所があるのに気が付いた。いつの間にかそこに、豪華な装いの老年の男性が座っている。

 男性の顔からは表情が読み取れなかった。ただ、無言で私と装置をじっと見ている。


 ……まるで、見世物のようだ。


 大切な仲間たちは人質のようなに扱われ、その仲間たちを拘束する騎士たちは、アニーたちの静止もほどほどに、私の様子を窺っているような雰囲気を発している。

 横に立つアイディーンは、私が装置に魔力を込めるのを、今か今かと待ち構えていた。穴を挟んで向こう側にいる男性も、こちらの一挙手一投足を逃すまいと、刺すような視線を向けてくる。

 

 そんな状況に、私は何だかすごく苛々してきて……。

 一度目を閉じ、体の内側に意識を集中させた後、カッと目を開いて魔力を思いっきり装置にぶち込んだ。

 

「キュイーーーン!!」という千切れるような高い音を立てながら、装置が光を放ちだす。中に込められていた白いもやが、中央に向かって渦を巻いていった。

 魔力を放出したそばから、どんどん装置に吸収されていく感覚があった。だが、まだまだ私の魔力が尽きる気配はない。


(こうなったら、全部叩き込んでやる!)

 

 そう思い、容赦なく魔力を装置に流し続けていると、横から「ハッ……!」と乾いた笑い声が聞こえた。

 

 全力で魔力を装置に込めはじめて、数分も経たないうちに、装置が「ビーーーー!!」というけたたましい音を発した。同時に、装置の中のもやが、これまでの白色から黄色に強く発光しはじめる。

 向かいの観覧席にいた男性が、目を見開き、驚きの表情とともにガタッと立ち上がったのが見えた。

 

 これ以上はもう魔力が入りそうにないと感じ魔力を注ぐのをやめて手を下ろすと、アイディーンが私を押しのけて装置を確認した。アイディーンの顔に、みるみる歓びの色が満ちていく。

 

「~~~~!! 起きろ、サラマンダー! 約束の時間だ!」


 アイディーンが響き渡るような大声で叫んだ次の瞬間、ドーーン! という大きな音とともに、空間全体が揺れた。

 その揺れで、私は思わず地面に手をついて倒れ込む。壁や天井にも振動が響き、破片がパラパラと落ちてきた。

 

 再び、ドーーーーン!! という音と振動が起きると、今度は前方の大きな穴から、赤褐色の巨大な手が勢いよく出てきて床を掴んだ。

 その手の勢いで生じた強烈な熱風が、その場にいる全員に襲い掛かる。さらに、穴から這い出てきた手からは蒸気が噴き上がり、その場の温度が一気に上昇していく。

 

 そして最後の、ドーーーーーーン!!! という轟音と揺れとともに現れたのは、背中に炎を乗せ、口から炎を溢れさせる巨大なドラゴンだった。


 ……ここはまさに、活火山の火口だった。

 ドラゴンは全身から蒸気を噴き出し、背中からも炎を溢れさせて、「ギャーーー!!」と大きな唸り声を上げる。その姿を、私も、後ろで拘束されていたアニーたちも、茫然として見つめていた。

 

 アイディーンは先程までの揺れや熱風に動じることなく、ドラゴンの姿をじっくりと確認している。

 そして、「サラマンダー……本当に、待たせたな……」と、これまで見たことがないような……泣き出しそうな、それでいて穏やかな表情で、小さく噛み締めるように呟いていた。

 アイディーンの呟きに呼応するように、サラマンダーもまたアイディーンを見つめていた。

 

 その様子を見守っていると、アイディーンが私の方に振り返った。


「今から『破局噴火』をはじめる。喜べ、特等席で見せてやる!」


 アイディーンはニヤリと笑ってそう言うと、装置の前に立ち、自身の魔力を込め始めた。

 

 装置は先ほど私が魔力を流していた時とは違う、「ブォン!」という音を立てて起動した。そして、装置の中に満たされていた黄色いモヤが、さらに強く輝き出す。

 すると、サラマンダーが出てきた大きな穴を囲むように、黄色い模様をした結界が上空に向かって張り巡らされていった。


 結界の中が、装置の中と同じように黄色く輝くモヤで満たされていく。

 同時に、サラマンダーの赤褐色だった体が、所々鮮やかな赤や橙色に発光しだし、茹で上がっていくようにボコボコと音を立て、これまで以上に猛烈な蒸気を噴き上げていった。


 サラマンダーの体の赤や橙色の部分が広がるにつれ、結界の色も強くなっていく。それと同時に、結界内外から放たれる光も、熱も、これ以上ないほどに満ちていった。

 その瞬間、サラマンダーは上空を見上げ、「グオオォォオオ!」と、空間全体が揺れるほどの大声で叫んだ。


 ――――カッ!!


 空間全体が白むような強い光が灯った瞬間、「ドオオオオオン!!!!」という轟音と大きな揺れと共に、上空に向けてマグマが噴火した。


 ⚚ ⚚ ⚚


 気がつくと、私は床に伏せていた。

 どうやら、意識を失ってしまっていたらしい。後ろを振り向くと、アニーたちと騎士たちが全員意識を失って倒れていた。

 再び前を向くと、そこには先ほどまで強烈な存在感を放っていたサラマンダーの姿はなく、代わりに、噴火の前と変わらぬ静かな様子で上空を見つめているアイディーンの姿があった。

 

 サラマンダーの噴火と共に生じたマグマは、結界によって完全に押し込められていた。そして、結界に触れて徐々に霧散していく。

 全てのマグマが消え失せ、最後に結界が再び強く輝くと、結界は細かく壊れ、光とともに空気中に消えていった。


 熱も収まり、ポッカリと空いた空間の向こうから、ガタリと音がした。

 そちらに目を向けると、ずっと黙って様子を見ていた男性が、膝から崩れ落ちているところだった。その姿を確認したアイディーンが、慌てて男性の元に駆け寄る。


「……これで、国は……国民は、守られたのだな……。本当に、本当に、ありがとう……」


 男性は大粒の涙を流しながらそう言い、そのままアイディーンの腕の中で気を失った。

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