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魔窟

異世界転移先で不幸にも魔物に襲われ、早くも命の危機に瀕した仲睦まじい姉妹の姉、咲希。妹の優花と再会を誓い、未開の世界を旅するが旅のお供は何と齢云千歳引き籠もり歴云百年の世間知らずなとんでも魚人。旅の道中次々と起こるトラブル、そして蛇足だらけの日常を綴る物語。

目が覚めたらそこは魔物の巣窟でした。

人間、あり得ない出来事に遭遇するとフリーズするらしい。脳が現状を必死に理解しようとして必死に頭を働かせた結果一番最初に出てきた結論が、「あ、これ死ぬ」だったから救いようがない。

目の前には恐竜かキメラのような見たことのない動物?化け物?が赤い両眼をぐりんとこちらに向けて瞬きしている。瞳孔と白目が厭に人間に似ていて不気味だ。そのうち言葉でも喋りだしそうだ。

「お姉ちゃん!咲希お姉ちゃん!」

「救世主様、それ以上身を乗り出されると危険です!お下がりください」

「嫌だ離して、離せ!咲希お姉ちゃ…っ」

聞こえてきた声にハッと頭上を見上げると、岩壁の上に同じくこの異世界に転移させられ連れて来られた妹ーー優花の姿があった。優花は泣きながら護衛だという男の腕を振り払って私のいる洞窟の底まで不可能だというのに来ようとしている。

そもそも、私がこの洞窟に落ちてしまったのは私達を召喚後王都へ護送される道中、魔物と呼ばれるこの世界特有の危険な生物の襲撃を受け、私は運悪く彼らのコロニー、つまりこの洞窟に落ちてしまいそう長くない時間だが気絶してしまっていたわけだ。

でも、優花はちゃんと無事だったらしい。それだけが幸運だった。

「優花…」

小声で呟いたつもりだったが、優花の耳には届いたようで、明るい場所からこちらは見えにくいだろうにしっかり私と視線を交じ合わせてくれる。不安と恐怖はその瞬間だけ消えた。気を奮い立たせ、眼前の死の予兆を無視し私は声を張り上げた。

「私、死なないから!また逢おう!」

そう言い放ち、私は瞬時にしゃがんで砂利を拾い、化け物の両眼に向かって勢いよく振りかぶった。つまり目潰し。逃げるための戦略かって?人間みたいな目で被食対象として見られるのが怖い通り越して不快だったので当たってのたうち回ってればいいと思っただけです。

案の定、ギャッと声を上げて化け物が一瞬怯んだ隙に脇を走り抜けて行く。

そして私は洞窟を当てずっぽうに彷徨うーーハメには幸か不幸かならなかった。

走り始めて突如、足元から地面の感覚がなくなった。まだ光が視認できる範囲にいたからそこまで真っ暗なわけじゃないし足元は悪いけど獣道みたいになってて転ぶほどでもない。なんだと思って下を見たらそこにはなんと細く深い、長い地下水道が広がっていた。

テレビとかで見たことある、海外の洞窟探検家の悲しい事故を思い出した。洞穴に入って暫くして外で雨が降り始めて洞穴に雨水が入り込み、酸素が無くなって最終的に命を落とすやつ。

焦りで息が乱れる。ゴボゴボと空気が逃げて息苦しくなる。

これは、ちょっと、本気でマズい?

水面はまだ近い。顔を出せば助かる。でも地表は地表で危険な生物がうようよ歩いてる。今度は目眩まし程度じゃ逃げ切れないかもしれない。

土地勘は全くない上ダイビングの経験も無い。むしろ金槌。どっちを選んでも詰んでるーー。

煮詰まった限界の思考に急速にモヤがかかってゆく。そして私の体は水流に緩やかに呑まれ、いつの間にか這い上がれないところまで沈んでいった。死ぬーー?

ーーううん、優花、必ず、帰って…

その思考を最後に、私の意識はぷつりと途切れた。

近くで何かが蠢く気配に気づかないまま。

登場人物


咲希(さき) /24歳/北海道出身。訳あって東京に上京し妹の優花と2人で暮らしている。根は真面目だが変に度胸が据わっているせいで突飛な行動に出がち。


優花(ゆうか)/17歳/咲希の妹。咲希を深く慕っている。誰もが振り向くような可憐な容姿をしているが、それ故に恐ろしい目に遭った過去を持つ。この世界の人々から【救世主】と崇められている。


護衛の騎士/【救世主】を守る役目を司る側近騎士。他にも四名いるらしい。

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