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ミラ・スカーレット

俺が通っている『ウルムガルト国立学校』は生徒数約2千人を擁するマンモス校である。

冒険者という職業訓練校の位置付けだが、初等部から大学院まで一貫、企業と提携した研究施設もある。そのため様々な人種、年齢の者が通っており、一種の坩堝るつぼのようだ。

敷地面積はかなり広い。5階建ての校舎が幾つもそびえ立ち、各種セレモニーや高名な魔法師をお招きする際に使用する大講堂、魔法や剣術の訓練場、はては自然豊かな山や湖、洞窟なんてものもある。

およそ冒険者になるのに欠かせない要素が全て詰まっている。才能あるものには機会を与える、そんな学校だ。


まあ、そういうわけで、ひとたび教室移動するにも一苦労なんだが...


ーー第2校舎 3階 A教室(2-3-A)ーー


「...遅すぎて前の方しか空いてないか」

一応まだ10分はあるはずなんだが...。

俺がこの講義でよく座っていた窓側の席は既に埋まっていた。

もとより、今日はいつもより生徒が多いようだ。

残念ながら教卓の前の、前後2席分しか空いていない。

例の転校生ってわけじゃないが、おとなしく最前列に座る。

たまにはこういうのも良いだろう。

それに俺は勉強が嫌いじゃない。


.....。

魔法概論Iで使用するテキストをペラペラとめくる。

学術書というのは良い。偉人、先人たちが生涯かけて成し遂げたことを、書物を通して学ぶことができる。

それは言わば、彼らの人生をなぞり、追体験することと同義だ。


「ねえ、ちょっとアンタ」


『スパーク』『フレア』『ウォーター』。

人類が初めて発見した魔法だ。

彼らはこの発見をしてどう思ったのだろうか。

嬉しかったのか?誇らしかったのか?はたまた、天才すぎて何も感じなかったのか?

もしかすると、自らが発見した魔法が戦争に使われて、憎らしかったのかもしれない。

...いずれにせよ、彼らの軌跡があるから、我々は今を生きている。


「ちょっとってば。もしかして聞こえてないの?」


...魔法。それは自然の理を書き換える、神秘的なもの。いや、少し語弊があるか。魔法もまた、一つの自然だ。

自己に内包する魔素(内なる魔素)を媒介とし、|この世界に満ちている魔素《外なる魔素》に働きかける。さすれば魔法が発現する。


「おーい。もしもーし」


ただ、一口に言えるものでもなく、魔法を発現させるには非常に高度なスキルが求められる。それもそのはず、物理法則に干渉するなど、並大抵なことではないからだ。


まず内なる魔素を励起状態にし、外なる魔素と程よく調和させる。共鳴状態だ。この状態ならば、ある程度の性質と指向性を持たせて外なる魔素に伝達できる。また、一部例外を除いて、伝達できる情報量(魔法の強度)は内なる魔素の内包量によるため個人差が出る。それはすなわち才能の差といっていい。

内なる魔素は成長期に比例的に増加し、以降は鈍化する。自分で身長を伸ばせられないのと同じように、内なる魔素もまた努力ではどうにもならず、遺伝的な要素が強い。ある想像を絶する方法を除いては。


その方法とは何かというとーーー


「おーい!.....ボーっとしてんじゃないわよ!」


バチコンっ!

「痛ってぇぇぇぇぇ!」


い、いきなり殴られた!

痛みに耐えつつ振り返ると、勝ち気そうな顔をした、紅髪の女が立っていた。

なんだこいつは!


「なんだよいきなり!」

「いきなりじゃないわよ。さっきからずっと声かけてたじゃない。アンタ、全然気づいてなかったけど?」

「いや、それは悪かったけど...。でも俺ら初対面だろ?普通殴らないって」

「アンタが鈍いんだからしょうがないじゃない。

...てかそんなことより、アンタ、席、ゆずりなさい?」

「はあ?なんでまた」

「そこ、いつも、空席だった。今日、アンタ、来た。しかも、図体、デカい。お分かり?アンタのせいで前が見えないのよ」

そういって、こいつは高飛車なふうに指をビシッと指してきた。

「あ~、そういうこと...」

「分かればいいのよ。ふふん」

おとなしく席を譲ってやると、我が物顔で偉そうにドカッと椅子に座った。

こいつ...!

...まあ、いいか。

俺もすごすご席に着くと、豊かな紅髪をたなびかせながら、徐ろに振り返ってこう言ってきた。


「そういえば、アンタ。アンタってもしかして冒険者?ギルドのライセンス取ってたりする?」

「確かにライセンスは取ってるが...。それにさっきからアンタアンタって、俺にはリーン・エリアスって名前があんだよ」

「あら、ごめんなさい、失礼したわ。それにしてもリーン...ね。アンタってもしかして、最近ギルドから期待されてるっていうあのリーン?」

「どのリーンかは知らないが、所属してるギルドじゃ俺以外そんな名前のやつは居ないな。多分俺のことなんだろう」

「ふふっ。やっぱりそうなのね。じゃあリーン。一つ席を譲ってくれたご褒美をやるわ。アンタ、私の下僕になりなさい?」

「はあっ、下僕!?...まったく意味が分かんねえよ。それにさっきから、いったいお前は何なんだよ!?」

「わたし?私はミラ・スカーレット。貴族よ」

そういって、ミラは優雅にお辞儀カテーシーをした。...勝ち誇った笑みとともに。


ESN大賞6、HJ大賞5応募作!ぜひレビュー、評価、応援よろしくお願いします!

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