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第27話 この世界を駆け抜ける

「確かにな。ボクに必要なのは破壊の力だ!」


「そうであろう。この世界を破壊し尽くす、ありったけの力をくれてやる」


「そんなもの、ボクは要らない」


「小僧、何を言っている?自分の言っていることが、分かっているのか?」


 ボクが未来が見えなかったのは、ボクが死んでしまうからじゃない。この世界の理から外れたところに、ボクの生きる未来がある。しかし、世界の理を壊してしまえば、ボクの大切な人達は生きられない。


「ボクが欲しいのは、目の前の小さな理を壊すだけの力。ホンの少しの力でイイ」


「面倒臭い。そんなことを言う奴は初めてだぞ」


「ボクの望む力をくれるんだろ。それとも、出来ないって言うのか?」


「ふんっ、後は勝手にしろ」


 それだけを言うと、黒龍の声は聞こえなくなってしまう。その代わりに懐かしい感覚が蘇ってくる。

 急激に膨れ上がる胸騒ぎ。目の前のシータは怒りを露にし、両手には滅びの紫紺の光が輝いている。ボクの頭の中には、幾つもの死の光景が展開される。


「力はくれるけど、どうやるかは自分で考えろってことかよ。ケチくさい奴だ」


 黒龍からの返事を期待して、少し文句を言ってみたが、何も反応は返ってこない。先の見えない未来は見えている。それは、ボクが思い描く未来。


 黒柄の短剣を抜くと、シータに向かって駆け出す。ボクにはシータの動きが手に取るように分かる。どんなに滅びの紫紺の光を放とうが、ボクには当たらない。

 そして、短剣を障壁へと突き立てる。キンッと音がして、障壁を貫くことは出来ないが、それも分かっている。

 短剣を通して、ボクには膨大な知識や記憶が流れ込んでくる。それは、シータの創造した世界の理だけじゃない。大地の精霊ミュラーや、森の精霊ユーリシアの力に、アージさんやリオンの記憶。それに、不死鳥の炎を身に纏ったディードの存在も、まだシータの中に残されている。


「黒龍の奴め。面倒臭いじゃなくて、逃げただけじゃないか。“女の勘”ってやつから!」


 苛立つ気持ちもあるが、黒柄の短剣に宿る大地の精霊ミュラーの分霊が、ボクの意を汲み取り剣身を変化させる。剣身から伸びた無数の蔦は、障壁へと絡み付きながら中へ浸食しようと試みている。シータがボクを攻撃しようとすれば、障壁は砕ける。障壁を維持すれば、さらに伸びる蔦が障壁全体を覆い隠す。

 だが、膠着状態にはならない。短剣から伸びているのは蔦だけじゃなく、柄頭から伸びた根がボクの腕に絡み付いている。


「大地の盟約だ。イスイの森のエルフ族の魔力を受け取れ」


 シータの中には精霊の巫女達がいて、まだ完全には自身の身体として取り込めていない。ボクが黒龍へと溜め込んでいた魔力が、障壁の中へと流れ込み、シータへと吸収される。


「それで此奴らを助けれるとでも思うたか。我の糧となるだけよ」


 しかし、ボクが消費することなく溜め込み続けた魔力は膨大で、魔力の流れは弱まるどころか更に勢いを増す。


「どうした、静かになったぞ。まだ、お腹いっぱいなんて言わせない」


 幾らシータが消費しても、それを遥かに超える魔力が流れ込み続ける。魔力を拒否しようとしても、自らが精霊の巫女を体の一部としたのだから拒否なんて出来ない。


「最初は左腕だ。次に右腕が弾ける」


 蔦に覆われ中の様子が見えなくても、ボクには未来が分かる。ボンッ、ボンッという軽い音が聞こえる。そして、数枚の障壁が砕け散る。


「さらに魔力が消費出来なくなったな。次は頭で、その次は腹、最後に胸だ」


 シータの創造した理が何なのか、ヒエラルキー最下層のボクには到底理解出来ない。分かったのは、シータの創造した理は全てが緻密に計算され、幾重にも複雑に絡み合い構築されていることだけ。

 でも、それは力に限界があることの証明でもある。限界を超えれた魔力が流れれば、シータの理は機能せず崩壊するしかない。

 まさか、精霊の声を聞くことも出来ない、ヒエラルキー最下層のエルフの魔力が、黒龍に魔力を溜め込んでるなんて悪戯好きの女神にしか分からないだろう。


 障壁の中から2度弾ける音が聞こえ、それがボクへの合図となる。


「これが、最後の止めだ!」


 シータの力が弱まり、障壁が一気に砕ける。ボクには、シータが下半身を切り離し、上半身だけの姿になっているのが見えている。


「アージさんを盾にしようなんて、子供にだって分かるぞ。それにディードの置き土産を忘れてる」


 黒龍の鞭が、盾にしようとしていた3人を絡めとる。しかし、その僅かな間に障壁は再構築されている。


「これで貴様の攻撃は、通用せんくなったぞ」


「残念だけど、これで終わりなんだ」


 ボクの武器は黒柄の短剣だけじゃない。母の形見の短刀を障壁に突き立てる。短刀は障壁に阻まれても、ラドルの放つ閃光は障壁を通過し、シータの胸を貫くと魔石を砕く。


「ボクの白髪は、母さんが残してくれた光の精霊の力なんだよ」


 悔しそうな表情を浮かべ、シータの体は消えて無くなってしまう。限界を超えたせいなのか、それとも理が消滅したせいなのか、ボクには分からない。


 そして、横たわる2人の精霊の巫女と、1人の元精霊の巫女。無事だったのはイイが、黒龍の鞭が3人をあられのない姿に縛り上げている。これだけは、ボクの思い描いた未来とは違う。


「マズい、でもどうすれば……」


 放置してもダメだし、手を出してもダメ。やっぱりボクの胸騒ぎスキルは、こんな時は発動してくれない。


「大丈夫だ。ボクは未来が描ける。もうヒエラルキー最下層のエルフじゃないんだ!」


 そして頭の中には、アージさんの怒る姿と、摘ままれるボクの右耳が思い浮かぶ。


「ダメじゃないか、逃げるしかない」


 ボクは今日も全力で、この世界を駆け抜ける。その先には、ボクの思い描く未来がある。

物語はここで1度完結とします。

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