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第25話 魔王シータ

 イスイのエルフ族は火を忌み嫌うが、火が無ければ生きてゆけない。でもボクは火が好きだ。暖かいだけじゃなくて、見ているだけで心が癒される。


 暖炉の炎が暖かくて心地イイ。


 “五月蝿いな。もう少し寝かせてよ”と言いたい。ヒエラルキー最下層のボクが休んでいては、生きてゆけないのは良く分かってる。でも、口答えすればアージさんの機嫌が悪くなるから、ボクは寝たふりをしている。たまには休みを取らないと、イイ仕事なんて出来ない。これも効率良く仕事をする為の、立派な仕事なんだよと心の中で呟く。


 恐らくボクが寝たふりをしているのはバレている。だから、アージさんは暖炉の火を強くした。でも、ここで動けばボクの負けが確定する。どんなに少なくても可能性がある以上、ボクは勝負をあきらめない。

 さらに伝わってくる熱気が激しさを増す。わざとにしても火が強すぎる。一歩間違えれば、イスイの森に取り返しのつかないことが起こる。


 少し目を開ければ、巨大な火柱が立っている。慌てて飛び起きてしまったが、少し様子がおかしい。飛び起きたはずなのに、まだ寝ているボクがいる……。

 顔にも体にも乾いた血がこびり付き、全身が赤黒く染まっている。それなのに、黒髪に混ざった白髪だけは変わらずボクというレアな存在を証明している。


 夢の世界から現実へと呼び戻され、記憶が鮮明に蘇ってくる。ボクはスキュラと戦っていたんだ。横たわっているボクを護るように、ディードとリオンが立っている。


「ディード、リオン!」


 2人の名を呼ぶが、ボクの声は届かない。それどころか、目の前の火柱から吹き付ける熱風に、ボクは体から引き離されてしまう。足掻こうにも今のボクに手足はなく、されるがままに宙へと浮かび上がってしまう。ボクは死んでしまい、魂だけの存在となったのだろうか?それとも、これは死んでゆく過程なのだろうか?


「ディード、どうなってるんだ?」


 もう一度叫んでみるが、結果は変わらない。ただ2人の視線の先には、上半身だけの魔物がいる。獣人族のような姿で頭にはケモミミが付いているが、肌は蛇のような鱗に覆われている。足元には千切れてバラバラとなって転がっている鎖の残骸。


 間違いなく2つに割かれたスキュラの上半身。獣だった下半身とは違い知性は高く凶暴な存在。


 ディードが両手を天に翳すと、他にも火柱が現れる。火柱の数は全部で5つ。スキュラを囲みながらも、ゆっくりと距離を詰め、一斉に襲いかかる。

 合わさった火柱は巨大な竜巻となり、さらに熱気が増す。こんな力を森で使えば、イスイの森はなくなってしまうだろう。


 だが強力な魔法であればあるほど、魔力の消費も激しい。ディードの唐紅の髪はほぼ白くなり、持てる魔力のほぼ全てを消費している。それに伴い次第に炎の竜巻も小さくなり、熱気も引いてゆく。


「お遊戯は、もう仕舞いか?」


 炎の中から声が聞こえる。炎が小さくなると同時に、紫紺の光を放つ障壁が見えてくる。それに護られたスキュラは、退屈そうディードを見ている。

 滅びの魔法に対して、ディードの再生の炎の力は優位だったはず。それなのに、ディードの残された魔力全てを注ぎ込んだ魔法は全く効果がなく、スキュラの髪一つ乱すことが出来ていない。


「あら、私を忘れてますわ。ミュラー様の力を奪おうとする不届き者め!」


 今度はディードに代わり、リオンが襲いかかる。ミュラーの加護の全てを右拳へと集め、拳は鈍色に輝いている。しかし、スキュラは変わらず退屈そうに眺めている。


 何の抵抗も受けずに、リオンは障壁に右拳を叩き付ける。だが、砕けたのはリオンの右腕の方で、与えた衝撃がそのまま跳ね返ってくる。加護によって護られていない右腕から肩にかけての骨が砕け、血管が破裂し血飛沫が舞うと、右腕はダラリと下に垂れ下がる。


「ちっぽけな精霊ごときの力が、我に通用すると思うたか?」


 スキュラが指を鳴らすと、今度はリオンの左腕が弾ける。


「どうした、もう仕舞いか。退屈しのぎにもならん」


 さらに指を2度鳴らせば、両脚が弾ける。だが、リオンは立っている。それどころか、自慢の尻尾を地面に叩き付け、その反動で障壁へと頭突きをかます。

 ドンッという低い音とともに、障壁に衝撃が伝わる。しかし、加護がないリオンの頭からは血が流れ出し、今度こそ崩れ落ちてしまう。


「此奴はバカか?」


 そう言いながらも、リオンは紫紺の障壁の中へと引きずり込まれてしまう。スキュラの手がリオンの髪を鷲掴みにすると、強引に頭を持ち上げる。


「器としては悪くない。頭の悪さは他が補えば良い。残す1人も目の前におる。これで全てが揃う」


 そして障壁の中には、もう1人の姿が現れる。ビスチェ姿でプラチナブロンドの髪色。しかも、短い髪のエルフなんて1人しかいない。


 何故こんなところにアージさんが……。イスイの森に居るはずのアージさんが、タイコの山の地下に居るんだ?

 だが、ボクが戸惑っている間にも、障壁から触手が伸びている。残す1人とは、ディードの事で間違いない。しかし、魔力を使いきったディードには、抵抗する術はない。勿論、魂だけの存在となって浮遊しているボクにも、出来ることはない。


 しかし触手以外にも、ディードに向かって伸びるものがあった。黒い影がディードに向かって伸びると、触手を弾く。

 その影を辿れば、ボクの体に行き着く。ボクの体の形を映すだけの影じゃない。自在に形を変化させ、さらには地面からも飛び出してもみせる。クオンがボクの影を依代としているなら、ボクはまだ死んでいない。


「ふんっ、偽りの世界の精霊が小賢しいわ」


 しかし、スキュラも面倒臭そうにしただけで驚異とは感じていない。紫紺の障壁から無数の触手が伸び、影の本体であるボクの体を狙ってくる。ディードのように絡め取る動きではなく、突き刺し止めを刺す為の鋭い動き。今度はクオンが、ボクを護らざるを得ない。ボクが死んでしまえば、クオンも力を発揮出来なくなる。


「妾も舐められたもんだな。脳筋と小娘ごときと一緒にされては困る。格の違いを見せてやろうぞ」

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