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第18話 ボクにとっての最悪

 ゴセキの山に近付けば近付く程に、バーゲストの数が急速に増え、それに比例してボクの胸騒ぎも高まる。


「まずいな、異形種の気配がする。それも一体じゃない」


 哨戒に出ていたラドルも、赤い光を放ちながら戻ってくる。やはり、ボクの胸騒ぎスキルは間違っていない。


「作りものの異形種。数が多くても当然のことよ」


「さっき、殺されかけたばかりだろ」


「倒し方が分かったのだから、今は問題なかろう」


 ディードはサラッと言ってのけるが、つい最近まで下位種と戦っていたボクにとっては難題でしかない。広大なイスイの森の中で戦っているのならば、幾つもの選択肢がある。しかし、ゴセキの山では地の利もなくなり、取れる選択肢も少ない。それでもボクの胸騒ぎは、ゴセキの山に向かえといってくる。


「正面突破は無理だ。やはり獣人族の抜け穴を探すしかない」


「ルクールの好きなようにして構わん」


「はい、全てはミュラー様がお導きになられます」


 何故かディードもリオンも、ボクに絶対の信頼を寄せてくる。ボクの無い頭で思い付くのは、獣人族によって掘られた抜け穴を使うこと。幾つもの抜け穴があるはずだが、ゴセキの山の崩壊とともに使えなくなってるものも多い。


 それでも、可能性は十分にあると思っていたが、予想以上に時間がかかっている。リオンは、ゴセキの山の最深部の構造は知っていても、地表に近い部分は詳しくない。分かり得る限りの抜け穴を見たが、胸騒ぎはどれも変わらず、最大級の危険を告げてくる。


 急がなければならないのは分かっているが、決断出来ない。最初は、まだ他にマシな場所があるかもしれないと期待した。今は、先の場所の方が良かったのかもしれないと、悩めば悩む程に分からなくなる。


 一度始まった負の思考のループから、ボクは抜け出せないでいる。


「ご主人様、お悩みのようですね」


 直情型で悩みの少なそうなリオンだが、ボクが悩んでいるのことは察してくれる。


「ああ、何て言ったいイイのかな。ボクの感覚だから、上手く説明出来ないんだけど」


「僭越ながら、私は先の穴の方が良いと思いますわ」


「んっ。どうして、そう思うんだ」


「ご主人様の、鼓動や筋肉の音ですわ」


 胸騒ぎスキルは、ボクの中だけの感覚で、形の無いものだと思っていた。しかし、リオンは僅かな音を感じている。ボクだけの不確かな感覚なら優劣を付け難いが、音とし感じてくれるならば分かりやすい。


「そうだな……」


 しかし、それでも先へと進む決断は出来ない。それは、ボクの負の思考のループにより、何が安全なのかさえ分からなくなっている。


「一度休むべきか。ルクールには、少し無理をさせすぎたかもしれん」


 何時もは無茶振りしてくるディードが、急に休むことを提案してくる。それが、逆にボクの決断力の無さを指摘された気がして、余計に焦ってしまう。


「でも、そんな余裕なんてないだろ」


「しぶとい獣人族ならば、まだまだ持ち堪えよう」


「そうですわ、ご主人様。エルフと違い、屈強な獣人族ならば心配ありません。ミュラー様の加護も健在です」


 ディードもリオンも、今がジリ貧で残された時間が少ないことは分かっている。それでも、ボクの負担を心配し休むことを優先にしようとする。


「でも、折角でここまで来たのに」


「疲れが溜まれば、十分な能力は発揮出来ん。休む時は、しっかりと休む。それが、生き残る可能性を高めるのだぞ」


 ディードの言葉には、これまでに経験からくる重みがあり、それを否定するだけの理屈はボクには無く、頷くことしか出来ない。


「さて、少し狭いかもしれんが、休むには問題なかろう」


 近くにある大樹にディードが手を触れる。


「森の精霊ユーリシアの眷属トレントよ。大地の盟約を履行する我らに力を貸せ」


 すると大樹の根元にポッカリと樹洞が現れる。


「少し狭いが、我慢しろ。まさか獣人が増えるとは思っていなかった」


 樹洞の中は、高さはあるが幅は狭い。2人が並んで寝れる程度の広さはあるが、3人ならば少し狭い。そして、中に入れば入り口は塞がってしまう。


「安心しろ。休んでいる間は、トレントが守ってくれる。危険が迫れば教えてくれるから、今は休むことに専念しろ」


 そして、何故かボクは2人に挟まれて寝ている。樹洞が狭いため、3人並べば密着してしまう。自然となのか、わざとなのか分からない。2人ともボクの腕を抱きかかえ、幸せ触感がボクに伝わってくる。

 普通ならこれで休めという方が無理があるが、ボクの負の思考はそれを凌駕している。


 ボクにとって最悪の事態とは、何なのだろう?その事ばかり考えてしまう。今までは、ぼっちのボクが生き抜くことだけが正解で、単純でもあり分かりやすかった。でも横には、ディードとリオンが居て、幸せ触感がより2人を意識させる。

 ぼっちだった頃のボクと、今のボクの最悪は一緒なのだろうか?ボクだけが生き残れば、最悪の事態を回避したことになるのだろうか?


 エルフ族の存亡や、ヒエラルキーの最下層にいたボクの存在の証明、色々なことが頭の中に浮かんでは消える。


「温かいな」


 次第に伝わってきた、ディードとリオンの肌の温もり。忘れかけていたものを思い出し、思わず呟いてしまうが、既に眠りに就いているディードとリオンからの返事はない。


 そして、頭の中を埋め尽くしていたモヤモヤが消え、浮かんできたのはアージさんの笑顔。ディードやリオンに触れて、アージさんを思い出すのは気まずい。でも、ボクが欲しかった力は、大切な人を守る力。


 起きたら、素直に話さなければいけない。ボクが生き残る力じゃないと知れば、飽きられるかもしれない。でも、それでイイんだ。やっと襲いかかってきてくれた睡魔に身を委ねて、ボクも眠りに就く。




「やっぱり妾の勘は妾は正しかった。覚醒する予感がしたのだ」


「いえ、これは大地の精霊ミュラー様の思し召し。ミュラー様の力こそが覚醒させたのです」


 そして、騒がしさに目を覚ませば、ディードとリオンの言い争いが始まっている。


「うるさいな、覚醒って何なんだよ」

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