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第16話 共闘

「貴女、やらかしたわね。こんな話は過去に聞いたことがない、前代未聞の大失態よ」


「なっ、何を言うのですか。私が失態を犯したとは、無礼にも程がありますわ」


 意味深にほくそ笑むディードに、明らかに狼狽の色を隠せないディードでは、すでに勝負はついている気がする。


「大地の精霊ミュラー様は、何を依代にしていたのかしらね?」


 万物には精霊が宿るが、逆を返せば物が存在しないところに精霊は存在しない。それが分霊であっても大地の精霊ミュラーであれば、ただの石ころに宿ることはない。ミュラーの魔力を受け入れるだけの器が必要になる。


「見せる必要はありませんわ。獣人族の秘宝を、それを簡単に見せると思って」


「そう、立派な鎚と鎧だったわね。あれは貴女がミュラー様に願ったのでしょ」


「それは……」


 ディードの言葉にリオンは黙り、睨み返すことしか出来ない。それを意に介さず、さらにディードは続ける。


「無駄にミュラー様の魔力を消費させ、あまつさえ依代となる器を消滅させた罪は大きい。イスイの森のエルフ族であれば当然巫女の資格は剥奪。命こそ奪いはしないが、村からは永久追放だな。ゴセキの獣人族でも大差はなかろう」


「……」


 リオンは完全に黙りこみ、睨んでいた目が虚ろになると、自身の将来に思いを巡らせている。精霊の巫女からの失墜だけではなく、ゴセキの獣人族からの永久追放。誇り高く、大地の精霊ミュラーが全てであったリオンにとっては最悪の未来でしかない。


「リオンが頼るのは、もうルクールしか居らん」


「えっ、何でボクなんだよ!」


 ハッキリいって巻き込まれるのは迷惑だし、ボクには大地の盟約なんて関係ない。大地の精霊も森の精霊も、姿も見えなければ声だって聞こえない。ボクにとっては、どちらも役に立たない存在でしかない。


「大地の精霊ミュラーの分霊が宿ったのは、黒柄の短剣にではない。ルクールの持つ短剣にだ!」


「ボクなんて関係ないだろ。勝手に取り憑いただけじゃないか」


「幽霊や亡霊でないのだから、取り憑いたと言うでない。せめて、宿ったにしろ。もう一度、短剣を良く見てみることだ」


 ボクの持つ黒柄の短剣。双頭のバーゲストとの戦いで折れてしまった剣身は、見事なまでに復元されている。父親の形見であり、今まで共に戦ってきた武器だけに、元の姿を取り戻したことは嬉しい。だが、それが大地の精霊ミュラーの仕業だとなると、素直には喜べない。


「短剣に戻ってる」


「そうだ、それはルクールの望みであろう」


 双頭のバーゲストを倒した時は、ショートソードまでに剣身が長くなった。しかし、今は使い慣れた短剣の長さに戻っている。ボクの戦い方に合うのは、ショートソードではなく短剣。


「でも、ボクは大地の精霊に望んだりしていない」


「そうだろう。それは大地の精霊の巫女リオンの願いだからな」


 確かにボクは、光の精霊ラドルとも影の精霊クオンとも契約出来ていない。アージさんやディードの契約精霊であって、その願いがボクに力を貸すこと。だから、ボクは間接的にではあるが、ボクはラドルやクオンと共に戦うことが出来ている。


「ルクール、納得したか」


「何でなんだよ。ボクにどうしろって」


 ボクの周りには望んでも精霊は集まってこないのに、精霊の巫女が集まってくる。ディードだけでもアージさんとモメるのに、これ以上増えてしまっては……。どうやって、アージさんに言い訳をするんだ。ボクの胸騒ぎスキルは、こんな問題だけは全く力を発揮してくれない。


「ご主人様は、私が傍に居ては困るのですか?」


 もう自信に満ち溢れたリオンの姿はどこにもない。目には薄っすらと涙を浮かべ、縋るようにボクを見てくる。自慢のピンと立った耳は潰れ、モフモフの尻尾の項垂れたように垂れ下がっている。

 自身の能力の過信し、魔物の力を軽んじ、数々の失態を犯した。しかし、まだミュラーの分霊は短剣の中に残されている。全てが失敗に終わった訳ではない。


「ボクは、大地の盟約なんて知ったこっちゃない」


「でも、ミュラー様は短剣を依代とされたのです。私は傍に使え、ご主人様をお守りする使命があります」


「そんなの勝手だろ。それにボクはご主人様になった覚えはない」


 するとリオンの目から、大粒の涙が零れ落ちる。


「ほう、ルクールは女を泣かすのか?それを見たら、あの小娘は何と言うかな」


 泣き出したリオンの周りを、慰めるようにラドルが飛んでいる。ボクはヒエラルキーの最下層の圧倒的弱者なのに、何故か立場が逆転してしまっている。


「ちょっと待ってよ。ボクが悪いの?」


「その短剣がある以上、もう関係ないとは言いきれん。分霊とはいえ、ミュラー様の加護があるのだ。悪い話ではなかろう」


 狐人のリオンと、エルフのディード。お互いに毛嫌いし、対抗しているように見えたが、急にディードの態度が軟化している。


「リオン、妾はもう森の精霊の巫女ではない。もういがみ合う必要はない。お互いに協力しようではないか。悪い話ではなかろう」


 しかし、それが何を意図しているかは分からない。ただ、微かに感じられる希望に、リオンの涙は止まり、潰れていた耳がピンと立つ。


「私に、何をしろと?」


「何、今と変わらん話よ。対抗するは、今の森の精霊の巫女アージ。あの小娘がルクールを独占しておる限り、ルクールを思い通りにすることは叶わん。この騒動が終われば、必ず小娘と対峙する時が来る。その時は、妾に力を貸せ!」


「共闘しろと、それだけ?」


「ああ、それだけだ。妾の望みは、ルクールと共に強くなることよ。そうなれば、失ったミュラー様の力も回復するだろう。しかし、ルクールに敵対することは絶対に許さん」


「分かりましたわ。大地の精霊の巫女の名に懸けて、ご主人様に全てを捧げますわ」


 こうしてリオンは、ディードに懐柔された。そして、ボクは2人の笑みに黙るしかなかった。

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