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魔法の先生

 シェーマスに土魔法を教えて貰うことになったソイル。


 ソイルは騎士の天職を得る為に今までの人生の中で敢えて魔法を使わなかったので魔法を使うのは今日が初体験だ。


 未経験のものの土魔法使いの天職を得た今は魔法が使えるはずなのでソイルは胸に希望の灯火を躍らせる。

 

「オラが使えるのは土を出す魔法だけだ。農作業の役にしか立たないけどいいんか?」


 土魔法の先生って文字通り土を出せるだけの魔法かよ。


 だけど、今までの人生は剣一筋で魔法を使ったことが無かったソイル。


 当然、魔法なんて使えない。


 なんとしても土を出す魔法を教えて貰って魔法の取っ掛かりを掴まないと始まらない。


 ここでなんとか初めの一歩を踏み出さねばいつになっても土魔法を使いこなすことは出来ないだろう。


 ソイルは先生に頭を下げまくった。


「ぜひご師事をお願いします」


「ご師事って……、オラはそんな大層な者じゃない。オラの使える魔法は簡単さ。『ソイル』と唱えるだけだ」


 ニタっと笑うシェーマス。


「坊ちゃんの名前と同じだな」


 シェーマスの手には黒い土が現れた。


 ソイルも同じようにやってみるが手に現れたのは砂粒一つ。


「そりゃサンドだべ」


「砂?」


「それは土魔法ソイルよりずっと下位の呪文だべ。そんな小さな砂粒を一つ出しても種一つ植えられないべよ。普通は土魔法と言えば初めての人でも砂山サンズが使えるのが最低でサンドしか使えない人は聞いたことが無いべ」


 笑い出すシェーマス。


「土魔法には種類が有るんですか?」


「土魔法も訓練するとストーンとかロックとか色々出せるみたいだべ。オラは土魔法『ソイル』専門でそれ以外は使えないけどな」


 土魔法ソイルを使い続け魔法の熟練度が上がりまくったシェーマス。


 シェーマスの異常に高い土魔法の熟練度のお陰で猫のひたい程の狭い畑でも村人全員分の野菜をまかなえていたのをソイルが知るのはだいぶ先のことだった。


 土魔法を使い戦闘中に敵の目の前にいきなり岩とか出せればビックリして戦いの役に立つかもとソイルは思う。


「上位の魔法を使えるようになるにはどうやって訓練すればいいんですか?」


 それを聞いたシェーマスは笑う。


「オラは土専門で石や岩の出し方は知らんけど、魔法を色々使えるお嬢様なら知ってるかもな」


「お嬢様?」


「このお屋敷の主の『ブラン・フィールズ』様のお嬢様だ」


 ソイルは新しい魔法の先生を紹介してもらうことになった。


 *


 この屋敷に一人だけいるメイドさんがお嬢様を連れて来た。

 シェーマスが紹介する。


「ブラン様のお嬢様のセモリナ様だ」


「魔法使いのセモリナです」


 名乗った後にちょこんとお辞儀をする女の子。


 歳はソイルと同い年ぐらいだ。


 まるでお人形さんがそのまま大きくなった感じでとても可憐かれん


 あの盗賊の親分のような村長からこんなに可愛い娘が生まれるのかは謎だ。


 こんなに可愛いなら魔法の先生以外の関係でもお近づきになりたいと思うソイル。


 シェーマスがお嬢様を更に紹介する。


「お嬢様はこんなに若いけど熟練の魔法使いだ。魔法を色々使えて凄いんだべ」


「わたしが使える魔法は火と水の上級魔法が2つと後は中級魔法だけで大したものは使えませんよ」


 それはどう見ても謙遜けんそん


 中級魔法が使えれば立派な魔法使いだと魔法の使えないソイルでも知っている。


 更にシェーマスがソイルの心を見透かしたように付け加える。

 

「お嬢様は許嫁のいる身。手を出しちゃダメだべ」


 ぐは……。


 こんなに可愛いのに既に彼氏持ちなのが残念過ぎる。


 それにしてもシェーマスは僕の心が読めるんだろうか?


 少し怖いとソイルはシェーマスの洞察力に戦慄した。


 セモリナさんがソイルに声を掛けてくる。


「ところで……きみの名前を知らないんだけど、きみは何を覚えたいの?」


「あ、自己紹介がまだでしたね。僕はソイル・アンダーソン、セモリナさんのお父さんと僕の父上が僚友りょうゆうらしくその伝手つてを頼って魔法の勉強にしにこの村にやって来ました。是非とも魔法の師事をして頂けないでしょうか?」


 同い年だとは思うが、ソイルは敬意を持って先生となる少女にに頭を下げる。


「アンダーソンて……もしかするとロックさんの息子の?」


「はい」


 魔法の先生のセモリナさんはそれまでの温和な笑顔が嘘のように嫌悪感満載で眉間にしわを寄せる。


「あんた、どの面下げて今頃わたしに会いに来たのよ?」


 僕のマイケルとの敗戦がもう伝わっているの?


 いや、伝わっているとしてもこの少女にはなんの関係もなくない?


 掴み掛る勢いでセモリナさんが詰め寄って来たので村長で父親のブランさんが間に入って止める。


「セモリナ、お前の言いたいことは解るがソイルもそれを承知でお前に頼って来たんだ。ここは水に流してやれ」


 セモリナさんはソイルの瞳を睨みつける。


 しばらくすると怒りが収まったのか、呆れたような顔をした。


「仕方ないわね。本人は婚約破棄の事を全く覚えてないみたいだし…………。いいわよ、教えてあげるわ」


 セモリナさんはがっくりと肩を落としてそう言った。


 *


 セモリナさんに闘剣場に連れて来られたソイル。


 天井も高くこの小さな村には不釣り合いなぐらい大きな建物だった。


「お屋敷の中で魔法を使うと『火事になる』とお父様に怒られるのでここで訓練しますね」


 天井の採光窓を開けながらセモリナさんは雨の日なんかに村人が狩に行けない日はここで剣の鍛錬をしている道場だと説明してくれた。


 この建物なら多少の魔法を使っても火事になる心配はないので思いっきりやれる。

 まあそれ以前にソイルの土魔法の威力では火事になる程の破壊力があるとは思えない。


 セモリナさんがソイルに魔法の実力を聞いてくる。

 

「ソイルくんは魔法をどの程度使えますか?」


「使えるのはシェーマスさんにさっき教えて貰ったサンドの魔法だけです」


 そう言って手のひらに砂粒を一つ出すソイル。


 予想外に魔法の威力が弱くて驚きを隠せないセモリナさん。


「そ、それだけなんですね」


「は、はい」


 この程度ならばわざわざ魔法使いの自分の所に魔法の勉強をしに来る必要は無かったのにと思ったセモリナだけど口に出さず褒めた。


「魔法が使えるのは素晴らしいことですよ」


「そうですか?」


「どんな簡単な魔法でも繰り返し使って訓練を積めば熟練度が上がっていずれ大魔法使いになれます」


 実際土を出す魔法しか使えないシェーマスが土魔法『ソイル』の熟練度MAXのエキスパートであった。


 それを聞いて気を良くするソイル。


 でもセモリナはサンドしか使えないソイルに本格的に魔法を教えるのはだいぶ先になるだろうと肩を落とした。


 *


 その日はサンドの魔法を繰り返して熟練度を上げどうにか安定して出せるようになった。


 最初は砂粒を1個出しただけでも魔力が減るのかどっと疲れる感じがしたけど、日が傾く頃には魔力不足で疲れる感じも無くなり砂粒をソイルの思い通りの場所まで飛ばせるようになった。


 砂粒一つを飛ばしたからって戦闘の役には立たないと思うけどセモリナはソイルを褒めちぎる。


「ソイルくん凄い! もう砂粒を飛ばせるんだね!」


「ありがとうございます。でも飛ばせるのは砂粒だから何の役にも立たないですけどね」


「それでも凄い! その調子で小石を飛ばせるようになるまで頑張ろうね」


「は、はい!」


「今日から私の家に泊まるんでしょ?」


「え? セモリナさんの家に?」


 さすがに若い男が婚約者のいる女の人と同じ屋根の下に寝泊まりするのはまずいんじゃないの?


 変な間違いが起こったら大変だというか、お酒でも飲んだら起こしてしまうかも?


 お酒を飲みなれてないので理性を保てる自信なし。


 もしそんなことを起こしたら、あの盗賊団の親分みたいなブラン村長に首を絞め殺される。


「宿屋に泊まります」


「あー、それ無理」


「へ?」


「この村、田舎過ぎて宿屋が無いんだよ」


 まじぃ?


 てなことでセモリナさんの家と言うか村長さんの屋敷に住み込むことになったソイル。


「戸締りしてくるからソイルくんは外の井戸で顔でも洗って待ってて」


 と言うことで井戸で汗塗まみれの顔を洗ってたら背後から声が掛かった。


「ブンモー!」


 セモリナさんじゃない。


 そこにいたのはソイルの身長よりデカい血走った目のイノシシの魔獣『グレートボア』だった。


 グレートボアは今にも突進しようと後ろ足をばたつかせる。


 魔獣じゃん!


 強敵じゃん!


 こんな魔獣は剣と盾のマスタリースキルを失った今の僕じゃ敵うわけがない。


 やばい!


 やばい!


 こんなのに勝てるわけがない。


 ソイルは生命の危機を悟った。

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