ウッドストックへ
「うひゃ! あひゃ! 死ぬ死ぬ! やめ、やめてー!」
ソイルは今、拷問されている訳ではない。
セモリナさんの操る早馬に乗ってるんだけど、道を走っているという感じじゃない。
道に穴ぼこが空いていたり岩が落ちていて、道が悪すぎなせいか殆ど跳ねていて空を飛んでいるのに近い。
そういえば冒険者の馬車に乗せて貰って初めてハーベスタ村に来た時も酷い乗り心地だったのを思い出す。
「ぐひょー! げぷぽ! そんなにスピード出さないで! 中身出ちゃう……」
すこし先では村長の騎乗する早馬からケイトさんの似たような叫びが聞こえる。
「ソイルくん、もっとわたしにくっついて」
「く、くっつくんですか?」
「鞍の手綱を持つんじゃなく、わたしの胸の辺りを持って」
「胸をですか?」
胸を持てってどうやって持てばいいんだろう?
胸を握れってことなんだろうか?
恐る恐る胸を揉む感じで握ろうとしたら、セモリナさんが褒めて来た。
「そうよ。両手で抱え込むように手を回して」
胸を持てってそう言うことか。
揉まなくて良かった。
さすがに胸は失礼なので腰に手を回した。
セモリナさんはそれでいいという。
「わたしの背中に身体を密着させないと身体が暴れまくって辛いでしょ? 乗る方も大変だけど、暴れられると騎乗する方も大変なのよ」
セモリナさんの背中に身体を預けて密着すると嘘のように身体が跳ねなくなって会話が出来る程度に楽になった。
「本当に楽になりました」
「騎手と一体になると楽なのよ。途中休憩は挟むけど、片道4時間の長旅だから頑張ってね」
なぜ早馬に乗ってるかと言うと、隣町のウッドストックまで移動中のため。
ハーベスタの開拓を始めるのを隣町の町長に報告を兼ねた挨拶をしにいくのだ。
距離が離れているので挨拶は不要と言う考え方もあるけど、隣町として礼儀を欠いてはいけないとのブランさんの強い意向だ。
ウッドストックの町長を窓口に移住者の募集、商店ギルドの新設のお願いもする予定である。
全ての窓口を隣町の町長とすることで、店舗やギルドの選定で甘い汁が吸えるのであればどうぞ吸って下さいというスタンスだ。
「僕らが選定しないでそんなに甘い汁を吸わせていいんですか?」
ソイルがブランさんに聞いてみた。
「昔、村を作る時に色々協力してもらったからな。その時の恩返しさ」
「でも、隣町の町長の選定だと縁故であまり評判の良くない店舗がやってきたりしませんか?」
「あれだけ大きな町を作るんだ。ひとつやふたつ、評判の良くない店舗が来ても問題ないさ。それに隣町の町長はそんなに悪い奴じゃないと俺は信じている」
そういうことらしい。
*
4時間の長旅で着いたウッドストックは人口2000人ほどの割と大きな町だった。
周辺の村からの農産物の流通が主な産業だが、元々は村の名前が示す通り木材の流通で栄えた町だ。
市場の規模が大きく、木材の加工所もソイルの住んでいた街よりも多い。
町一番の高台にある町長の家にブランさんとセモリナさん、ソイルの三人で向かう。
ちなみにケイトさんは乗馬酔いでばたんきゅーでそこらにあったベンチで寝ている。
回復したら建築ギルドに近況報告に向かうらしい。
セモリナさんは丘の上のお屋敷を見て感心している。
「わたし初めて町長さんの家に向かうんだけど、随分と大きいお屋敷だね」
「俺もこんな大きな家は要らねーな。飯食うのもベッドルームに行くのにも移動がめんどいことになりそうだ」
「村が大きな街になったらブランさんに挨拶しにお客さんが沢山来るからそうも言ってられないですよ」
「俺が領主になってソイルを騎士に任命したら俺は即引退するから、ソイルが新町長な」
「ダメよお父さん。わたしは町が出来たらソイルくんといちゃいちゃな新婚生活を送りたいの」
「俺だって母さんとラブラブ生活を送りたいわ。それに俺は村長なら出来るけど、町長とか領主とかやれる柄じゃねーから」
「それは同意しか出来ないわね」
二人で頷き合うブランさんとセモリナさん。
「と言うことで領主の件を真剣に考えておいてな。ソイル、お前ならできる!」
と、強引に将来の領主をブランさんから押し付けられたソイルであった。




