新たなる修行
ソイルが朝ご飯の食材を狩る為に起きると闘剣場から毎度の悲鳴が聞こえた。
「うぎゃー!」
「うぼぁー!」
「きゃー!」
朝一番のブレイブたちの特訓だ。
特訓初日に比べると気持ち悲鳴の間隔が延びている気がする。
狩に同行してくれるセモリナさんがやって来た。
ちなみにケイトさんはいまだベッドの中でぐっすりお休み中だ。
「ブレイブたちも頑張ってるみたいだな」
「この国で最強の戦士のお父さんにしごかれてるんだもん。猛烈な速度で強くなってるからソイルくんもウカウカしてると追い抜かされちゃうわよ」
そうだな。
毎日の開拓の仕事を早めに切り上げて夕方から少し修行をしないと追い抜かされるかもしれない。
その前に……。
「セモリナさん、日課の朝ごはんのボア狩りを手伝ってください」
「もちろん。あ、でもお父さんが狩に出る前に闘剣場に来てくれって言ってたよ」
ブランさんが?
なんの用だろう?
ソイルは闘剣場へと向かった。
*
ブレイブたちはブランさんに絶賛しごかれ中だ。
「遅い! 攻撃が遅すぎる! もっと早く攻撃を繰りだせ!」
「これ以上速い攻撃を出すなんて無理だぜ」
「じゃあ、余裕が出来た敵にぶん殴られるだけだな」
「うぼあ!」
ブレイブは闘剣場の壁に叩きつけられビタンと痛そうな音を立てたのちにズルズルと落ちてきた。
「ローズ! てめーはボウガン使いなら足を止めるな! 止まってるなら撃ってきた矢を投げ返すぞ!」
「あ、危ない物を投げ返すんじゃないわよ! そんなもん投げつけられたら怪我するわよ!」
「怪我するようなものを5発も同時に撃ち込んできたのはどこのどいつだ!」
「てへっ!」
ローズは矢を投げ返される前にどこかへと逃げて行った。
ブランさんが辺りを見回してローズが逃げた場所を探していると、ソイルが闘剣場にやって来たのに気が付いたようだ。
「ソイル、来たか」
「呼ばれたのでやって来ました」
ブランは鍋の蓋のような質素な木製の丸盾を取り出しソイルに渡してくる。
「今日のボア狩りから剣を使うのは禁止な。盾を使って倒してこい」
「えっ? 剣を使っちゃダメなんですか?」
やっと安定して一撃で倒せるようになったのに……。
それに盾は武器じゃないんですが。
不平不満いっぱいのソイルをブランはたしなめる。
「お前、盾のマスタリースキルをまだ取れてないそうじゃないか。練習不足だぞ」
「すいません」
ソイルが怒られているのを見てブレイブが笑っている。
「ボア狩りで使っていいのは盾だけな」
「それでどうやって倒せばいいんですか?」
「俺が知るか!」
村長は無茶苦茶な事をいう。
抗議をする前にソイルは闘剣場を追い出された。
*
「どうだった?」
「盾の訓練をしていなかったから、今日から盾でボアを倒せって」
「これで? 無理じゃない?」
「でもやれって言うんだからやらないとこの村追い出されちゃうよ」
「そうね、お父さん頑固だから……ソイルくんごめんね」
「まあ、僕が盾の訓練を怠ったのが原因だし仕方ない」
ソイルは渡された盾で攻撃を受け止め、殴りつけて倒すオーソドックスな戦法を実践したんだけど……ボアの攻撃を受けた途端、盾が壊れた。
残ったのは金属製の取っ手だけ。
結局、ボアは土魔法でレンガを飛ばしまくって倒した。
「思った以上にこの盾は脆いな」
「そうね……とりあえず新しい盾を沢山貰ってくるね」
「いや、待って……」
「ん?」
「あの盾をまた持ってきても多分同じ結果になると思うから、この盾をレンガで治す」
「レンガで治すって……レンガで直した盾で倒したら土魔法で倒したことにならない?」
「盾で倒せとは言われたけど、盾を直すなとは言ってないから大丈夫だよ」
とんでもない屁理屈である。
ソイルはレンガを使い盾状の物を作り上げたけど……。
「重い、重くてビクともしない」
「確かに重過ぎるわね。これを投げつけてボアに当てれば一撃で倒せるような気もするけど、それじゃレンガで倒した事になっちゃうわね」
「どうしようか……」
二人で悩んでいるとケイトさんが眠そうな目をしてやって来た。
「ごはんまだぁ?」
朝ごはんの催促だった。
「取れはしたんだけど、課題の盾で取るのがまだ出来てないんです」
「盾で?」
修理したレンガの盾を見せるとケイトさんは思いっきり仰け反った。
「ごっつ!」
「重くて持てません」
「なんでレンガで盾を作ってるのよ。もっと小さいキューブを使って作ればいいじゃないの?」
「キューブ? そんな魔法あるんですか?」
「あるわよ。キューブと唱えてみて」
目の前に1センタメトルの白い四角い粒が現れた。
「陶器で出来たキューブよ。これを並べて盾を作ってみて」
で、セット魔法の前に接着の魔法を使ったら盾が出来ました。
金属の取っ手は見なかった事にしよう。
「軽くていいでしょ」
「木の盾よりも軽いですね」
「おまけに強度は鉄以上に硬いわよ……もっとも強度はブロック単位のキューブの話よ。キューブで盾なんて作った話は聞いたことが無いから盾としての強度は判らないけどね」
未検証、でも木の盾よりも遥かに強いのは間違いない。
ケイトさんとセモリナさんは朝ごはんのボアを持って行ったので残されたソイルは一人でボア狩りを始める。
盾で受けようと構えたらあまりにも軽くて振りぬいてしまい、ボアは顔面を殴打され一撃で倒れた。
「つよ!」
あまりのセラミック盾の強さに驚くソイルであった。




